20001215 社説


安保破棄の旗掲げ、新たな国の進路を

集団自衛権など、軍事大国化を許すな


 間もなく新世紀になろうとするが、日本はどこへ行くのか。
 第二次森改造内閣が発足したものの、森政権に対する国民の深い不信感は世論調査でも明白で、自民党主導の連立政権の危機は基本的に変わっていない。内政、外交とも完全な行き詰まりを呈している。
 先の臨時国会では、内閣不信任案をめぐる茶番劇の陰に隠れていたが、「周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律」と米軍への「思いやり予算」を正当化する「在日米軍駐留経費の日本側負担に関する新特別協定」が与党三党や民主党の賛成で成立した。船舶検査法の成立によって日米軍事協力の指針(ガイドライン、一九九七年)関連法の体制が整ったといわれる。
 だが、ことはガイドライン関連法整備という段階にとどまらない。すでに米国側から集団自衛権行使など、米戦略のもとでわが国がより大きな軍事的役割を果たすよう、エスカレートした対日要求が突きつけられている。
 日本は米戦略に従って、アジア諸国に敵対する軍事大国の道を選ぶのか、それとも対米従属の現状を断ち切って、アジアと平和的に共生するのか、二十一世紀はわが国の進路がいっそう鋭く問われることになる。朝鮮半島をとりまく情勢は大きく変化しつつある。わが国外交が、この変化に立ち遅れていることを危ぐする声は国民の間に広がっている。
 いまこそ「安保破棄」の旗を高く掲げ、対米従属の鎖を断ち切り、アジアと共生する国の進路を、広範な戦線を築いて切り開かなければならない。そこにこそ、わが国の展望がある。

集団自衛権行使など軍事大国化狙う
 成立した法案よれば、船舶検査は日本周辺の有事の際に米軍が軍事行動を起こし、相手国を経済封鎖する場合に、これに協力して自衛隊が公海上で他国の民間船を停船させて乗り込み、積み荷や目的地を調べて、必要ならば針路を変更させる活動である。
 すでに昨年五月、ガイドライン関連法案として周辺事態法、自衛隊改正法などが成立した。その際、船舶検査法については自由党と公明党との対立で保留になっていた。
 最近の米国での提言にあるように、仮に米軍が朝鮮民主主義人民共和国や中国と対決し、経済制裁をもくろむ場合、自衛隊が出動して民間船の船舶検査を実施することになる。日本が米軍側について、北朝鮮、中国と対決し、わが国が好むと好まざるにかかわらず米国の戦争に巻き込まれることになるのである。
 特別協定による米軍への思いやり予算は、いうまでもなく一九七八年以来、法的根拠がないにもかかわらず米軍を「思いやり」、日本人従業員の福利費などの名目で日本の予算をつけたものである。以後、二〇〇〇年度予算では二千七百五十五億円に達している。もちろん、きわめて対米従属、屈辱的なものである。
 支配層は、今後さらに国連平和維持軍(PKF)の本体業務凍結解除や有事法制定などを狙っている。昨年十月の自民、自由、公明の連立(当時)三党合意は、有事法制整備、領海警備法制整備、PKF本体業務凍結解除、国連活動参加への法整備で合意した。この方向は、支配層が今後さらに多くの策動を準備することになる。
 これ以上の米軍への協力体制、わが国の軍事大国化の方向を許してはならない。

米国の戦略調整と強まる対日軍事要求
 問題は、これだけにとどまらない。最近、新大統領選出を目前にして、米国からとみにわが国へ軍事・外交協力のエスカレート、日米軍事同盟のよりいっそうの双務化を要求する声が高まっている。
 それは、大きく変化するアジア情勢、米国によるアジア政策の困難さ、米中関係緊張などの分析、見通しを背景に、かれら自身の必要性に基づいての要求である。米国家情報会議(NIC)報告(九月)やアーミテージ、ナイ両元国防次官補らによる提言「日米、成熟したパートナーシップに向けて」(十月)は、そのことを集中的に表明している。
 アーミテージらの提言は「朝鮮半島、台湾情勢など米国が瞬時にして大規模紛争に巻き込まれる可能性がアジアにはある」と見通し、「二十一世紀に向けて日米は早急に安全保障の共通認識と対応を確立しなければならず」「新ガイドラインはその意味で、同盟における日本の役割拡大へのステップと見なすべきだ」と、新ガイドラインをステップ台として、さらなる日本の役割拡大を露骨に要求。具体的には、集団的自衛権禁止の解除、国連平和維持軍(PKF)参加凍結の解除、有事法の制定などとあわせて、新ガイドラインの着実な実施を求めている。
 要するに、かれらは東アジア戦略(九五年策定)を基本とし、新たなアジア情勢に対応するため、中でも「米中関係の緊張で、(アジア)地域各国が米中どちらを取るかの選択を迫られ、米国への支持を減らす」(NIC報告)と、強大化する中国の出現阻止に戦略的照準を合わせている。
 米国は、二十一世紀に向けて(もう間もなくだが)新たな日米安全保障体制の確立を迫っているのである。しかし、その選択は今後のわが国の繁栄と、そのための平和で安定した東アジアという国際環境を決して保証するものではない。逆にアジアとわが国を敵対する位置に置き、わが国をいっそう困難に追いやるだけである。

自主・平和の国の進路を
 アーミテージらの提言に対し、わが国には、集団的自衛権が行使できるよう「日本を変革するチャンス」(岡崎久彦・元駐タイ大使)などと、高く評価する向きもある。さらに岡崎は「日本のアジア戦略が、日米二国間同盟を基軸としている」ともいう。これこそ、典型的な従属論である。結束して自主的傾向を強めるアジアに対して、わが国は永遠に独立・自主の対アジア外交ができず、米国に従属していなければならないことになる。そんなことはない。
 一方、最大野党の民主党も最近、自衛隊の海外軍事活動をより自由にする国連平和維持活動(PKO)参加五原則の緩和、自衛隊を領域警備に活用する緊急事態法案などを提案し始めた。鳩山代表に至っては、紛争を軍事力で鎮圧するPKOへの派遣、そのための改憲まで提唱している程だ。鳩山氏は、アーミテージらの提言以来、集団自衛権行使、改憲主張のトーンをいちだんと上げている。米国の対日要求に直ちにこたえ、併せてわが国の軍事大国化を狙ったものである。きわめて反動的で、対米追随によって、米国の信任を得て政権を狙う動きである。
 日米安保体制の下にある限り、日本は米国の戦略にしばられ、中国、朝鮮などアジア諸国との敵対的な関係に追い込まれるだろう。船舶検査法の成立はそんな危険な道への一歩でもある。今後、さらに軍事大国化の危険な道をもくろむに違いない。
 こんな事態を避けるためには、日本の進路を束縛している日米安保条約をまず何よりも破棄しなければならない。米軍基地を、沖縄や日本全国から撤去すべきである。自主・平和外交を確立して、アジア諸国の人びとから信頼される道を進まなければならない。
 そうした広範な世論をつくることは、十分可能である。東アジア情勢の変化などを背景に、あまりの米国支配に対する反発、軍事大国化への懸念は国民各層に広がりつつある。例えば、後藤田正晴・元副総理は最近、日本は「日米安保条約はそろそろ見直しの時期になっているのではないか」「日米は軍事同盟から友好のための同盟にすべきだ」と主張している。
 わが国の安定と繁栄をめざし、アジアと共生できる平和な国際環境をつくるために「日米安保条約破棄」の旗を高々と掲げ、広範な国民的戦線をつくって進むことが求められている。


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