「米国の後押し」で政権狙う鳩山氏ら

20001115　社説

調整迫られた米「東アジア戦略」

「米国の後押し」で政権狙う鳩山氏ら

　米国大統領選挙は大混乱で、この時点でまだ決着がついていない。それにしても開票のドタバタぶりは、その唱える民主主義がどんなものかを満天下に暴露すると共に、米帝国主義落日の二十一世紀を世界中に予感させている。
　新政権が成立すればその内外政策はしだいに明らかになり、世界情勢とわが国への影響について慎重な検討が必要となる。いずれにしてもいくらかの変化は避け難いであろうが、それは主に大統領が変わったからではない。内外情勢が変わったか、変わる可能性が読み取れるようになって、米国支配層が対応を迫られているからにほかならない。
　好景気が続いた米国経済もすでに後退局面に入って、急激な衰退すら避けられないのではといわれるようになった。バブル化した株価も調整局面に入っており、暴落の危険も高い。また、年四千億ドル超が確実となった経常赤字問題は深刻で、ユーロ安・ドル高局面から一転してドル安、さらには「暴落」の懸念もある。
　国際情勢では周知のように、南北朝鮮の和解と協調、統一への自主的な動きが始まり、東アジア情勢に画期的な変化が進んでいる。アジア各国の米国離れ、自主的な傾向がいちだんと発展する兆しである。暴騰した原油価格問題、中東和平問題の行方も混とんとしている。
　新政権は内外の新たな困難への対処が迫られている。わが国が、日米安保体制に縛られ対米追随を続ける限り、米国の難問がそのままわが国の新たな重荷となるのは間違いない。
　
各国との矛盾激化で政策遂行は困難

　米国は、冷戦終えん後の世界で唯一の超大国として、旧ソ連のような敵対する国の出現を二度と許さず、特にアジアで中国の超大国化を阻止し「普通の国」に封じ込め、世界的規模の権益を貫くことを国家目標にしている。九五年にナイ国防次官補（当時）らが中心となって取りまとめた「東アジア戦略」は、その一部、アジアでの戦略である。
　一方、中国はますます興隆しているし、アジア各国はおしなべて九七年のアジア金融危機をへて、米国や国際通貨基金（ＩＭＦ）の干渉に反発し、いっそう自主的傾向を強めてきた。六月の南北朝鮮首脳会談の成功は、アジア情勢全体に大きな影響を与え、こうした流れを促進している。
　いま米国は、その東アジア戦略を変更しないものの、この新しい情勢への対処が必要となった。
　最近、米国家情報会議（ＮＩＣ）は「東アジアと米国―現状と今後五年の展望」と題した報告をまとめた。そこでは東アジアの新情勢の結果、「米国と東アジア主要国の間の相違は広がり、米国の政策遂行は困難になる」と危機感を表明。人権、民主化などを口実に各国の主権を犠牲にする米国の一方的な介入への抵抗も強まると指摘している。さらに今後、事態を悪化させる動きとして、(1)米経済の衰退は避けられず、それを転嫁するため日本などアジア各国にいちだんの市場開放などを求める結果、貿易での対立が激化すること、(2)朝鮮南北の緊張緩和の結果、その口実を失った在日、在韓米軍が両国民の反感を高めるざるを得ないこと、(3)台湾問題を中心に米中関係の緊張激化は避けられず、地域各国が米中どちらを取るかの選択を迫られ、米国への支持を減らすこと―をあげている。
　米国新政権は、さらに困難な新しい情勢への対処が問われ、「東アジア戦略」の調整と推進が迫られたのである。米国の戦略遂行にとって、日本の役割がいちだんと重要となるのは言うまでもない。

日米「双務」同盟は米戦略の中核

　さらに十月十一日、民主、共和両党のアーミテージ、ナイ両元国防次官補ら対日政策に影響力を持つ超党派の米有力者グループは米新政権への「対日政策」勧告の提言をまとめた。
　「中国は社会、経済変動の最中にあり、その結果は不透明だ。朝鮮半島、台湾情勢など米国が瞬時にして大規模紛争に巻き込まれる可能性がアジアにはある」と、戦争の危険を想定しながらも自主的傾向の発展するアジアと対抗し、自国権益を守ると表明している。だが、独力ではもはや困難で、これからは日米同盟を「米国の世界安保戦略の中核」にすえる必要があると強調。しかし、「日本の集団的自衛権否定は、同盟関係の制限となっている。集団的自衛権への制限を日本が無くすことで、緊密でより効果的な両国の協力は可能となる」といって、わが国憲法の改悪、集団的自衛権不行使の原則を放棄するよう求めている。
　また、国連平和維持軍（ＰＫＦ）への参加凍結の解除、有事法制の制定、さらに中央情報局（ＣＩＡ）との情報協力の強化などを求めている。こうして「米英関係をモデルに」、日本が米国にとって「より平等な同盟国」、すなわち双務的な関係への転換を提唱。「バードンシェアリング（負担の共有）」ではなく「パワーシェアリング（力の共有）」へと進化する時だという。もちろん、「より平等�というが、真の平等でないことはいうまでもない。昨年のユーゴ介入で英国政権は、米国の要求を一〇〇％無条件で受け入れ、率先して爆撃に乗り出した。米英関係がモデルということは、台湾問題で同様の役割を日本に迫っているのだ。
　新政権となって、こうした方向で東アジア戦略が調整されようとしている。特に提言が、「日米同盟」か「日本のアジア化」かと、二者択一を迫っていることは、二十一世紀におけるわが国の国際社会での進路にとってきわめて重大な問題である。「（冷戦終了後）日本は欧州連合のような機構をアジアに築くアジア化というアイデアにとりつかれた」と、日本の支配層の中に広まった「アジア化」傾向を真正面から攻撃する。ＮＩＣ報告にあるように、台湾海峡問題で米中関係が緊張した時、アジア諸国、特にわが国は選択を深刻に迫られるからである。だが、自主的な傾向が発展し、二十一世紀の世界経済の中心とまでいわれるアジアと敵対して、わが国の真の国益が貫けないことは明白である。米国に従っては、わが国はアジアで孤立し、繁栄は不可能である。

米国の干渉に期待託す鳩山代表ら

　提言は、わが国政治の「変革」をも公然と求めている。「若い世代の政治家の登場によってのみ新たな取り組みが可能だ。いまの政権指導部が改革に取り組むとは考えられない。若い世代は経済力だけで日本の末来は切り開けないと考えており、国家主権への新たな尊厳に目覚めている。今後の日米関係を考慮する場合、この意味の変化は大きな意味を持つ」と。いまの政権指導部はだめで、「若い世代の政治家のみ可能」こう断言している。これほど露骨な内政干渉はない。どんなに腐った、国民大多数から見放された現政権指導部であるにせよ、米国からとやかく言われる筋合いはない。
　驚くべきことにわが国の一部政治家たちは、こうした米国の動向をチャンス到来と見て行動を起こしている節が見られる。民主党の鳩山代表は「集団的自衛権を一切認めないと国際貢献を十分にできない。憲法の中でそれをしっかりうたったほうがいい」などと、米国の要求とウリ二つで、憲法を改悪し集団的自衛権を明記すると繰り返し発言し始めた。米国の要求を知った上で、それに積極的にこたえることで政権に近づこうとしている、との批判ははずれていない。鳩山が米提言での指摘を自分のことと思ったのは当然といえば当然である。自民党の加藤紘一元幹事長の突然の動きも違うだろうか。米国の了解と後押しなしに政権につけないとの認識が、わが国の「政治常識」である。外国に通じ、その後押しで政権を狙うとは、国を売る犯罪といわれて当然である。
　アジアで自主的な流れがいちだんと強まる中、こういう連中に、二十一世紀のわが国の将来を託すわけにはいかない。いまこそ真の独立・自主の政治が求められている。自主的な国の生き方を求める広範な勢力は連携し「対米追随の日米安保体制打破、自主外交と米軍基地撤去の実現」の政治をめざさなければならない。

【集団的自衛―自国と密接な関係にある同盟国（軍）に対する武力攻撃に対して、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず武力をもって共同して戦うこと。すなわち双務的な同盟関係となる】

20001115 社説

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