20000605 社説


NPT会議で非核国の発言力増大

核廃絶へ独立・自主の外交確立を


 世界百八十七カ国が参加して国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は五月二十日、「核保有国による核廃絶の明確な約束」などを盛り込んだ最終文書を採択した。
 従来、国連総会などは核廃絶を遠い将来の「究極の目標」として決議していただけに、これが「明確な約束」に変わったのだから、文言上は一歩前進といえよう。にもかかわらず、世界の核軍備の現実は米国がむしろ核軍拡に走っているように、ほとんど変わらない。中でも、被爆国わが国の役割は重要であるにもかかわらず、政府は米核体制の維持に奔走してきわめて犯罪的である。
 ただ、今回の文書を「成果」とするならば、それは九八年のインド、パキスタンによる核実験、さらには世界の非核保有国、人民の闘いがもたらした成果といわなければならない。核五大国以外の中小国、非保有国の発言力は前進しているといえよう。
 核廃絶の道は、世界で米国を中心とする帝国主義との闘いと不可分であり、闘いを強めて核廃絶を実現していかなければならない。

核廃絶めぐって激しい攻防
 今回のNPT再検討会議は、一九九五年にNPTの無期限延長を決定して以来、NPTの運用状況を検討する初めての会議である。
 会議は冒頭から、核廃絶をめぐって米国を中心とする保有国と非保有国との激しい論戦が展開された。非保有国では、「新アジェンダ(課題)連合」(NAC)が急先鋒だった。NACは、印パの核実験直後の九八年六月、核保有国に核兵器の全廃を求めてメキシコ、ブラジル、アイルランド、エジプトなど七カ国でつくられた。九八年、九九年の国連総会に核兵器全廃の決議案を提出し、圧倒的多数で採択させている。NACを代表したメキシコは初日から、保有国に核廃絶を迫った。またマレーシアの国連大使は、「核依存から脱却をめざす気配を見せない点を警告する」と、米国、ロシア、欧州が今なお核ドクトリンに固執していることを厳しく批判した。
 四月から一カ月近く開いた会議は、最終盤まで攻防戦が続いた。特に核廃絶へ向けて「期限を切った行動」か、従来通り「究極的な目標」かは、一つの焦点となった。その結果、合意文書の通りとなったわけである。
 今回の合意には「包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効」「弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の維持・強化」なども盛り込まれている。確かに、「核廃絶の明確な約束」も含めて、どのようにも解釈でき、ましてや法的拘束力もないものである。つまるところ、保有国にとって「努力目標」の程度にすぎない。
 にもかかわらず、今回の会議は、五大国以外の発言力の強まりを見せつけた。
 特に、この期間に、NPT体制の根幹を揺るがす国際情勢の変化が起こった。九八年五月のインド、パキスタンの核実験、核保有宣言が、米帝国主義中心の核独占体制に風穴をあけたことである。これは米・ロ・英・仏・中の五カ国だけに核保有を認め、それ以外の国が新たに核兵器を持つことを禁じる差別的なNPT体制へのあからさまな挑戦であった。あわてふためいた米帝国主義はインド非難キャンペーンをくり広げ、経済制裁を実施し、世界各国に同調を迫ったが、徒労に終わった。
 逆に、自らの核軍縮を全く棚上げし、他国に核保有を禁じる保有国の身勝手な態度に、「核保有国はNPTの無期限延長を論拠に、自国だけが永久に核兵器を持とうとしている」「核保有国はNPTの定める核軍縮義務を果たすべきだ」と、世界の中小国、非核保有国の不満が噴出した。当然である。米国を中心とする「合法的な」核独占体制がきわめて不平等なもので、しかも核軍縮が一向に進まないもとでは、次の核保有国が出現しないという保証はどこにもない。核大国の勝手な利害からつくられたNPT体制とは、そもそもそういう矛盾に満ちたものなのである。
 核廃絶を求める五大国以外の中小国、非保有国の発言力の増大は、押さえようもない。

核軍拡に走る米国が孤立
 同時に、この会議では核大国の間の矛盾もいっそう激化した。
 米国の全土ミサイル防衛(NMD)問題である。オルブライト米国務長官は、会議でNMD配備、ABM制限条約の修正を公然と主張した。NMDとは、長距離弾道ミサイルを大気圏外で打ち落とす全土ミサイル網のことで、際限ない核軍拡を招くという理由によって、すでに七二年、米ソ間で結んだABM制限条約で禁止されている。NMDは将来的には、中国、ロシアへの対抗を狙ったものといわれている。そういった核軍拡のために、その修正を米国は図々しくも求めているのである。
 これには、別の核大国であるロシア、中国が猛反発している。欧州諸国も懸念、批判を表明し、米国は全く孤立している。そもそも、世界でこんにち核弾頭は三万〜四万発あると推定され、そのうち九五%以上は米国、ロシアが保有するという。英国、フランス、中国各国の保有数は、三百〜五百発だといわれている。
 米国は、歴史上も世界で真っ先に核兵器を開発して、広島・長崎に使用し、こんにちもなお最大の核大国である。世界政治展開の上で、核恫喝(どうかつ)の道具として、維持し核独占・優位体制を維持しようと必死である。もちろん、中小国家の恫喝に使うだけでなく、中国やロシアなどの核開発や新たな核保有国の登場を抑えることも狙っている。
 まさに、こんにち核廃絶が進まない元凶は、米国にある。こうした米国の露骨な帝国主義政策と闘わない限り、核廃絶はおろか核軍縮も進まないであろう。核廃絶の課題にとって、米帝国主義との闘いはいっそう重要になっている。

米国べったりの日本外交
 さて、注目すべきは、わが国政府の態度であった。
 政府は、被爆国の政府として核廃絶のために奮闘するのではなく、NACなどの足をひっぱり、米帝国主義中心の核独占体制を維持するために全力をあげたのである。再検討会議においても、米帝国主義のお先棒をかつぎ、その追随ぶりを世界にさらけだした。
 例えば、NACなどが要求した「核保有国による期限をきった核廃絶の明確な約束」を支持せず、期限を永久に先延ばしする「究極的廃絶という共通の旗のもとへ参集を」と主張した。だが、これは今回破たんした。これにはいくつも「前科」があり、毎年の国連総会で日本政府は期限付きの核廃絶を求める非同盟諸国の決議案には棄権し、「究極的廃絶」決議を提出、可決させてきている。昨年末の国連総会では、中ロが米国けん制の意味でABM制限条約の維持・強化決議案を提出したところ、同決議案は、賛成八十、反対四、棄権六十八の圧倒的多数で採択された。ところが、日本は賛成するどころか棄権に回ったのである。
 まして、わが国政府は「非核三原則」などと白々しいことを会議で主張しながら、自らが米国の「核のカサ」に見事に庇護(ひご)されている事実は、口をつぐんで語らない。米国の「核のカサ」が必要なため、「(会議の)成果は、今後核不拡散体制を堅持・強化するとともに、核軍縮を推進していく上で大変有意義だった」(河野外相)と評価するのは当然である。
 だが、今回の会議の合意を意図的に評価する政府などと比べて厳しい意見もある。最近も平岡敬・前広島市長は「NPT体制はますますいびつな形になってきた。不平等への異議申し立てという意味もこめて、印パに続き核開発をする国がまだ出てくる可能性がある。核保有国の先制不使用宣言といった具体的な目標がなければ、NPT体制は崩壊するのではないか。日本は核のカサの中にいるから、鈍感というか寛容というらか」と今のNPT体制を批判している。
 核廃絶をめざして、米国の核独占体制、「核のカサ」維持を狙うわが国政府の安保・外交政策に対し、広範な運動で闘わなければならない。そうして、国際世論と連携して核廃絶を実現する必要がある。


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