20000515 社説


ASEAN+3、通貨融通で合意

日米基軸脱却してこそ、真にアジアとの共生が


 東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本、中国、韓国の十三カ国蔵相会議は五月六日、通貨危機再発防止へ相互に通貨を融通し合う協定、いわゆる「チェンマイ・イニシアチブ」に合意した。
 従来、国際通貨基金(IMF)など米国が主導するような国際援助、日本とマレーシア、あるいはASEAN五カ国相互間などの小規模なスワップ協定はあったものの、今回のような多国間の包括的枠組みはアジアでは初めてである。これは東アジア地域が、米国抜きで独自に通貨危機回避に一丸となって当たり、東アジアの結束が一段と進んだことを意味する。九七年のアジア通貨危機以来、国際政治・経済におけるアジアの大きな前進の一歩である。
 もちろん、最大の外貨準備高を持つ日本が積極的役割を果たしたことは言うまでもない。わが国の対アジア経済外交の一定の変化、前進といってよいであろう。
 だが他方で、わが国の日米基軸の路線は依然として変わっていないし、米国東アジア戦略のもと台湾問題などをめぐって中国への圧力も引き続き展開されている。わが国外交が、対米従属から脱却し、アジアと本格的に共生の道に踏み出したわけでもない。
 今回の合意を踏まえながら、日本の生き方として、対米従属からの脱却、アジアとの真の共生へわが国の進路を転換させなければならない。広範な国民的戦線の形成によって、その闘いをいっそう前進させる必要がますます迫られている。

東アジアの結束の大きな前進
 今回の十三カ国合意は、具体的には通貨融通のスワップ協定参加国を現在のASEAN五カ国から加盟十カ国に広げ、並行して日中韓を含む各国がASEAN二国間との協定を網の目のように結んでいく方式をとる。その資金規模はまだ未確定だが、総額数百億ドルといわれる。
 九七年のアジア通貨危機と、その後の米国・IMFの支配・干渉に苦しめられてきた東アジア諸国にとっては、独自の危機対処策として重要な意義がある。加えて、ASEAN+3は年二回の蔵相会談を定期化することでも合意した。これも初めての試みである。
 九七年のアジア通貨危機発生後、その対応策として当時、わが国は榊原財務官が根回ししてアジア通貨基金(AMF)設立構想を提唱したものの、火事場泥棒のようにアジア支配・干渉を狙う米国によってその構想はつぶされた。中国も自国の思惑からこの構想を支持しなかった。
 AMFとは違う枠組みだが、今回の合意が可能となった背景は何か。それは、東アジアなど途上国の力の増大、日米間のアジアをめぐる争い、中国への危機波及の恐れと対応の変化、米国のバブル崩壊の恐れなどがあろう。一言で言えば、資本主義の危機の深化と諸矛盾の激化、生き延びようとする途上国の闘いの結果などということであろう。
 当時、インドネシア、韓国などは、米・IMFから金融支援などを条件に緊縮財政、経済構造改革、国民への犠牲転嫁などを強制、事実上、国の経済運営を管理された。インドネシアなどは、当時のスハルト政権が転覆させられた程である。
 しかしその後、アジア、欧州などから米・IMFの強引な管理方式に批判、抵抗がいっせいに強まった。マレーシアのマハティール首相などは独自の為替管理まで実施し、一時、米国などから非難が集中したが、やがて国際世論は米・IMFを非難し、むしろマハティールを支持する方向に変わった。
 日本はAMF構想を挫折させられた後、アジアに対して総額三百億ドルにのぼる金融支援を約束する「新宮沢構想」を打ち出す(九八年十月)など、積極的だった。米国がそれに対抗して、日米で五十億ドルの援助構想を打ち上げるといった、アジア危機対処をめぐる日米間の「闘争」もあった。
 さらに、すでに昨年から、ASEAN+3による非公式首脳会談が開始されているように、米国抜きの東アジアの結束も進んできた。昨年末には、途上国のパワーが米国、先進国の不公平、横暴を認めず、世界貿易機関(WTO)閣僚交渉が決裂する一幕もあった。
 一方、米国は四月半ばのニューヨーク株式暴落とその世界連鎖に見られるように、バブル崩壊を招かんばかりの危機にひんしている。米国自身、余裕がなくなったのか、サマーズ財務長官も、しぶしぶ今回の合意を容認せざるを得なかった。
 このように冷戦終えん以後、「米国一極集中」がいわれながらも、資本主義の危機のもとで、国際政治の力関係が明確に変化する兆しを見ておかなければならない。国際政治で、米国の圧力に対抗して闘いようがあることを知る必要がある。

危機の中、さらに問われる国の進路
 そういう世界資本主義の危機の中で、わが国の進路がいっそう問われている。ドルに引き続き追随し、米資本主義の危機の犠牲転嫁に甘んじるのか、それともわが国の国益を貫くのかどうか。
 今回の十三カ国合意に、わが国も一定の役割を果たした。だが、わが国は真にアジアとの共生を貫けるか、わが国の二十一世紀の国益がかかっている。
 わが国と東アジアとの経済関係の深まりは、いうまでもない。例えば、日本の輸出は、東アジア地域が最大である。対外直接投資は九四年度以後、東アジア向けが欧州を上回り、米国向けに次いで二位となっている。逆に、東アジアにとっては九〇年以後、日本が最大の投資国で、米国がこれに次ぐ。輸出では、域内、米国に次いで三位が日本、といった具合である。
 だが森政権は、全般的には従来の対米従属の進路を根本的には転換しようとはしていない。それは、先の森首相の訪米を見ても明らかである。したがって、対アジア経済外交にしても、常に米国の顔色をうかがわざるを得ないのである。
 そればかりか、最近では対中国干渉、圧力を強めている。例えば、台湾新「総統」就任にあたり与党代表団を出すなど、明確に「一つの中国、一つの台湾」の態度をとり、中国内政に露骨に関与しようとしている。先日の日中外相会談では、中国の国防費増加を口実に政府開発援助(ODA)の見直しを打ち出した。果ては森首相は、アジア侵略を「侵略戦争かどうかは歴史のなかで判断」とまで歴史認識を後退させ、中国、朝鮮などアジアとの対立をつくりだそうとしている。
 軍事的にも、米東アジア戦略のもとで、日米防衛協力の指針(新ガイドライン)を推進し、大国化の動きが顕著である。瓦防衛庁長官は、今回合意の直前、シンガポールで自衛隊によるシンガポール基地使用承諾を取り付けた。
 大枠では米戦略に従い、そのもとで大国化を狙う。こういう姿勢では、いくら金融支援をしてもアジアの深い信頼は得られまい。
 わが国に求められているのは、単なる当面の対応策ではない。もっと根本的な国家としての戦略、わが国の独立・自主の進路を確立することである。その核心は対米従属から脱却し、アジア諸国と共にその一員として生きることである。
 米国主導のグローバル資本主義が展開した八〇年代以来のことを振り返ってみれば明らかなように、対米従属の政治ゆえに、米国にほんろうされ、国益を大きくそがれてきた。世界の危機がさらに深まれば、いよいよドル基軸、対米従属は大きな負担となることは明らかである。
 「AMFは有益であり、できる限り早く設立されるべきである。スワップ協定合意は、AMF設立の推進力にもなるだろう」(毎日)という主張のように、米国に気兼ねすることなく、AMF設立を含む、より強力なアジアの協力体制を積極的に構築すべきである。
 事態が一歩進んだだけに、日米基軸を脱却し、真のアジアとの共生がいよいよ求められている。そのための国民の闘い、広範な国民的戦線を形成して新たな国の進路のために闘わなければならない。

【通貨スワップ協定】 国や地域同士が外貨準備を活用して相互に外貨(米ドルの場合が多い)を融通し合う協定。


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