990925


ストップ!中小企業基本法の大改悪

一部のベンチャー、創業支援に転換
多数の中小企業はつぶれるままに


 小渕首相は、秋の臨時国会を「中小企業国会」と位置づけ、あたかも中小企業を支援するかのように宣伝している。だが、本音は選挙対策としてのアメと引き換えに、既存の中小企業を切り捨てる中小企業基本法の大改悪である。その内容は、八月二十日、中小企業政策審議会が答申した「二十一世紀に向けた新たな中小企業の在り方」に明らかである。答申は、これまで横並びで支援してきた中小企業基本法を抜本的に見直し、一部創業やベンチャー支援に重点を移すとしている。この内容が明らかになるにつれ、中小企業者、団体の中に不満と反発が高まっている。全日本小売商団体連盟の田中利夫副理事長、全国電機商業組合連合会の福田勝亮会長などに聞いた。 


二重構造は解消していない
全日本小売商団体連盟  田中 利夫副理事長


 答申は、中小企業基本法が「『二重構造』を背景とする『格差の是正』を政策理念とする」としたことについて、「二重構造は解消した」「もはや中小企業は弱者ではない」などとの認識に立っている。だが、これは大企業に限りなく近い中規模企業のことであり、中小企業の九割以上をしめる小規模・零細企業の実態とは異なる。まず、この出発点が違う。
 中小企業基本法は、いわば中小企業にとっての憲法である。それをなぜ短期間で改正するのか分からない。中小企業政策審議会の答申は八月二十日だが、研究はわずか三カ月ほどである。そして秋の臨時国会で基本法改正案と関連法案を提出するという。これほど重要な改正だから、もっと議論すべきだ。さらに、改正にともなう影響について調査をしなくてはならない。通常ならこれらの議論や影響調査で数年はかかるものだ。
結局、通産省は国際競争力のある企業を支援する、経済構造を変えて、ロスの少ない企業を育てるつもりだろう。中小企業ほどロスの多いものはないのだから、影響は計り知れない。しかも、中小企業の地域や社会への役割については、ほとんど考えられていない。商店街が果たす地域のコミュニティー、地域経済としての中小企業の役割などをきちんとすべきだ。
 ベンチャー支援だが、以前もベンチャーが騒がれたが、ほとんど残っていない。リスクが大き過ぎるからだ。中小企業を荒海に投げ出すようなものでしかない。
 また、商工会の合併などの問題もある。機能できる規模は必要だが、地域性などを考慮しなくてはならない。もともと、基本法ができたころも協業組合や合併が行われたが、うまくいかなかった経過がある。なんでも大きくすればよいものではない。
 競争強化の代償としてセーフティーネットがいわれているが、あり得ない。一度倒産や不渡りを出した中小企業が再起するのは不可能である。九九%はそのまま終わってしまう。再起はよほどの独自技術をもつオンリーワン企業か国際競争力のある大企業に近い中規模企業だけだ。
 もともと大企業と中小企業では、ゴルフのハンディでいえば、逆に大企業にハンディを与えている。それが答申ではさらに中小企業に逆ハンディを強いるものとなる。
 いずれにしても、答申の発想は逆だ。経済は人間が幸福になるためのものだ。それが市場原理、経済優先で中小企業が脅かされている。


弱い者はつぶれろと言うのか
全国電機商業組合連合会  福田 勝亮会長

 中小企業基本法を改正するというが、その前提として中小企業は「弱者」でないとしている。とんでもない。中小企業がなぜどんどん倒産してやっていけないのか、政治家は、その構造や背景が分かっていないのではないか。
 商売だから競争は当然ある。しかし、同じ土俵で争うなら分かるが、二重構造でわれわれと大企業に格差をつけておいて、競争して勝てるわけがない。二重構造がなくなったなどとはウソだ。
 その上、小売商については、大店法をなくして商店をつぶしておいて、意欲のないところは自然淘汰(とうた)するというが、中小商店をつぶしておいてよくいうものだと思う。
 最近も規制緩和で「ドンキホーテ」という二十四時間オープンの店ができた。交通渋滞や騒音で、住民の生活が脅かされる大問題になっている。これは市場原理だけでいけば地域社会を破壊する証明である。
 ベンチャー支援は強いものを残し、弱いものは自然淘汰ということでつぶれろ! ということでしかない。そんなことでよいのか。
 誰かが「資本主義を野放しにすれば、猛獣と同じで殺し合いになる」と言っていた。あるいは「人の命は地球より重い」と言われるが、実際の社会は毎日毎日殺し合いだ。電機商でいえば、相手の店が一割安くする。別の店がさらに一割五分安くする。これを繰り返していればどうなるかははっきりしている。これこそ殺し合いだ。
 グローバル化した大競争ということで悪い方向に向かっている。電機商業界の問題だけでなく、日本社会の問題として考えるべきだ。こうした社会にしてしまった責任は政治家にある。そのことをきちんとしないと日本はよくならない。


中小切り捨ては地域経済の衰退招く
工業会役員

 答申は「脱下請け、自立化を図る企業、大企業にとって不可欠なパートナーシップを形成している中小企業の例もみられる」としているが、実際にはこれは高い技術をもつオンリーワンの中小企業だけだ。
 ほとんどの中小企業は、大企業の下請け・孫請けでコストダウン要求に苦しんでいる。さらに大企業などの海外展開による空洞化によって仕事がなくなるなど厳しい状況にある。こうした中では、技術向上の努力にも限りがある。その点でも多くの中小企業は「弱者」であり、支援はますます必要だ。
 答申はベンチャーやインターネットを活用したSOHOなどを支援するというが、ベンチャーだけが中小企業ではない。特に地域経済に大きな役割を果たす中小企業の活性化がなければ、地域経済も衰退する。中小企業政策は、地域経済政策と結びつけて考えなくてはならない。


中小企業重視の政策へ転換を
中小企業家同友会全国協議会の中間答申への意見(抜粋)

・私どもは、不公正取引への対応には独占禁止法の活用が必要であるとの前提に立ち、厳格な運用だけでは済まない場合は、独禁法の強化も政策の範囲に入れて対応しなければ市場原理の尊重にはならないと考えます。
・地方公共団体は、地域活力の源泉たる中小企業の振興を図るための施策を、地域の実情を踏まえ策定し実施すべきで…しかし、財源問題に触れられていないのはいかがなものでしょうか。…地方が自主的に裁量できる財源問題をどうするのかを合わせて提示されることを望みます。
・私どもは大転換期の日本経済に果たす中小企業の重要な役割を正当かつ正確に評価するならば、従来の補完的政策としての位置づけから、大企業が日本経済に果たす役割に並ぶ二つの柱の一つに位置づけを変えて、中小企業重視の政策へ抜本的に転換させる時期であると判断しています。中小企業政策を補完政策から重視政策へ大転換することこそが必要であると考えます。
・中小企業の役割の高まりの評価は何によって担保されるかといえば、その一つの指標が予算措置です。国家予算の1%にも満たない現状(99年度、0・23%)を評価に見合う水準まで急速に改善していくべきであると考えます。


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