20000405 社説


台湾訪問問題

民主党は、台湾海峡の緊張を望むのか


 国内政局は大激動だが、台湾との交流をめぐっても国内で矛盾が起こっている。
 三月中旬の台湾「総統」選挙を前後して、中国、米国などは前回ほど軍事動員こそしなかったものの、盛んに政治的やりとりを展開した。わが国小渕政権も、選挙後直ちに「両岸の対話再開を望む」談話を発表した。
 政党レベルでは、さっそく自民、民主、公明各党が台湾との新たな関係づくりに動き出した。なかでも注目すべきは、民主党の動きである。鳩山代表は、五月の新「総統」就任式に党国会議員を派遣するという。しかしこの時期、事実上の党代表の派遣方針は何を意味するであろうか。
 それは結局、中国敵視であり、「内政不干渉」などをうたった日中平和友好条約、共同声明に真っ向から挑戦するものである。
 しかも客観的には、約半世紀、台湾問題に一貫して介入してきた米国のお先棒担ぎの役割を果たすことにほかならない。
 ことは日中間の友好、東アジアの平和と緊張緩和、日本の進路にかかわる問題である。民主党のこの動きは、結果的には台湾海峡の緊張を激化させる、きわめて危険なものである。厳しく批判しないわけにはいかない。
 こうした動きに反対し、米国など他国の干渉を排除し、東アジアの平和と緊張緩和、日本の自主・平和の進路を確立するために、広範な戦線形成に努力することが必要である。

米戦略の手の内で動く民主党
 台湾の選挙終了後、河野外相は「両岸の対話再開を望む」「台湾と実務関係を維持することは不変だ」との談話を発表した。政府・自民党にすれば、日中国交正常化時の日中共同声明に基づいて、その程度が精いっぱいであろう。共同声明は、「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府」「台湾が中国の領土の不可分の一部」と確認している。さすが自民党総裁でも、共同声明に反する形で「総統」就任式への党代表派遣は言えなかった(もちろん、党議員の就任式出席の動きは容認しているが)。
 ところが、この時期、民主党の新しい台湾当局者へのテコ入れぶりは突出している。
 まず、鳩山代表は三月二十九日、五月の「総統」就任式に、党国会議員数人を何らかの形で派遣する意向を表明した。この時期、党首で就任式に事実上の党代表派遣を言明したのは、民主党だけである。
 しかも、いわば先遣隊ともいうべき仙谷企画局長ら国会議員三人が三十一日に、次期「総統」と会談した。鳩山代表は、この議員らに「総統」宛て親書を持たせている。こうしたかれらの態度は、日中共同声明などをなし崩しにし、かつ中国を敵視する結果となっている。
 なぜなら、民主党は前述の日中共同声明を支持している(安保基本政策・九九年六月)。ところが、「総統」就任式に代表派遣とは、まさに党として「二つの中国」を認めることになるではないか。したがって、日中共同声明に明確に反するものである。しかも鳩山代表は、就任式へ代表派遣をしないようにという事前の駐日中国大使の申し入れを蹴っている。そのうえでの意向表明であるから、まさに「確信犯」といえよう。
 こうした「確信犯」ぶりには根拠がある。民主党は「中国の台湾への武力行使に反対する」(前掲)と打ち出しているからだ。これは、中国の祖国統一事業への明白な内政干渉である。
 そもそも、一九四九年の蒋介石以来、約半世紀、ぼう大な米軍と武器供与とで台湾当局を支えてきたのは、ほかならぬ米国である。米国によるこれらの支援がなければ、台湾当局が約半世紀も持たなかったことはいうまでもない。米国は「台湾関係法」(七九年)で、台湾情勢が緊迫した時、米軍が武力介入することさえ公然と決めている。ぼう大な武力を構えるものが、相手の武力行使反対をとなえるとはお笑い草である。こうした実態、そのもとでの自党の立場を民主党は分かっているのであろうか。
 この点では、野党づらする民主党も、「中国の武力行使に反対する」米国と軌を一にしている。
 まだある。民主党は日米防衛協力指針(新ガイドライン)を、必要なものとして支持する。これの基礎になった米国防総省の「東アジア戦略」(九五年)は、朝鮮半島情勢と並んで、はっきりと台湾問題にも言及している。それに基づく日米共同宣言(九六年)、新ガイドラインは、直接的には中国、朝鮮、一般的にはアジアに軍事対処するためのものである。すなわち、十万の駐留米軍と日米軍事協力体制は、中国、朝鮮などに明確に矛先が向けられている。
 こうしてみると、民主党の今回の動きは、反動的な基本政策として確固としたものがある。自民党顔負けのもので、米国の東アジア戦略に見事に符号している。
 民主党のこうした中国を敵視し、台湾海峡の緊張を高める策動は断じて許されない。

さらに台湾の軍事強化図る米国
 クリントン米大統領は台湾選挙後、「中台の対話に新たな機会が到来した。米国は対話を支持する」などと、もっともらしい声明を発表した。しかし、米国の政治的、軍事的な対中国戦略が変わったわけではない。
 事実、台湾への軍事的テコ入れを、引き続き強化しようとしている。例えば、近く対空ミサイル改良型ホーク百六十二基など総額二億ドルの武器を台湾へ売却する予定という。台湾を含む戦域ミサイル防衛(TMD)の推進、さらに米台の軍事協力を強化する「安保強化法」の米下院通過、といった具合である。
 確かに、米国は今回、やや手法を変えた。政府高官の連続的派遣によって中国けん制を展開したのである。四年前の「総統」選挙の際は、米国は空母二隻を含む機動部隊を台湾海峡に派遣して中国を威嚇し、地域の緊張を作り出した。
 今回は、台湾選挙近くになるとタルボット国務副長官、ブレア太平洋軍司令官を相次いでぐ訪中させ、直前にはコーエン国防長官を東アジアに派遣した。国防長官は、選挙の約一週間前、中国を包囲するかのように香港、ベトナム、日本、韓国を歴訪し、露骨に中国をけん制した。こうやって、中国の祖国統一事業を妨害し、内政干渉を行った。
 こうした米国の一連の内政干渉外交があった後に、今回、民主党の台湾訪問の動きがある。民主党は、米国の中国けん制、中国の統一を妨害する策動の手の内で動いているにすぎない。
 そもそも、米軍の存在が東アジアの緊張の元凶である。米国の中国への内政干渉を許してはならない。日本とアジアから米軍を撤退させなくてはならない。

民主党の策動反対、アジアの共生を
 日中両国は、日中平和友好条約と共同声明において、善隣友好関係を発展させることは「アジアの緊張緩和と世界の平和に貢献するもの」(共同声明)と意義づけた。その基礎として、「主権及び領土保全の相互尊重」「内政に対する相互不干渉」を確認している。これらは、かつての中国侵略戦争の踏まえて、両国を律する当然の原則である。
 しかしこんにち、民主党のように、この原則を露骨に踏みにじる動きがある。自民党内ですら李登輝訪日をめぐって対立が顕在化しているが、民主党はこの問題では野党どころか、自民党以上に危険で反動的である。ましてや、アジアの緊張緩和をもたらすどころか、米国の尻馬に乗って、逆に緊張を高めるような行動をとるべきではない。
 民主党の危険な策動に反対し、日中友好協力関係の発展をはじめ、アジアとの友好、共生の外交確立を求める世論と行動を巻き起こそう。これこそ、わが国の発展、アジアの緊張緩和、平和を保障する道である。


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