20000725 社説


政府税調の中期答申

国民大衆への大増税のくわだて許すな


 政府税制調査会(首相の諮問機関)の中期答申が七月十四日、発表された。その内容は、ひとことでいって大増税を志向するものである。この答申は、大増税に向けた世論づくりの反動的役割を果している。
 すでに今年一月からの通常国会以来、「一兎(と)を追うか、二兎を追う」かと、景気回復優先か、財政再建かが論争になってきている。この期間のリストラで、経営内容を合理化してきた大企業、財界はこれ以上の財政赤字は、財界向けの財政運営にとって不利になるとして、危機感を強めつつある。
 いずれにせよ、政府は財政再建のために、早晩、本格的な財政支出の削減・行財政改革と大増税をもくろむであろう。かれらは、選挙など時期を考慮するものの、その方向は必至である。
 だが、リストラや失業などであえぐ低所得者への広範囲な大増税を許してはならない。財政再建はこれまで膨大な財政を使い、肥え太ってきた銀行や巨大企業の負担で行うべきである。
 大増税を阻止する広範な闘いを準備しなくてはならない。

財政再建理由に大増税の世論づくり
 今回、大増税を狙う税調答申が出されたのは偶然ではない。
 すでに総選挙において、民主党などから増税案が公然と打ち出されたように、増税へ向けて政治的雰囲気が次第につくられつつあるからである。
 景気回復優先か、財政再建優先かをめぐっては、今年一月からの通常国会で論争になった。景気回復という「一兎(と)を追う」小渕政権(当時)と、財政再建と景気回復という「二兎を追う」民主党などとの間の議論である。財政再建策といえば、大きくは行財政改革を通じての財政支出の削減と増税などによる増収策である。
 国会での議論は先の総選挙にも引き継がれた。小渕政権の継承を唱える森政権は、当面は景気回復に専念、現時点で財政再建を考えるのは時期尚早という立場だ。しかし、自民党が増税しないというわけではない。かれらは、根っから増税したいのだが、時期とタイミング、民意を図っているだけのことである。事実、森首相は総選挙期間中、消費税率の引き上げ問題について、二〇〇一年度に二%の経済成長に達するなど景気が本格的回復軌道に乗ったと判断した後、「幅広く議論する」と述べている。つまり、景気の具合いをみながら増税を決めるということである。
 他方、野党の民主党は所得税の課税最低限引き下げ、外形標準課税の導入などを公然と打ち出した。財政再建についても、やはり総選挙期間中、公共事業を十年で三割以上削減するなどの財政再建策の骨子をまとめた。かれらは「財政健全化と経済再生」を両立させ、最終的には「新たに国民負担を求めざるを得ない」などと増税の意図を隠さない。
 膨大な財政赤字を理由に、消費税の三%への削減という主張をおろした共産党も、支配層のこうした路線を助けるものとなった。
 こういう流れの中で、政府税調は大増税の方向を打ち出したのである。

増税の世論あおる答申
 税調の中期答申は、景気が回復しても自然増収では財政赤字改善は困難とし、このままでは次世代に重い負担がかかることになるため、「税制全般について抜本的見直しを行うことが求められている」と述べている。大企業の利益確保のために財政を湯水のように使ってきた経過にはいっさい口をつぐみ、何か今の世代全体に責任があるように描き出し、近々大増税をせざるをえない、という世論をつくろうとしているのである。
 しかも増税の矛先は低所得者や中小業者に向けられている。消費税率の引き上げ、所得税課税最低限の引き下げを強く示唆し、都道府県の法人事業税への外形標準課税導入にも「早期に導入を図ることが必要」と述べている。国と地方あわせて六百四十五兆円にも達した累積赤字をつくりだした政府・財界の責任は全くふれず、財政赤字を低所得者層や中小企業への増税でのりきる方針を提示したものであり、断じて許すことができない。
 特に、八五年プラザ合意以降は、「経済社会の活力を維持するため」と称し、八九年消費税導入を手始めに所得税、法人税の最高税率を低くするなど低所得者には増税、高額所得者には減税という政策がとられてきたが、今回の税調答申でもその考え方は貫かれ、さらに強化されようとしているのである。
 中期答申では、このように低所得者、中小業者への増税を訴えながら、一方、連結納税制度、相続税の最高税率(七〇%)の引き下げなど大企業、大金持ちには優遇措置をとるべきだと主張している。その理由を「国際的な競争力や経済の活力維持などの観点からわが国税制の仕組みや負担水準があまりに諸外国とかけ離れたものになることは望ましくない」と大企業の国際競争力を維持するための税制改革であることを明確にしている。ましてや、各種引当金などによる何兆円にものぼる減免税という、大企業優遇税制には一指も触れない。
 一部大企業のための国民総犠牲は、全く不当な格差拡大であるだけでなく、国内総生産(GDP)の六割を占める内需を冷え込ませ、景気回復にもつながらない。
 そもそも、現在の巨額の財政赤字は、誰に責任があるのか。大企業のためのインフラ整備、景気対策の結果つくられたものである。
 小渕前政権は、財政改革の棚上げをせざるをえなくなり、百兆円を超える赤字国債が増発され、赤字残高は国民一人当たり五百十万円にまで拡大した。まさに問題は、大企業と大金持ちのための財政政策の破たんである。税調中期方針は、この過ちをまたも繰り返そうとしている。

民主党は大増税の先兵
 総選挙以降、「情報技術(IT)革命」など経済の構造改革による国際競争力の強化、財政再建重視への転換が叫ばれつつある。
 こうした世論をつくる上で、最大野党・民主党は、きわめて犯罪的役割を果たした。民主党は、「これ以上の先送り、バラマキを続けるのか、勇気を持って構造改革に着手するかであり、ここが自民党と民主党の決定的違いである」(鳩山代表)と述べ、国民大多数の立場から自公保政権を批判するのではなく、財界や米国の立場を露骨に代弁した。もっと貧乏人から所得税をとるべきだ、という民主党の主張は連合傘下の労働者をとまどわせたが、財界は大歓迎をした。政府税調の方針を先取りしたのである。消費税増税や法人税の外形標準課税化でも民主党の主張は政府税調の主張と基本的に同じである。
 財界・マスコミは民主党の主張をほめそやし、「公共事業などの歳出削減を求めた民主党が都市部を中心に議席を伸ばしたことは有権者が現状に飽きたらず、大胆な構造改革を望んでいることを示している」(日経新聞)と民主党の「躍進」を都合良く解釈し、国民総犠牲による構造改革と財政再建の道を掃き清めようとしている。
 今回の政府税調の中期答申は、こうした支配層の策動の一環として出されたものであり、大衆増税を国論として定着させるために打ち出された「税制白書・バイブル」に相当するものである。
 国民犠牲による財政再建策に対する国民的反撃が必要である。国民にはこの間も国家財政の赤字を理由にして医療費の負担増、年金の改悪、介護保険制度の導入など多くの負担が押しつけられてきた。だが国家財政の赤字の解決は、国家財政をむしりとって肥え太った銀行や巨大企業に負担させて解決すべきである。
 国民大多数のための政治を実現するため、国民運動を強めると同時に、国政の場でも保守二大政党制への支配層の策動をうち破らなければならない。


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