1.
朝鮮半島における民族和解と自主的統一をめざす急速な動きにもかかわらず、日朝関係にはかばかしい進展が見られない。7年半ぶりに日朝国交正常化交渉が再開され、4月に第9回会談、8月に第10回会談が開かれたが、日朝両国の主張は平行線をたどり、日朝関係の改善は足踏み状態である。10月に第11回会談が予定されているが、交渉が大きく進展する見通しはない。
日朝関係の進展が見られない中で、北朝鮮の金正日総書記の特使、趙明録・国防委員会第一副委員長が訪米し、米大統領、国務長官、国防長官とあいついで会談した。オルブライト国務長官が近く訪朝し、金正日総書記と会談することにも合意した。米朝関係は正常化に向けて大きく動き出した。
自主性のない日本政府だけが、情勢に立ち遅れて取り残されている。日本政府が米国に追随して、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を敵視する「拉致(らち)疑惑」やミサイル問題の解決を国交正常化の前提条件にしているからである。
対米従属論者の典型と言える元駐タイ大使の岡崎久彦は、10月9日の読売新聞で「日朝正常化 遅れを恐れるな」と、次のように述べている。日本としては「友好国の意向を尊重して、その政策の邪魔にならないように後ろからついて行くのが賢明なやり方であろう。90年代初めのように、国内的理由から日本が先走った場合、批判は早晩避け難いと考えねばならない」。「日本はおそらく(北朝鮮との関係正常化について)世界で最も遅れることになるであろう。そしてそれが正しい」。
独立国としての誇りもなく、まさに売国奴の弁である。こうした対米従属路線が日朝関係の改善をはばみ、国益を損なっているのである。
2.
南北首脳会談以降、朝鮮半島では民族和解と自主的統一をめざす動きが急速に進み、韓国では在韓米軍に対する反発も強まった。米国の思惑を超える勢いで進む朝鮮半島情勢に、危ぐを抱いた米国は米朝関係改善へと踏み出した。米国のコントロールのもとで南北統一を進め、統一後の朝鮮半島に米軍基地を維持し、中国ににらみをきかそうという米国のねらいが困難になるからである。だから、米国は南北両国に対する主導的位置をとりもどすため、米朝関係の改善を進めざるを得なくなったのである。
北朝鮮はペリー報告を逆手にとって各国との関係を正常化し、米国による包囲を打ち破る積極外交を展開してきた。さらに、朝鮮半島情勢の好ましい変化を背景に米国から譲歩を引き出し、いっきょに米朝関係の正常化に踏み込もうとしている。北朝鮮にとって、米朝関係の改善は、自国の経済を建て直し、安全を確保し、さらに外交的立場を強化する上で有利になるからである。米朝関係が進展すれば、米国の顔色をうかがう日本政府も国交正常化に前向きとなる。北朝鮮はそう読んでいるのであろう。
3.
政府与党は、北朝鮮に対する50万トンの食料支援を決定した。それはそれで日朝会談を友好的な雰囲気で進めるのに役立つだろう。だが、政府が誤った主張をあらため、侵略と植民地支配の謝罪と補償を優先する原則的な立場に立たなければ、日朝交渉の行き詰まり急速な進展は望めない。
自民党の内部からも「拉致疑惑」は対米追随・北朝鮮敵視の産物だという批判があがっている。中山正暉衆院議員は次のように述べている。
「朝鮮に対してはまず日本の敵視があった。例えば日朝交渉でも出ている『ら致問題』。新潟少女の場合、20年前には行方不明とされ、『ら致』などという話にはなっていなかった。97年に発表された警察白書が、『ら致』容疑について触れると、それに合わせるように北からの亡命者が韓国で『ら致』について語り、話に火が付いた。時期の一致には大きな力が働いたものと思われる。もう一つは、米国の一貫した『韓国びいき』だ。米国は朝鮮半島の一方に軍事的、経済的に加担してきた。日本の公安は、それに合わせて『北の脅威』をあおってきた。政治家としての勘だが、色々でている話は、幽霊のように実態のないものだと思っている」。
支配層の内部も対米追随一色ではない。隣国と仲良くしようというのは当然の国民感情であり、国交正常化が先延ばしになれば国民の批判が高まるだろう。国交正常化が遅れるほど日本の国益が失われる。政府は決断を迫られているのである。
4.
日朝国交正常化を実現するために、日本はまず第一に、過去の侵略と植民地支配を謝罪し、その補償を誠実に行わなければならない。
1910年の韓国併合以来、一世紀近い朝鮮との不正常な関係の責任は、朝鮮を侵略し、植民地支配した日本にある。その謝罪と補償なしに正常な関係を回復できないことは、誰でもわかる道理である。謝罪は「村山談話」で処理済みだ、補償はしない、償いを意味しない請求権・経済協力ならば応ずる、という政府の傲慢な態度は許されない。誠実な謝罪と補償は独立国としての品位を損なうものではない。逆に謝罪も補償も拒否する傲慢な態度こそ、日本の尊厳を傷つけ、独立国としての信頼を失わせるものである。
第二に、北朝鮮に対する敵対的な姿勢をあらため、「拉致疑惑」とミサイル問題の解決を国交正常化の前提条件だとする主張をとりさげるべきだ。「拉致疑惑」には何の証拠もない。日本が米国に追随して「北の脅威」をあおってきた北朝鮮敵視政策の産物である。まして、60万、70万という朝鮮人の強制連行とは比較すべくもない。ミサイル問題について言えば、日本は自ら人工衛星打ち上げのロケット発射をくりかえしてきた。米国のミサイルに対しては、問題にするどころか、逆に戦域ミサイル防衛(TMD)開発に協力している。その日本がミサイル問題の解決を国交正常化の前提条件とするのは筋が通らない。
日本は、このように侵略と植民地支配の謝罪と補償を優先する原則的な立場に立って、日朝国交正常化を即時実現すべきだ。だが、対米従属で、森首相みずから「拉致疑惑」を言い立てる森政権には、決断する意志も能力もない。民主党も「拉致疑惑」やミサイル問題の解決を主張し、政府与党と変わらない。このような森政権や民主党を暴露し、日朝国交正常化即時実現を求める国民の世論と運動を発展させなければならない。
5.
政府は、日朝国交正常化を主導的に決断し、朝鮮半島で進んでいる好ましい変化を加速し、アジアの平和と安定に貢献する道を即刻選択すべきである。
先のアジア通貨危機と国際通貨基金(IMF)介入の経験は、アジア諸国は互いに協力して自主的な道を歩まなければ、経済の発展も平和と安定も保障されないことを思い知らされた。
朝鮮半島における民族和解、自主的統一への動きも、アジアの自主的傾向の発展と不可分である。東南アジア諸国連合(ASEAN)も北朝鮮のASEAN地域フォーラム(ARF)加盟を歓迎した。アジアの自主と米国の覇権がしのぎを削って争っているのである。
そうしたアジアで、日本はひき続き米国のたいこもちのように振るまい、アジアの自主を抑制する役割を果たして孤立するのか、それともアジアの信頼を回復してアジアと共に生きるのか。日朝国交正常化は日朝の二国関係だけでなく、アジア情勢に大きな影響を及ぼし、日本の進路を左右するものである。
日本は日朝国交正常化を決断し、21世紀の日本に展望を開かなければならない。
Copyright(C) The Workers' Press 1996-2000