20010215・社説

窮地に立つ森政権

展望は国民的闘い、共同の政治戦線にこそ


 通常国会が始まったものの、森政権はまったく窮地に立たされている。
 今国会において、まず来年度予算を成立させ、景気回復につなげるというのが政府の思惑である。だが、株の下落や四半期の国内総生産(GDP)マイナス成長発表など、景気悪化を示す材料にはこと欠かない。年度末を迎える金融機関、大手企業の「三月危機説」すらある。
 もちろん、自民党主導の連立政治のもとで、しわ寄せがすべて勤労国民に押しつけられ、雇用、収入、倒産など国民生活は最悪の水準にある。これだけでも、国民の怒りはたまっているのに、そのうえ自民党・政府によるKSD事件や外務省機密費横領事件が発覚した。国民の政治不信と怒りは限りなく増幅されるばかりだ。
 ハワイで米原潜による実習船沈没事件も発生し、これへの対応で森政権は米国に何もさせられないぶざまな姿をさらした。
 要するに、森政権は内政、外交とも売国的・反動的で、完全に行き詰まっているのである。
 野党の民主党などは、国会でKSD事件などで政府と対決するポーズを見せているが、あくまで狙いは参院選にあり、決して勤労国民の側に立ったものではない。
 夏の選挙まで待つことはない。国民経済の打開、平和な環境を保障する国の進路を確立することが、緊急に求められている。それには、広範な国民の直接の闘いと、さらに共同の政治戦線を形成して闘うってこそ事態が切り開かれる。

各方面で行き詰まり
 森首相は、施政方針演説で「経済の新生に全力を注ぐ」と表明した。だが、実態は逆で、国会が始まった途端、株価は一時一万三千円を割るなど昨年来安値を更新。ついで昨年七―九月期のGDP成長率もマイナスと発表。そうしたこともあって、日銀が公定歩合引き下げ措置をとるなど、金融機関など大企業の破たん回避(保護)策に政府、当局は必死である。森政権にとって、総じて経済環境はきわめて悪いのである。
 しかし、リストラや行革などで踏みつけにされ、それ以上に犠牲をおしつけられているのは、勤労国民である。昨年の年間平均の完全失業率は九九年と同じ四・七%の最高水準、失業者数は過去最多となった。全世帯の消費支出の面では、昨年はついに八年連続のマイナス。倒産件数は戦後四番目だが、負債総額は戦後最高、などといった具合である。
 こんにちの国民経済の困難は、われわれが何度も主張しているように、対米従属で大企業本位の経済・金融のシステムから来ている。この仕組みを、急いで転換させる以外に打開の道はない。
 国民の生活・営業危機だけでも、森政権に対する怨嗟(えんさ)の声がちまたに満ちあふれている。
 それに加えて、昨年からのKSD事件、外務省機密費の横領事件が相次いで発覚。KSD事件にまみれた自民党は、村上参院議員会長や額賀経済財政担当相の辞任というトカゲのしっぽ切りで、国会乗り切り、政権維持をもくろんでいる。
 はしなくも暴露された二つの事件は、結局は保守政権維持のためにカネがばらまかれたのである。KSDは保守地盤をつくるために、機密費は野党や国会対策のためにである。自民党は、戦後一貫してやってきたこの手法、そして自民党政治が破たんしつつあるのに、いまだに「政治策略」と併せて使わざるを得ない。
 これら事件は、われわれに九三年の自民党単独支配の崩壊につながっていくリクルートや佐川急便事件を想起させる。いずれにせよ、自民党政治の危機、国民のますますの離反は避けられない。
 同時に、公明党の神崎代表は、ことあるごとに森首相に注文をつけ、あたかも自民党と距離があるように見せかけている。だが、自民党に身を寄せて連立政権を組んで悪政を進め、いくらかおこぼれにあずかる公明党も、また国民、支持者から手厳しい批判をくらうだろう。
 森政権がまったくの窮地にある状況のもとで、国民の当面の切実な要求実現のためにも、政治の仕組み転換のためにも、断固大衆行動で闘えば道は開けるに違いない。

だが米国追随は明確
危険な有事法制策動を許すな
 森首相演説では、論議の焦点の一つとなっているKSD事件などについては「他人事のように」触れた程度だが、こと外交・安保問題での対米従属となると非常に明確である。
 それは最近も、わが党の山本正治副議長の抗議談話にあるように、ハワイで起きた米原潜の実習船沈没事件への対応でまたもやはっきりと示された。
 さらに森首相は、「二十一世紀前半の『アジア太平洋地域における日本外交の基本戦略』は、日米同盟関係を基軸」として「日米安保体制の充実」を約束、さらに「有事法制は検討を開始する」と初めて演説で述べた。わが国の外交・安全保障の全体は、要するに戦略上、引き続き米国のアジア戦略に従うということにほかならない。
 注目すべきは、有事法制の検討開始の表明である。有事法制は、九七年の新日米防衛協力指針(ガイドライン)の策定以来、問題になってきたものである。だが、今回の有事法制検討は、米国の強い圧力のもとで打ち出されている。
 昨年秋、米国はアーミテージら超党派の安保問題専門家の報告という形で、東アジア戦略の調整、わが国のいっそう強力な軍事協力を突きつけてきた。その報告は、日米同盟を米英関係並みの関係に引き上げよというもので、具体的に日本に対して「集団自衛権行使」と共に、「有事法の制定も含めて、新日米防衛協力指針の着実な実施」などを要求したものである。
 自民党の野中前幹事長も、「同盟国とはお互いに責任を果たすことであり、米国が攻撃を受けたときには集団的自衛権が発動される」と森首相と歩調を合わせている。
 昨年十二月に政府が策定した「新中期防衛力整備計画」は五年間で総額二十五兆円を超え、この中に空中給油機や大型ヘリ空母護衛艦整備などを盛り込み、いちだんと軍備拡大することによって、集団自衛権行使などと共に米国の要求にこたえようとするものだ。
 これらは、米国の戦略にくくりつけて、わが国をいっそう危険にさらすきわめて亡国的なものである。断じて認めてはならない。日米安保条約を破棄し、米軍基地撤去を撤去しなければならない。

森政権不支持が7割も
 こうした森政権について、日経、毎日調査の最近の内閣支持率は相次いで最低を記録、わずか一四〜一六%程度となった。不支持に至っては約七〇%である。自民党支持も減りつつあり、国民の自民党離れは確実に進んでいる。末期症状といってよいであろう。
 他方、野党、特に民主党などはあたかも政府と対決しているかのように見せるが、実態はそうではない。鳩山代表は国会討論でも「構造改革という困難な道を、英断をもって突き進め」「規制改革を断行して市場原理に基づく公正な競争を促進する」と述べ、客観的にリストラや弱小中小企業の淘汰(とうた)などを促進しようとしている。もちろん、憲法改悪、集団自衛権行使などは、従来から主張している。事実上自民党と悪政を競っているにすぎない。こういう連中は、決して勤労国民の切実な要求を代表して「対決」しているわけではない。だから、当てにできないのである。
 他方、九州では一月から、有明海沿岸四県のノリ養殖漁民六千人が死活をかけて相次いで決起した。大分での米軍実弾演習には、一万人の労働者が反対に立ち上がった。米軍の暴行・暴言事件が続く沖縄でも一月、県議会が初めて海兵隊削減を決議した。工場閉鎖に全国で二十四時間ストを打った電機労働者もいる。
 国民の当面の生活要求を実現するには、何よりもこうした大衆的行動こそ、最も確かなものである。
 こうした大衆的闘いを基礎に、対米従属、大企業本位でない政治の転換をめざして共同の政治戦線の形成が求められている。