990825


書籍紹介

自民党階級政策の実態赤裸々に

「自民党長期政権の研究」ケント・カルダー著


 先の国会の経過を見て、小渕政権があたかも強力であるかのような評価が一部に出ている。だが事実は違う。自由、公明両党が、自民党に手を貸しているからにすぎない。戦後、わが国政治を単独で支配してきた自民党は、こんにちでは有権者の支持がわずか二〇%程度にまで落ち込んだ。国民の信頼をほぼ完全に失ったといってよい。単独では政権を維持できなくなった自民党に、自由、公明が手を貸すことで、かろうじて自民党主導の政治が成り立っている。

 本書は、自民党が長期政権維持のために、財政をふんだんに使いバラマキ政治を継続してきたしくみを、歴史的に検証している。

 著者は、戦後の自民党支配の大きな危機は三度あったという。四九年から五四年(吉田政権時代)、五八年から六〇年(日米安保前後)、七一年から七四年(田中政権時代)。しかし、その危機に際して「戦後日本の保守陣営は、まれにみる融通性を発揮し、さまざまの利益分配政策を生み出してきたのであり、その努力の積み重ねの上に、自民党の長期政権は出来上がっていた」という。

 バラマキとは公共事業、農産物への補助金、中小企業の輸出振興を奨励した政策金融、社会保障の拡充などを指している。中小企業家、農民、地方など、中間層にぼう大な補助金を出すことによって、自民党への支持をつなぎとめ、長期支配を維持してきた実態があからさまに描かれている。これこそ政権維持のための露骨な階級政策である。

 本書は、八〇年代後半までの記述で終わっているが、自民党のこうした長期支配のしくみが岐路に立っていることを指摘している。八五年のプラザ合意以後の「国際化」の流れは、九三年、自民党の単独支配に終止符を打った。

 にもかかわらずその後も自民党主導の政治が続いているのはなぜか、これをどう打ち破るかを考えるうえでも、本書は役に立つに違いない。(I)

文藝春秋・二千五百円


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