20000415


台湾めぐる新たな情勢
サミットで「中国の自制」求める森政権

米アジア戦略に反対し、自主・独立の進路を


 三月の台湾「総統」選挙の結果、「台湾独立」を基本理念とする民主進歩党(民進党)の陳水扁が「政権」を握ることになった。ことの性格は中国の内政問題だが、米中関係、また日中関係に、すなわちアジアと世界情勢に大きな影響をもたらす。台湾海峡の両岸関係はますます波乱含みとなった。ところが「陳が民主的なルールに基づいて当選したのは、長期支配に対して終止符が打たれたという点で素晴らしいこと」(鳩山民主党代表)などという見方がかなり広まっている。こうした平和ボケした観点では、とてもわが国の二十一世紀の進路を確立することはできない。台湾新「政権」の誕生とそれがもたらす緊張する国際関係への対処いかんは、わが国の進路、アジアでの生き方に決定的に響く重要な問題である。わが国の真の国益、国民大多数の長期の利益を基準に、また日中両国間での国際的約束を堅持し、他国内政に干渉せず、わが国の独立・自主とアジアの平和を実現するため奮闘しなければならない。


「独立論」を選択した台湾支配層

 今回の選挙では、国民党公認の連戦、民進党の陳、それに元国民党の有力者宋楚瑜などが争った。最大の争点は、中国との関係をどうするかだった。現「総統」李登輝は昨年夏、「中国と台湾は特殊な国と国との関係」との主張を打ち出し、中国政府との関係を著しく緊張させた。その李の退陣決定後の選挙であり、誰が、どのような路線で台湾を導くのか、内外から注目された。
 連は李の公式な後継者だった。中国との関係では、李の「二国論」にたって、中国が台湾を「対等な交渉相手」と認めるべきだと主張した。
 民進党は「台湾独立」論で、選挙中、陳は「国と国との特殊な関係」と言って「二国論」の李路線をさらに発展させることを主張した。
 宋は、台湾、中国をそれぞれ国として扱う「二国論」に反対し、中国とは「準国際関係」と主張した。
 選挙結果は、陳が約四百九十八万票、宋が四百六十六万票、連は二百九十三万票であった。こうして新中国成立後、国民党が台湾に逃げ延び、以来五十年近く続いた国民党「政権」が終わった。陳の勝利は、選挙終盤でノーベル賞受賞者の李遠哲・中央研究院長や奇美、長栄グループなどの有力企業家といった台湾の支配層が、支持を明確にしたことによるといわれている。台湾支配層は、「経済関係は発展させるが、中国にのみ込まれない」という李の「独立」路線の踏襲・発展を選択した。
 当選後、陳は行政院長に米国の信頼が厚い、国民党の唐飛現国防部長を決めた。新「政権」の最終的な対中政策を今後米国政府と協調して進めるということで、陳自身の就任前訪米も取りざたされている。

米国は2空母群で支援

 米国はこの選挙を静観しなかった。二月上旬、原子力空母ステニスと横須賀を母港とする空母キティホークなど第七艦隊空母二個群を台湾近海に急派して、軍事的に徹底的な予防体制をとった。同時に、タルボット国務副長官らの大型代表団を北京に送り込み、また米太平洋軍(ハワイ)のブレア司令官は、台湾海峡を管轄する中国軍の南京軍区も訪問、投票の一週間前にはコーエン国防長官も香港に立ち寄るなど、圧力を加えた。
 中国政府は、「文効」(言葉による威嚇)でこれに対応した。ところが米国はむしろ「武力による台湾防衛」を鮮明にして台湾独立派を激励し、台湾世論の中国離反を促した。
 こうして「台湾独立」を公言する陳を当選に導いた。直後クリントン米大統領は、「平和的に台湾問題を解決する新たな機会になる」との声明を出し、また米下院は陳当選歓迎決議を圧倒的多数で採択した。米国は、対中政策でより効果的な「台湾カード」を手にした。
 クリントンは結果を受けて、ホルブルック国連大使などを相ついで北京に、また台湾にはハミルトン元下院外交委員長を派遣し、中国にこの結果を受け入れさせて現状「固定化」を狙い、同時に台湾にも中国を過度に刺激しないよう慎重さを求めた。
 周知のように米国は九五年、「アジアの繁栄と安定は、米国の経済の健全性と世界の安全にとって死活的に重要」との狙いで、「東アジア戦略」を定めた。中国を主な対象(敵)とするこの戦略の特徴は、米国と対立する可能性がある中国を普通のおとなしい国にかえ、米国中心の国際社会に取り込むという対中関与政策である。アジアに駐留する十万余の米軍、それに再定義された日米安保はこの戦略を進める最大の保障である。
 この関与政策を進める上で、台湾の今回の変化が、米国をより優位に立たせる重要な意味をもったことは明白である。米議会は「台湾安保強化法案」を下院で可決、あるいは最恵国待遇(MFN)恒久化法案について否認の脅しをかけるなど、さらに中国に圧力をかけようとしている。台湾への相つぐ武器売却もある。クリントンは最近、インド・パキスタンを歴訪、中国「包囲」の戦略的布石を進めた。
 「米中関係における発火点は、台湾である」――ペリー前国防長官は昨秋、東京でこう断言した。米国の東アジア戦略とその推進こそ、台湾問題の解決を困難し、アジア地域の不安定な状況を形づくっている主な要因である。

「台湾問題」は複雑さ増す

 中国政府は、次善の策として露骨な独立論の陳当選を避けようとした。だが、成功しなかった。陳当選後、江沢民国家主席は、関係改善を提案し「対話、協議の土台になるのは、まず『一つの中国』の原則を認めなければならない」と強調した。しかし、陳は「一つの中国が話し合いの前提ではなく、議題の一つならなんでも話し合う」と応じなかった。
 また、江主席は背後にいる米国に対して、「実際の行動で『一つの中国』政策を堅持しなければならない」とけん制した。しかし一方で中国は、富強化をめざす経済建設のため米国との安定した関係を不可欠として「戦略的関係」を進めている。当面しては世界貿易機関(WTO)加盟問題などもある。
 米国の介入・圧力に対して人民の不満も高まった。「総統」選から一夜明けた十九日、中国共産党機関紙「人民日報」ホームページのEメール投書欄に、「米国に強硬に対処しなければ、祖国統一の望みはない」などの意見が殺到したという。あいまいな対処は、政権基盤を揺るがせかねない。
 祖国統一と富強化はともに中国の国是である。中国政府は、いちだんと複雑な対応を迫られることになった。

わが国支配層、「二国論」を進める
国益に反し、アジアで孤立する道


 陳当選に際して小渕首相(当時)は、「中国は一つ」とする従来の政府の方針に変更がないことを強調した。だが、「独立」論の陳「総統」となって、「中国は一つ」という言葉は同じあっても、その意味するところ、政策的実質はますます変化する。
 自民党の森幹事長(当時)はすでに昨年七月、来日した陳に接触していたが、陳当選直後、麻生元経企庁長官らをいち早く台湾に派遣、陳と会談させ、五月二十日の就任式への党代表団派遣を打ち合わせている。一方、村上参院議員会長らは、就任式への民主党などとの「与野党共同代表団」派遣で動き回り、また辞任後の李登輝を日本に招請しようともしている。この計画には石原都知事なども加わっている。
 ここ数年、わが国政府は「中国は一つ」といいながら、実質は「中国は一つ、台湾も一つ、二つの国」論となっている。例えば一昨年、小渕首相(当時)は、江沢民主席が来日した際、台湾問題や歴史認識問題で明確な態度を示さなかった。ところが日本の国内、保守層は、そうした小渕を国益を貫いたと高く評価した。
 わが国外交政策に影響を持つといわれ、政財界のトップが集まる「日本国際フォーラム」は、日本は台湾が中国にのみ込まれないように努力すべきで、台湾が独立を宣言しても中国が武力干渉しないように中国政府に「武力解放ノー」の圧力をかけなければならないとくりかえし提言している。
 わが国支配層は、米国の東アジア戦略と再定義された日米安保に沿って、「一つの中国」政策を実質的に放棄し、「台湾独立」支援など中国内政への関与政策を強めている。陳新「政権」誕生は、そうした政策に弾みをつけるものである。事実、政府は七月の沖縄サミットで「中国に自制と中台の対話促進」を呼びかける主要八カ国のメッセージを取りまとめたい方針だという。
 こうした方向は、アジアの共生が二十一世紀の日本の生き方といわれるこんにち、真の国益に反して国を誤らせ、わが国を中国やアジア諸国と対立させ、またアジアの緊張を激化させる亡国の道である。

「二国論」後押しする民主、共産
米「東アジア戦略」を容認


 野党の多くは、この国を誤らせる政府・支配層の外交を批判できず、むしろ米国や政府のお先棒を担いでいる。
 たとえば「民主化」に目がくらんでいる民主党は、「台湾の一方的な独立を支持せず、同時に中国の台湾に対する武力行使に反対するとの基本的な立場に立つ」という。この考え方に立てば、実際の関係の中では「一つの中国、一つの台湾」以外にあり得ず、米国やわが国支配層とまったく同じ台湾政策となる。事実、いま民主党は、「総統」就任式への党代表団を派遣する方向だという。そのため仙石企画局長らがすでに台湾を訪問し陳と会談した。民主党は、わが国支配層が進めようとしているが、政府としては中国政府との関係を考慮して公式にはやれないことを、積極的に買って出て推進しようとしている。最も危険で、反動的役割を果たすことになる。
 共産党の不破委員長は「国際法の枠組み(一つの中国)と政治的判断(台湾問題の平和解決)とを区別することが大事」というへ理屈を言い出した。野党連合政権参加のための支配層への追随と対中共関係を考慮した「区別」であろう。だが、台湾をめぐる現実の国際関係が米国の軍事力と「東アジア戦略」を主な要因にして形成されていることは明白である。その米国の戦略的意図を暴露せず、これと闘おうとしない「平和解決」論は、米国の戦略を容認するものでしかない。共産党の意図は、かつて冷戦時代に支配層に屈服した野党が「西側の一員論」を受け入れたのと同じで、「認めなければ政権に入れてもらえない」という卑屈な認識である。共産党は米国の「東アジア戦略」を暴露しないことで、米国やわが国政府と同じ立場に立っている「あかし」とし、恭順の意を表明しているのである。支配層の「二国論」を事実上容認しているこの党は、台湾海峡の緊張が激化した時、真に問われる。
 「東アジア戦略」と再定義された日米安保に沿った対米追随外交か、それとも独立・自主のわが国の国益、国民大多数の長期の利益を実現する外交か、いま問われている。「台湾問題」はその試金石である。「総統」就任式へのわが国政党代表派遣、李登輝来日招請、あるいは沖縄サミットで「中国に自制」を求める声明づくりなど許してはならない。米国のお先棒を担いでアジアに敵対する歴史を繰り返してはならない。国の進路を憂うすべての人びとの真剣な努力が求められている。


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