20000325 社説


憲法調査会が始動

改憲阻止のために、広範な共同した戦線を


 いよいよ先月から、衆参両院の憲法調査会の会合と激しい論戦が始まった。この調査会設置は、もともと社民党などは「改憲のためのもの」として反対していたが、昨年七月、設置の法案が強引に成立させられた。
 この調査会は、「憲法について広範かつ総合的に調査を行う」ことを目的とし、五年程度で報告をまとめることになっている。調査会の会合では、さっそく自民、自由党の代表から、「五年目には新憲法制定」などの露骨な憲法改悪意見が出された。
 かれらの最大の狙いは、憲法第九条(戦争の放棄)の改悪であることは明白である。近来の改憲策動は九一年四月、湾岸戦争の前後、「国際貢献」の名のもとに海外派兵と改憲のキャンペーンが激しく展開され、国連平和維持活動(PKO)協力法制定など改憲はなし崩しに進んだ。以後改憲策動は公然と強められ、今回の調査会開会にまで至ったのである。
 一九四七年五月に施行されて以来、約五十三年間、さまざまな論争を呼びながら国民の間で確実に定着してきた憲法も、今重大な岐路に立たされている。九条を始めとする憲法改悪を断じて許してはならない。
 いうまでもなく憲法を守る課題は、第二次大戦での敗戦により、いったん平和な道を進むことを世界に誓ったわが国が、二十一世紀にアジアにおいて平和で民主的な道を進むかどうかの重大な課題である。この時期、国の進路を憂え、アジアの平和を願う政治党派、労働組合、諸団体、人士などが、憲法を守るための広範な共同の戦線を築いて闘うことがますます迫られている。

9条改憲を狙う支配層
 周知のように、改憲論の眼目は第九条改悪にある。支配層の狙いが、日米安保体制の拡大強化、自衛隊の公然たる海外派兵の合法化であることは、はっきりしている。「第九条は、戦後日本において最大の論点であった」(小沢自由党党首)という通りである。
 改憲策動はここ十年でいえば、九〇年からの湾岸戦争が大きな転機となった。米国の圧力のもと、時の海部政権は九一年四月、湾岸戦争の終戦処理としてペルシャ湾に海上自衛隊掃海部隊を派遣し、初めて自衛隊の海外派兵を行った。湾岸戦争を前後して、「国際貢献」の名のもとに海外派兵、改憲キャンペーンが猛然と展開されたのである。
 翌年、野党、国民の強い反対にもかかわらず自衛隊をさらに派兵するPKO協力法を制定するなど、実質的な憲法改悪はなし崩しに進められた。
 さらに、九六年からの日米安保共同宣言、日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しによって、いっそう米戦略に組み込まれながら海外派兵、集団自衛権行使への動きが強められた。昨年のガイドライン関連法、国旗・国歌法、盗聴法などの制定、そして憲法調査会の設置である。いまも自自公などによって、国連平和維持軍(PKF)本体業務の解除、有事立法制定などがもくろまれている。
 支配層にとって、ガイドライン関連法による日米軍事協力の推進に当たり、法制上の不備は限界であり、もはや憲法解釈、なし崩しでごまかせなくなったのである。
 そこには、同時に新ガイドラインなど米国の戦略に積極協力しつつ、わが国なりに政治・軍事大国をめざそうという支配層の狙いがある。それは、アジア、世界に展開し、国際的大競争を展開しているわが国多国籍大企業の要請でもあろう。
 自民党代表などは調査会において、当面、「現憲法の制定過程の検証」を通じて改憲ムードをあおろうという作戦をとっている。いわゆる「押しつけ憲法論」である。その他、「五十年たったからもう古い」「憲法と現実とのかい離」などという見解が改憲派から強調されている。これらの論法にも、別の機会に批判を加えなければならないが、いずれも、結局のところ九条を中心に改憲したいがための口実にすぎない。

改憲のお先棒かつぐ鳩山・民主党
 調査会では、改憲をめぐって激しい論戦が交わされているが、「野党」の中で突出しているのが民主党の鳩山代表らである。
 鳩山代表は熱心な改憲論者で、九条を「陸海空軍その他の戦力は保持する」と変え、二、三年で民主党憲法改正試案をまとめると強調している。昨年九月の党代表選挙では、「徴兵制の検討」まで口走る始末であった。民主党の「安保基本政策」も、PKF解除、緊急事態法制の制定、(将来の)国連軍参加、そして改憲を打ち出している。
 これらの点は、「憲法改正試案」で九条の改悪、「国連常備軍への参加」を強調する自由党の小沢党首とほぼ変わらない。つまり、九条改悪の点では「野党」の鳩山代表と与党の小沢党首とは、細部はともかく基本的には違いがないといってよい。
 鳩山代表は、九条改悪と同時に「侵略戦争は行いません」と明記すればよいともいう。新ガイドラインを積極的に支持して米戦略に組み込まれ、また自衛隊の海外派兵を支持しておきながら、それは全くの空語である。積極的に改憲論をぶつ鳩山代表の役割は、客観的には改憲のお先棒かつぎで、支配層に貢献するものでしかない。きわめて危険な役目を果たしている。こうした鳩山・民主党に労働組合などは幻想を抱いてはならない。
 同じ保守でも、後藤田正晴・元副総理の「現在の自自連立、さらに自自公連立への動きは、……そこに再軍備路線、過早な憲法改正の動きを感じることがあり、不安が全くないわけでもない」(九九年五月)という警戒心と根本的な差がある。
 さらに、議論の中で改憲でも護憲でもない「論憲」という、きわめてあいまいな立場が存在する。だが、支配層は改憲の明確な狙いと術策をもって臨んでおり、あいまいなままでは、支配層の九条を中心とした改憲の策動に飲み込まれる結果に終わるだろう。これらの見解の人びとは、立場を明確にしなければならない。

改憲策動に広がる反発と警戒、広範な国民世論を
 日本国憲法は、国民主権の立場にたちつつも、世襲制の天皇を認め、「国事行為」ということで天皇に特別の権限を与えているなど、国民主権が実質的に制限され、法の下の平等にも反している。また、国家の自衛権の規定がないなど、現憲法は完全なものではない。
 しかし、基本的人権の保障などで積極性を持ち、戦後、平和を希求する国民が闘い、保守政権の軍備増強、海外派兵に歯止めをかける上で、大きな役割を果たしてきた。また、改憲を基本とする自民党政権も、現憲法を無視できず、この憲法を基礎に国を運営してきており、国民に定着した憲法である。
 調査会が発足した今、改憲策動と対決し、憲法を守る闘いは、いよいよ共同で対処すべき重要な課題となった。
 昨年来の新ガイドライン関連法や国旗・国歌法、盗聴法などの強行に続く改憲の策動は、「平和憲法」のもとで暮らしてきた多くの国民の警戒を呼んでいる。民主、公明はもちろん、自民党や保守層内部にも、改憲を警戒、あるいは反対する人びとは少なくない。中国、朝鮮などアジア諸国にも、警戒心と批判が広がっている。
 社民党は「憲法改悪を阻止するため、国民的な広がりを持つ護憲勢力の拡大と総結集をめざす」という運動方針を打ち出している。賛成である。
 わが国の平和と前途を憂い、憲法改悪に反対するすべての政党政派、労働組合、諸団体、人士は、改憲策動を阻止するため、共同して国民的な広い戦線と世論を形成して闘うことが求められている。


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