書籍紹介
本書は、日本の戦争責任を追及し、歴史の事実を明らかにするため活動している「アジア・太平洋地域の戦争犠牲者に思いを馳せ、心に刻む会」実行委員会が編著している「アジアの声」の十二冊目。
同会は、毎年八月十五日に、アジア各地の戦争被害者や直接加害に関与した日本人などの証言を聞き、話し合う集会を開いている。
本書は三部に分かれ、一、二部では一九四一年の太平洋戦争開戦前後から中国大陸で続いていた残虐な侵略行為「三光作戦」と「細菌戦」について、中国人被害者や研究者十三人、元日本軍人三人の証言などが取りあげられている。
家族十一人のうち八人が殺された段志民さん、日本軍が無抵抗の妊婦や子どもを引き裂くのを目撃し、抗日の意思を強くした元八路軍の陳平さん、日本軍のまいたペスト菌に侵され、人体実験などの末に村の人間の三分の一が殺されたという王麗君さん。彼らの証言は、想像を絶する日本軍の残忍さをあらためて突きつける。
また、戦後中国の戦犯管理所に収容され、中国政府の管理下で残虐行為を認めた元日本軍兵士の証言からは、中国の「前事不忘後事之師(前の経験を忘れず後の教訓とする)」という考え方がうかがえる。
三部では「日本社会の現状をどう越えていくか」と題し、私たちに課せられた責任について四人が発言している。
精神病理学者の野田正彰さんは「極端なまでに経済主義にすり替えられた社会がつくられてきた」と戦後日本社会のゆがみを指摘している。
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今年も八月十五日には多くの閣僚や国会議員が靖国神社を参拝し、靖国神社の特殊法人化構想まで出されている。日本軍による侵略の事実を一つひとつ掘り起こし、多くの日本人に知らせること、日本が国家として謝罪と補償をきちんとすることは、アジアの一員であるわが国の将来のために、必要不可欠なことである。(A)
東方出版・千八百円+税
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