20000215 社説


沖縄・ガイドライン―変わらぬ対米追随

わが国外交の根本的転換へ国民的闘いを


 小渕首相のアジア「訪問」が続いている。一月のタイなど三カ国訪問と首相としては二十一年ぶりの国連貿易開発会議(UNCTAD)総会出席である。国内政局の激しい与野党攻防戦のかげで、小渕政権はそれなりの外交政策を打っている。
 今国会での「施政方針演説」では、首相は沖縄サミット成功を最大の焦点に「平和への挑戦」「地球への挑戦」などと題して外交方針を打ち出した。だがその内容は、美辞の羅列とは裏腹に相変わらずの対米追随と、米戦略に連動した軍事大国化の危険な策動がみえみえである。日米軍事同盟による新防衛協力指針(ガイドライン)を、来年度予算案などで具体化しようと狙っている。懸案の沖縄の普天間基地移設問題では、米国になんら異議申し立てもできず、沖縄県民に犠牲をしいるだけである。
 首相が、サミットにおいてアジアや途上国の声をあたかも「代表」するかのように演出しようとも、対米基軸の外交では底が割れている。
 われわれは当面、沖縄問題やガイドライン具体化などで全力で闘わなければならない。二十一世紀へ向け、可能な限り広範な戦線をつくり、アジアの期待にこたえる日米基軸の転換、自主・平和、アジアとの共生の国の進路をかちとることが求められている。

対米従属で何が「平和への挑戦」か
 首相は、演説で「二十一世紀を『平和の世紀』と位置づけ『平和への挑戦』を掲げる」と高言する。だが言葉とは逆に平和志向どころか、米国の危険な戦略に追随し、軍事大国すらめざしている。
 例えば、懸案の沖縄の普天間基地移設問題である。この問題は、政府の外交姿勢を象徴的に物語っている。首相は、サミット開催を非常に気にしながら「移設に万全を期す」という。
 いうまでもなく、米国にとって在日米軍基地はアジアの十万米軍の重要な基地であり、戦略拠点である。アジア諸国、人民にとっては、内政干渉、抑圧、また地域の緊張の根源でもある。本当に「平和に挑戦」するのならば、政府は米国に基地撤去を断固求める必要がある。
 だが小渕政権は、米国の要求通り相変わらず沖縄に基地を押しつけ、米国には全くもの申すことができない。この一月早々、瓦防衛庁長官が訪米し日米防衛首脳会談が開かれた。そこで防衛庁長官は、移転先基地の「十五年の使用期限」を沖縄県知事が要求していることについて、おずおずと米国側に伝えた。不当なことに、米国はこれを直ちに一蹴した。閣議決定によって、日本は最初から本気で交渉する気は全くなかったからだ。
 しかも小渕政権は、この難題をカネをばらまいて地元にのませようとしている。国会審議中の来年度政府予算案では、沖縄開発庁関連は総額三千四百三十一億円と過去最大のものとなった。これには北部振興対策費百億円が特別措置として盛り込まれた。本年に入って、カネの分捕り合戦、県・地元の「振興」を図る政府も含む三者の「北部振興協議会」なども開催され始めた。
 まさに、札束で人のほっぺたをたたいて地元に承諾を迫っている。米国と米軍駐留のために、日本政府が何千億円もの「基地対策費」をねん出する。これ程、日本国民をばかにした話はない。
 施政方針でもう一つの懸案、朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化問題がある。首相は、米韓との連携を前提に「対話をさらに進め、その中で国交正常化、人道及び安全保障の問題につき真摯(しんし)に話し合う」という。
 この問題でも、小渕政権には米国の後に従うだけで主体性がなく、あわせて北朝鮮側には大国的にすら振る舞おうとしている。誠実な国交正常化への努力の姿勢は毛頭見られない。
 確かに昨年、日朝関係では一定の変化が生まれた。米朝高官協議での合意(九九年九月)を背景にした、村山元首相を団長とする超党派訪朝団(十二月)と朝鮮労働党による共同発表、これらと前後した直行航空便、食糧支援など政府による経済制裁の一部解除などである。遺憾ながら、経過からみると、この変化とて米国・北朝鮮間の合意なくしては考えられなかった。
 それはさておき、首相は国交正常化と並んで「人道及び安全保障」を取り上げようとしている。人道問題とは、いわゆる「日本人拉致(らち)」問題などであり、安保問題とは核兵器やミサイルの開発・実験などのことを指す。つまり、正常化交渉には拉致問題やミサイル問題などをからめ、単純に正常化の努力はしないということである。したがって、食糧支援も数十万トンと本格的には実施せず、「交渉カード」として数万トンと小出しにするという。何という態度であろう。ここには戦中・戦後問題の処理・補償を含め、誠実に交渉を行う姿勢はおよそ見られない。日本側が意図的にぶち壊した、約八年前の正常化交渉の再現を許してはならない。
 東アジアの緊張の焦点といわれる朝鮮半島と台湾海峡。米国の関与、米軍の撤退など緊張の根源を排除することが最も必要なことだが、当面、日朝間の正常化はこうした緊張を一定緩和し、この地域の平和と安全に貢献するだろうことは誰も疑うまい。だが、この期間の経過でも明らかなように、小渕政権は常に米国の動向待ちで積極的、主体的に動こうとはしない。
 沖縄、日朝問題だけをみても、首相のいう「平和への挑戦」の実体が対米従属で、かつ危険なものであるかが歴然としている。こうした外交は転換されなければならない。

日米基軸からの脱却を
 こうした諸課題への外交姿勢は、「米国との関係はわが国外交の基軸」(施政方針)という点に規定されている。外交全般で、対米追随を続けるということであろう。
 中でも肝心なのは、「日米安保体制の信頼性向上、日米防衛協力指針の実効性確保」(河野外相の外交演説)ということである。実際、来年度予算案でも「新ガイドライン」の具体化に向けた軍事費が目白押しである。例えば、防衛庁予算では北朝鮮を想定して「重要事態対処」と「指揮・情報機能の充実」の事業に重点を置いている。不審船対処(ミサイル艇、海上自衛隊特別警備隊など)二百九十四億円、ゲリラ、核・生物・化学兵器対処などが五十億円、戦域ミサイル防衛(TMD)の日米共同研究などで二十億円、新中央指揮システム(NCCS、日米共同調整所といわれる)の運用開始で四十八億円などといった具合である。
 防衛庁関連の軍事費が、前年度当初予算比約三十九億円しか増えていない中で、きわめて特徴的である。がっちりと米戦略と連携、組み込まれている実態が示されている。
 アジア外交も例外ではない。小渕首相が年頭から、東南アジア三カ国やUNCTADに懸命に出かけても、こうした基本姿勢でいる限り、アジアからは「真の友」とはみなされまい。UNCTAD総会でも、途上国の発展を無視したグローバル化に対して途上国から不満が噴出している。首相はどうこたえるのか。
 確かに日本政府は、アジア金融危機以来、「新宮沢構想」などインドネシアをはじめアジアに最も多くの金融支援を実施した。だが、経済外交上はバラマキ的でしかない。当時「アジア通貨基金」構想を米国からつぶされたように、米国の激鱗(げきりん)に触れないような方策しか方策を打ち出せないのが実態である。したがって、これほどアジアに金融援助をしながら、経済政策上は米国とアジアの間を動揺せざるを得ない。
 二十一世紀に向け、わが国の進路が問われている。アジアの平和と安定、経済危機の打開にとって、本来わが国の果たす役割は大きいはずである。アジアへの貢献は、逆にまたわが国の平和と繁栄にとっても有利なものである。それがアジアとの共生というものである。アジア諸国の期待もある。そうした明確な外交を確立するには、日米基軸から脱却することがどうしても不可欠である。
 われわれは当面、普天間基地移設阻止を沖縄県民と連携して全力で闘わなければならい。ガイドラインの具体化に対しても、地域での闘いも含めて反対して闘う必要がある。同時に、広範な国民的戦線を形成して、日米基軸の外交路線を大きく転換させなければならない。


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