20000905 社説


日朝国交交渉

「過去を清算」し、早期の国交正常化へ広範な国民運動を


 日朝国交正常化交渉(第十回)が、本年四月に続いて八月二十二日から東京などで開かれた。
 第九回会談と同様、日本側は日本人拉致(らち)疑惑など「国民の納得がいく形で懸案の処理を」と述べ、いわゆる諸課題の一括解決方式を提案。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)側は「『過去の清算』を優先すべきだ」と主張して、対立した。
 わが国は、補償要求には応じず、北朝鮮側が存在すらも否定する拉致疑惑の解明を最優先課題として対立している。
 これは、わが国が米国の東アジア戦略に沿って、国交正常化交渉を北朝鮮をけん制する場として利用していることを示している。ましてや森政権には、早期の国交正常化に踏み切る姿勢は毛頭見られない。
 すでに周知の通り、朝鮮南北首脳会談開催のように、朝鮮半島を取り巻く情勢は大きく変化している。にもかかわらず、わが国のアジアへの敵対的態度は許されない。
 日朝国交正常化は、両国関係の正常化にとどまらず、東アジアの平和と安定に大いに役立つものである。もちろん、それがわが国の国益にかなうものであることは言うまでもない。「北朝鮮が地域の平和と安定にとっての脅威となっている現状には何の変化もない」「日本側が交渉を急ぐ必要はない」(読売社説)などという反動的論調とは闘い、広範な国民運動によって森政権に決断を迫り、早期の国交正常化を実現させなければならない。

交渉を北朝鮮けん制に使うな
 今回の会議の冒頭、日本側の代表である高野大使は、「森首相をはじめ今の内閣はできる限り速やかに国交正常化したい意思を持っている」といいながら、「日朝間のいろいろな問題、懸案は国民の納得がいく形で処理されていくことが不可欠だ」と発言し、「過去の清算」と日本人の拉致疑惑や核・ミサイル開発問題などを包括的に解決する必要があるとの立場を表明した。「過去の清算」は事実上経済協力で行うことも、初めて表明した。この有償・無償経済援助を適用する方式は、日韓関係の正常化の際、使われたという。
 問題は、形式はともかく、相手に誠意が通じる謝罪と補償を行うかどうかである。現在の日本側のように、のらりくらりと引き延ばす手法は許されない。
 一方、北朝鮮の鄭首席代表は、「日本政府が過去の清算の意思があるならば、真剣に建設的に対応してほしい」「過去の清算は既存の前例にこだわらず大局的な見地から解決すべきだ」と発言し、植民地支配への謝罪と補償など「過去の清算」を優先的に解決すべきだと原則的な立場を再度表明した。
 拉致疑惑についても、北朝鮮側は「その問題はそもそも存在しない。行方不明者は調査する」と言明し、三月の赤十字会談で合意している。
 結局、交渉方式は双方対立したままで、次回会談を十月に開催すること、日朝両外務省職員の相互訪問などで合意して今回は終了した。
 約七年五カ月ぶりに平壌で再開された本年四月の日朝交渉(第九回)で、すでに両国の基本的主張が出されている。
 日本側は、日本人拉致疑惑、ミサイル問題、核開発疑惑、日本人妻里帰り問題、不審船侵入事件、生物・化学兵器開発疑惑、覚せい剤、貿易債務問題の八項目解決を要求した。北朝鮮側は、まず「過去の清算」すなわち、謝罪を公式文書に明記、被害者の納得する補償、文化財の返還と補償、在日朝鮮人の法的地位の保証の四項目を要求した。
 戦後五十五年も経過したのに、中国、朝鮮、東南アジアで、「過去を清算」し、国交正常化ができていないのが、唯一北朝鮮である。わが国は、侵略した責任に基づいて、「過去を清算」し、早期に正常化に踏み切るべきである。

朝鮮半島情勢の激変
米戦略につき従う日本

 四月の日朝交渉以後、朝鮮半島をめぐる情勢は激変した。
 朝鮮半島における分断後初めて行われた六月の南北首脳会談は、歴史的な成功を収め、南北朝鮮関係改善の動きは急速に高まっている。すでに民間レベルで始まっていた経済交流は、八月末の閣僚級会談で経済協力を推進することになった。八月十五日には離散家族の相互訪問が初めて行われた、九月二日には非転向長期囚の北朝鮮への送還が行われ、離散家族再会の拡大に向けた南北赤十字会談も予定されている。さらに南北横断鉄道「京義線」の連結工事起工式が九月十五日前後、南北同時に行われる。こうした動きは、米国の思惑をも超える早さである。
 外交面でも東アジア諸国との関係改善はめざましい。七月タイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)は、北朝鮮を初めて招請した。七月にはフィリピンとの国交回復を実現し、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟十カ国中、ミャンマーをのぞく九カ国と国交を樹立している。加えて、最近はカナダ、ニュージーランドとも年内国交樹立で合意している。
 こうした急速な動きに、わが国は完全に「バスに乗り遅れている」。結局、米戦略につき従っているからにほかならない。
 米国は、東アジアに十万の米軍を駐留させ、日米や米韓などの二国間の同盟関係を強固にしながら、北朝鮮や中国を(米国を中心とする)国際社会の中に取り込もうとする東アジア戦略構想を持っている。昨年のペリー報告では、軍事力による圧殺か、それともミサイル開発などを中止する北朝鮮の譲歩かという、二者択一を迫った。
 ところが南北首脳会談の成功など、米国抜きで朝鮮半島の和解と統一が進むことに焦りを感じた米国は、六月二十二日、オルブライト国務長官を中国と韓国に派遣した。韓国では「米軍の維持を訴え、撤退や縮小を議論するのは時期尚早」とクギを刺した。さらに六月二十五日の朝鮮戦争ぼっ発五十年式典で、クリントン大統領は「朝鮮半島は依然として緊張状態にある。南北首脳会談に幻想を持つべきでない」と朝鮮半島の緊張をあおる発言を行った。
 七月末、来日したオルブライト国務長官は、森首相との会談で「米国は北朝鮮との間で必ず日本人拉致問題を取り上げている。日本や韓国もミサイル開発問題を取り上げるようにしてもらいたい」とクギを刺した。これに森首相は「北朝鮮の問題は甘く見るべきではない」と同調した。
 しかし、米国や日本とのかけひき、闘争をはらみながら、朝鮮民族自身による和解と統一の動きは進み、ASEANのように、国際世論もそれを熱望している。

国民世論を喚起し、国民的運動を
 まずわが国が対米追随を脱却し、独立・自主で、アジア外交を転換しなければならない。米国の東アジア戦略に沿って新ガイドラインを発動し、北朝鮮、中国を敵視し、朝鮮、台湾「有事」に介入しようとすることをやめるべきである。
 北朝鮮との交渉ではわが国が戦前の三十六年間、植民地支配と戦争により朝鮮民族に与えた苦難、また戦後米国の朝鮮戦争や南北分断に手を貸してきたことに対して当然、謝罪と補償を行うべきである。こうした態度を打ち出せなければ、北朝鮮の信頼はもちろん、アジア諸国からの信頼も得られまい。
 そうして直ちに国交正常化を実現しなくてはならない。それが、東アジアの緊張を緩和して平和を確立し、わが国が二十一世紀にアジアと共生できる道であろう。
 朝鮮半島をめぐる情勢の激変のもとで、国民の中にも北朝鮮との友好・国交を願う雰囲気は高まっている。日朝友好の大衆的運動は、全国各所でさまざまな形態である。国民世論を喚起し、それらの流れを糾合して大きなうねりとし、早期の国交正常化を森政権に迫る国民的運動はいよいよ重要となっている。


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