20010225・社説

えひめ丸、沖縄の米軍犯罪…

首相のすげ替えでなく、日米基軸脱却のみが解決への道


 政局は、森首相の退陣必至の段階となった。深刻な不況と国民生活の苦境、KSD事件など、国民の森内閣への支持はほとんど地に落ちていた。退陣の直接の引き金は、約半月前、ハワイで起きた米原潜による実習船えひめ丸沈没事件への対応である。これでは辞任するのは当然のことである。
 えひめ丸事件の最大の責任は、横暴な米軍、米国にある。この責任を厳しく追及しなければならない。毎日のように事件の真相が暴露されたびに、米国に対する国民の不信感は増大するばかりである。加えて、この沈没事件以前から、沖縄で米軍犯罪が頻発(ひんぱつ)している。
 だが、わが国に米軍が居座り、しかもその特権が日米安保条約や地位協定などで保障され、わが国政府がそれを認めている限り、沖縄県などでの凶悪な米軍犯罪・事件は決してなくならない。
 したがって、ことは、決して首相の首のすげ替えで済む問題ではない。それは、なんら根本的解決にはならない。根本的打開は、日米安保条約を破棄し、在日米軍を撤退させるしかない。米国に強い抗議を集中し、そして国民的闘いによって日米基軸の政治を転換させなければならない。

許せない米国、米軍の横暴
 今回のえひめ丸事件は、乗艦していた民間人の操桿(かん)が発覚するなど、驚くべき事件の真相が報道されるたびに、国民の米国への不信感、怒りは深まるばかりである。当然である。
 行方不明者の親族、あるいは救助された者にせよ、船体の早期引き揚げなど悲痛な訴え、要求を続けている。米国は日本側関係者の要求を、全力をあげて完全に実行すべきである。いうまでもなく今回の事件の全面的な責任は、米軍、米国にある。米国は、事件の真相究明と責任者の処罰、被害者への補償など、厳格に行わなければならない。わが国が要求するのは、当然である。
 同時に指摘しておかなければならないのは、こうした事件の背景には、冷戦終了後、最大の軍事超大国として世界中に傲慢(ごうまん)にのさばっている米軍の実態がある。冷戦後、ロシアが財政難で原潜の大幅縮小をした。現在、特に太平洋は米原潜の独り舞台に近いともいわれる。
 沖縄も、全く同じ状況に置かれている。この一月以来、米兵によるわいせつ、放火事件など、悪質な事件が続発した。六年前の一九九五年、少女暴行事件が起こり、県民大会まで開いて県民あげての米軍への抗議行動となった。そして、米軍の綱紀粛正、日米地位協定の運用改善などの措置が取られた。だが、それも見せかけだけだったことは、最近の放火米兵の日本側への引き渡し拒否をみれば明白である。
 他国へ大きな顔で、居座る米軍の横暴を絶対に許すわけにはいかない。

国民より日米同盟優先の政府
 こうした横柄な米国には、毅然として要求しなければならない。
 ところが、えひめ丸事件を知りながらゴルフを続けていた森首相は、それはそれで糾弾されなければならない。それだけではなく共同調査を行うなど、直ちに日本政府自ら米国に乗り込んで対応すべきであろう。ところが実際は、みな米国任せであった。
 しかも、外務省から米国に派遣された桜田政務官なるものは、事件後三日目にして「米原潜の救助作業は適切に行われた」と米軍の代弁をするありさまであった。事故原因究明の調査開始直後で、まだ不明な点が多い時点で早くも米軍の擁護に回ったのである。万事、この調子であり、長年の対米従属の日本政府の体質がしみこんだせいであろう。
 しかし、一連の事件対応のひどさに、さすがに無神経な森首相もついに時期を選んで首を切られるはめになった。だが、注意すべきは、自公保連立のもとで誰が後継首相になろうが、日米基軸、日米安保体制堅持では、事態をどうにも打開できないということである。前述したように、事件の結局の根源はその日米基軸にあるからだ。首相の首のすげ替えで、済む問題ではない。
 ところで、民主党などは事件への対応について、この時とばかりに森首相のゴルフ問題などを盛んに「追及」している。だが民主党などの本音は、「すでに米政府からは謝罪の意が表明されているが、両国政府の事故対策のあり様によっては、国民の対米感情が悪化することを非常に憂慮する」(米国大使への申し入れ)と、日米関係悪化を恐れていることである。したがって、かれらは米国に抗議することは絶対にない。
 もっとはっきり言えば「米軍への日本国民の信頼感が損なわれれば、日米同盟関係が揺らぎかねない」(読売)、事件で日米間の信頼関係が損なわれてはならない、という考えである。そこにあるのは、日米同盟維持が最優先課題であり、国民の生命、安全などは、はるかかなたである。まったくの対米従属そのものである。
 首相の首のすげ替えも連立政権維持のためならば、民主党の本質も党利党略で日米同盟を損なわない範囲の「追及」、対応にすぎない。こういう国民の痛切な願いに反する連中には、厳しい国民の批判を浴びせなければならない。

米海兵隊撤退求める決議相つぐ
 支配層あるいは民主党などが、今回の事件などを通じて、必死に日米同盟維持を画策しようとも、実生活の中で日米安保の本質は暴露されつつある。
 再三本紙でも報道してきたように、沖縄での米軍犯罪、事故は数限りない。今回のえひめ丸事件は、在日米軍に戦後半世紀以上も苦しめられてきた沖縄県民の怒りの火に油を注いだ。現在、沖縄市町村議会による米軍の撤退・削減決議が相次いでいる。少し紹介しよう。
 先月海兵隊員による連続放火事件が発生した北谷町の議会は二月十五日、臨時議会を開き、地方議会として初めて海兵隊の全面撤退を求める抗議決議・意見書を全会一致で議決した。同時に、ヘイルストン在沖米四軍調整官が稲嶺恵一知事らを名指しした中傷メール問題に対する抗議決議も全会一致で決議、同調整官の更迭も求めた。決議では「米軍のいう綱紀粛正は地に落ちた。県民の不信感は頂点に達している」と、相次ぐ海兵隊の不祥事を厳しく批判した。決議では、海兵隊撤退のほか、放火事件について米側に対し(1)容疑者の早期引き渡し(2)被害者への謝罪と被害補償の徹底(3)地位協定改定―などを要求。また、知事や国会議員らを「ばかで腰抜け」と批判したヘイルストン調整官の更迭を求めた。海兵隊員による一連の事件・事故でその防止策を推進する立場にある調整官の指導力にも疑問を投げ掛け、「最高責任者自体が沖縄の歴史を正しく認識しない、占領意識の持ち主だ」と指摘している。
 沖縄では、最近までに六市、十六町村(延べ十八回)の議会が臨時議会を招集し米軍犯罪に抗議決議している。三月定例会で決議する予定の町村議会もあり、今後さらに抗議の意思表示が広がるという。
 さらに、労組の連合沖縄は、米軍基地の整理・縮小などを求め、百万人署名などを開始する。重要な労働運動の動きである。
 沖縄にとどまらず、米国への抗議はさらに全国に広がるであろう。米原潜の寄港地であり、常に原潜にかかわる危険と直面する横須賀市議会は二月二十日、えひめ丸事件に関して、「事故は絶対にあってはならないことであり、到底看過できるものではない」との意見書を採択した。
 今回の事件は、日米安保体制の危険性、本質の一端を教えつつある。そこにとどまらず、安保体制は独立・自主、平和な国の進路、また国民経済の打開の上からも、どうしても打破すべき足かせとなっている。
 対米従属を定めたサンフランシスコ講話条約、日米安保条約の発効から、ちょうど半世紀になるが、文字通りわが国民の犠牲の血で塗られた五十年めとなった。国民の怒りが増大している。広い国民的運動を形成して、国の発展を阻害する足かせを打破しなければならない。