20000615 社説


民主党の大増税案

「反自民」掲げ、自民顔負けの悪政めざす


 総選挙が始まった。
 今回の総選挙で争われるべき課題は、憲法問題、外交・安全保障、国民経済、行財政改革問題など深刻な問題がある。わが国と国民が当面して解決しなければならない重要な課題である。
 これらの課題とも密接に関連するが、ここにきて急浮上し、大きな争点の一つとなっているのが、民主党の増税案、すなわち所得税の課税最低限の引き下げ案である。この提案をめぐっては、自民党が「弱い者いじめの増税策」などと批判し、いつもの与野党の立場があたかも逆転したかのような現象が見られる。
 だが、この課税最低限の引き下げは、もともと橋本政権以来、自民党が温めてきた案にすぎない。
 いずれにせよ、財政再建をめぐって民主党は増税案を打ち出した。早晩、避けては通れぬ支配層の選択を、先走って公然と提起したものにすぎない。まさに財界のための政治を支える党の面目躍如である。
 「反自民」のぎまん的な旗を掲げて、あたかも自民党主導の政権に代わる「受け皿」政党のようにふるまう民主党に決して幻想を抱かず、打ち破らなければならない。

貧乏人への広範な増税狙う
 民主党の課税最低限引き下げ案は、かれらの総選挙公約「十五の挑戦―百十の提言」に明記されている。そこには、「課税最低限を引き下げ、児童手当の拡充や住宅ローン利子の所得控除などに充てる」とある。
 つまり、最低限の引き下げは、所得税の人的控除(配偶者控除、扶養控除など四種類)を廃止するなどして控除額を減らすことによって行う。控除額が減れば減るほど、課税最低限も下がる、つまりより貧乏人にも課税されていくことになる。民主党案では、その増収分は児童手当増額や住宅ローン利子の所得控除に回すという。
 では現在の課税最低限はどうなっているか。サラリーマン世帯のモデルケースで課税最低限は、年収三百六十八万四千円である。しかも、このケースは主婦は働いておらず、子どものうち一人は高校か大学に通っているものと想定されている。このケースでは、ボーナスなしで月収約三十万円の世帯であり、ここに課税するというのだから、わが国の課税もきわめて過酷なものといわなければならない。民主党案によって、仮に人的控除を全廃すると課税最低限は約百九十万円に下がる計算になる。(そもそも控除額自体、低いのだが、それはまた別の機会に論じる)
 所得税納税を階層別に見れば、給与所得者で納税する者の約六五%が年収五百万円以下の低所得者である(九六年度)。これが給与所得者全納税額の約二三%を占めている。営業所得者では年収五百万円以下が約八五%で、税額の約四〇%を支えている。この課税のすそ野をさらに広げ、逆に都市部の中堅サラリーマンに恩恵を与えようというのが、民主党案だといわれている。いずれにせよ、貧乏人からも、いっそう税金をむしり取ろうという、広範な大衆増税にほかならない。
 そもそも、この資本主義発展の過程で、税制にも「最低生活費は非課税」という原則がある。当然であろう、生活できるかできないかの線上の世帯に課税というのでは、資本主義といえどもあまりにも非情だからである。いわばこれを打ち破ろうというのが、民主党の反国民的な提案である。
 最近、鳩山代表は増税案に国民の反発があまりに強いので、「甘い水」を強調し始めた。児童手当を増額する(これとて公明党の二番せんじ)ので、増税となってもむしろ世帯収入は増えるという。これこそ笑止千万で、自民や公明のバラマキの「甘い水」を批判していたかれらにとって、天にツバするとはこのことであろう。

財政再建への大増税への道開く
 しかも、この大増税の目的は膨大にふくれあがった国家財政の再建のためである。鳩山代表は「漢方薬のように苦い薬を飲むことで、日本経済を立て直すメッセージを発したい」という。
 だからこそ、宮沢蔵相も「財政改革をやる時には、この問題(最低限の引き下げ)は避けて通れない。よくぞ言ってくれた」と民主党の提案を高く持ち上げたのである。そもそも、課税最低限引き下げは、橋本政権以来、自民党政府、大蔵省あたりで検討されてきた案にすぎない。いわば自民、民主のなれ合いである。
 周知のように、小渕、森政権は当面は景気回復という「一兎」を追い、景気回復が軌道に乗り始めてから財政改革という手順でいる。遅かれ早かれ、かれらは財政再建、とどのつまりは国民への大増税に手を付けざるを得ない。財界などの支配層もそれをもくろんでいる。財界が、財政再建のためにカネを出し、身を切ることは決してありえない。
 民主党のもくろみは、支配層の意を体して、国民への大増税へ道を切り開くことにある。まさに、財界のために犬馬の労を取る政党である。九八年秋、「金融国会」において、六十兆円の公的資金投入で銀行救済策を提案し、参院選の惨敗後、まだ苦境にあった当時の小渕新政権を、救ったのはやはりできたての民主党であった。こういう「前科」を想起するのも、民主党の本性を認識するうえでむだではあるまい。
 いずれにせよ、財政赤字のしりぬぐいを勤労国民にさせるなどとは、とんでもないことである。
 国の膨大な累積債務の解決と財政再建は、この期間、国家財政をとって肥え太ってきた銀行や巨大企業に負担させて解決すべきである。

財界、一部マスコミから賞賛育成される民主党
 しかも、民主党提案は、財界からも「勇気ある発言で評価したい」(小林経済同友会代表幹事)と賞賛されている。一部マスコミも「与党三党の統一公約には税負担を軽くする『甘い水』が目立つ。……課税最低限引き下げに踏み込もうとする民主党の姿勢は評価したい」(朝日社説)と評価している。
 これらの事実は、かつて細川元熊本県知事が日本新党を結成して政局に登場し、政治再編、自民党単独政権の崩壊、連立政権時代の幕開けとなった九三年前後の政治状況をほうふつとさせる。二大政党制の実現へ向けて、民主党を育成するものが存在するわけである。
 民主党の増税案は、民主党の正体を再び自己暴露した。かれらは、自民党主導の政権を批判し、「無責任政治と決別し、安心の未来を創る」と標榜(ひょうぼう)している。だが、かれらの政治は「反自民」の旗を掲げて、自民党ではできないようないっそうの悪政を実現することである。かつて、「反自民」の看板で細川連立政権がやったことを想起すれば歴然とする。
 労働者階級はこういうぎまん的な連中を信じてはならない。同時に、連立政権などの悪政に苦しむ勤労国民と連携して闘いを発展させなければならない。
 そうして、政治の根本的転換へ向けて、力強い政治的な共同の力をつくり上げる必要がある。


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