20000825 社説


日債銀・新生銀問題

大銀行支援へばく大な税金投入を認めるな


 一私企業にすぎない「そごう」や新生銀行(旧日本長期信用銀行)を、なぜ何千億円もの国民の税金で救うのか―こうした国民の非難が巻き起こったのは、つい二カ月前だった。
 ところが、いま再び膨大な血税を投入して大銀行を優遇する策動が、森政権によって進められている。現在、特別公的管理(一時国有化)されている日本債券信用銀行の九月一日の売却予定問題が、それである。 リストラによる戦後最高水準の失業、倒産、果ては自殺者の激増など、国民の深刻な苦難をよそに、ぬけぬけと大銀行、大企業のみを優遇する、これほど人をばかにした話はない。
 だが、野党の民主党などはこの森政権の策動と真っ向から対決せず、決して真剣に勤労国民の生活と営業を守ろうとはしない。かれらの関心事はもっぱら次の参院選挙や政治再編にある。
 労働者階級、中小商工業者、農民などは民主党など野党にも幻想を抱かず、各層は連携して闘い、こうした連立政治を打ち破って政治の転換をかちとらなければならない。

70兆円銀行救済システムが根本問題

 今回の問題をめぐって、銀行譲渡(売却)の際、あたかも瑕疵(かし)担保条項を削除すれば、今回の問題が解決するかのような議論が一部にある。
 例えば、菅民主党政調会長は「瑕疵担保特約など金融再生法の原則に反する契約を結んで、混乱を招いた森内閣の政治責任は極めて重い」と、同条項の削除を要求する。
 確かに、瑕疵担保条項はどういう理由であれ、貸出債権が「三年以内に二割目減り」すれば、いくらでも国(預金保険機構)に買い戻しを要求できる。まさに当該銀行にきわめて都合のよい条項である。例えば、それに該当する債権は新生銀では四千五百億円(一兆円以上という説もある)程度、日債銀では千五百億円前後といわれている。税金投入に際限がないわけである。こんな条項は当然削除されなければならない。
 だが、問題の本質はここではない。瑕疵担保条項は問題の派生的な部分でしかない。最大の問題は、七十兆円の税金を使い、大銀行を救い優遇する金融再生法、金融健全化法とその仕組みそのものにある。
 このシステムは、九七年の北海道拓殖銀行、山一証券の破たんなどを背景に、「預金者保護」「金融システムの安定」などを名目に、九八年秋つくられた。自己資本比率が不足すれば、条件付きではあれ七十兆円の中から湯水のごとく資本注入が行われる。超過債務の処理にも公的資金が使われる。さらに、銀行譲渡の際にも資本注入が行われる。
 実際、これまで七十兆円の中から「健全銀行」への資本注入や不良債権買い取りなどに約二十一兆円が使われた。破たん金融機関の損失穴埋めなどの処理に、約九兆円が使われる見通しで、これは返済されず国民負担となる。旧長銀の損失処理には三兆六千億円、日債銀には三兆二千億円もの国民負担が行われている。
 しかも、特別公的管理されていた長銀、日債銀いずれも売却価格は十億円にすぎない。長銀の場合、約二十七億株(普通株式)を十億円で、米欧資本に売却、しかも総資産は約十三兆七千五百億円(今年三月期)もあるという。おまけに売却時には、公的資金による二千四百億円の資本注入という「持参金」付きである。
 要するに、自己資本過小ならば資本注入、経営破たんすれば損失穴埋め、譲渡時の資本注入、売却しても「目減り」すれば買い取りと、七十兆円を使ってまさに至れり尽くせりなのである。
 その結果、大銀行はいまや大もうけである。二〇〇〇年三月期決算で、大手銀行十六行の本業のもうけを示す業務純益は約二兆九千八百億円となった。前の期より一七・〇%増加し、うち十四行が経常黒字に転換した。そのうち都銀・長信銀十行では実に二二・八%もの増加となっている。
 ちなみに、第一勧銀、さくら、富士など十五行は昨年、約七兆四千五百億円の資本増強を受けている。いくらゼロ金利政策のもとでの利ザヤが拡大し、リストラを進めたとはいえ、これでは利益が出ないほうがおかしい。
 その他、売り手の国と買い手が将来の損失を分担するロスシェアリング方式や将来の損失に備えて事前に引当金を積んでおく方式が議論されている。だが、これらも多かれ少なかれ、国民負担は避けられない不当なものである。
 国民の貴重な血税で銀行を支え、潤すこんにちの金融安定化システムそのものを根本から変えなければならない。大銀行の損失は、いままで国の財政や優遇措置を利用して肥え太ってきたかれら自身の負担でまかなうべきである。国民負担など断じて許されない。

民主党の批判はぎまん
民主党こそ大銀行を優遇する


 ところで、野党第一党の民主党は、前述のようにもっぱらその削除を求めるのみである。この問題では、民主党は森政権と同じ穴のムジナである。すなわち、大銀行を税金で救済、優遇することでは人後に落ちない。
 周知のように、もともと七十兆円(当時は六十兆円)の税金による銀行救済システムを提唱したのは、民主党である。九八年秋の「金融国会」で、参院選で大敗し国会運営でも苦境にあった小渕政権に対し、金融再生法などの原案を民主党が提案、自民・公明(当時は平和・改革)・民主三党が共同修正して成立したものである(公明党も明白な共犯者であった)。当時の菅代表は、「(自民党が)野党案を丸飲みしても、政局の手段に使うつもりはない」と政府、財界に露骨な助け船を出した。
 当時、国際的な金融ビッグバンに備えた国内の金融システムづくりだったのである。この仕組みは、前述のように徹頭徹尾大銀行に手厚い保護を与えるものであった。金融システムの動揺にあえぐ当時の財界にとって、民主党はまさに番頭役を演じた。
 菅氏はまた「(日債銀を売却できなければ)金融再生法を改正して日債銀の一時国有化を継続することも必要」と思い付きを述べている。だが、それはそれで、日債銀の不良債権、超過債務がますます明るみに出て、税金投入=国民負担が増加することになる。どちらにせよ、自らまいた種は自ら刈らねばならない。
 いまさら、民主党が瑕疵担保問題で森政権を「批判」するようなポーズをとったところで、きわめてぎまん的である。
 今回の一連のそごう、新生銀、日債銀問題は、民主党が財界のために尽くす役割を果たしていることをまたも明らかにした。こういう党を、決して信用してはならない。

蓄積する怒り、連携して闘おう

 そごう問題では、国(預金保険機構)が新生銀の求めに応じて、いったんはそごうの債権放棄を決めたが、強い国民世論の前に撤回を余儀なくされた。そごうは七月十二日、事実上、倒産の道を強いられた。
 また、こうした世論の流れを受けて、日債銀のソフトバンク連合への売却が、当初の八月一日から一カ月延期された。新日債銀の瑕疵担保条項運用が厳格にされると懸念する向きもある。
 そごう、新生銀、日債銀問題は、誰の目にもはっきりと不公平、不公正と映りつつある。
 しかも今後、「財政再建」の名で歳出抑制(行財政改革)と増税などが準備され、さらなる国民犠牲の攻撃がかけられようとしている。一部の大企業は「業績回復」の兆しはあっても、勤労国民にとってはリストラなどによる戦後最高水準の失業、倒産、果ては自殺者の激増など、引き続き苦難のどん底にある。今回の問題などを通じて、国民の怒りはますますたまっていくに違いない。
 しかも、自公保連立政権の基盤はぜい弱である。
 だが、野党の民主党などは森政権の策動と真っ向から対決せず、勤労国民の生活と営業を守ろうとはしない。労働者階級、中小商工業者など勤労国民は、民主党など野党に幻想を抱かず、各層は連携して闘おう。そして政治的な統一戦線の力で、連立政治を打ち破り、政治の転換をかちとろう。


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