990805


日本再生・アジア新生

マハティール・ビン・モハマッド著


 アジア経済危機の原因と今後の方向をめぐって国益をかけた論戦が行われている。つまるところ、米国流の「自由市場主義は正しいのか」をめぐる論戦であると思う。マハティール首相は経済危機以降「自由市場主義」と断固として闘ってきた。彼の経験や現在の立場を説明している本書は、三つの点で参考になる。

 第一は、アジア経済危機についての見解である。著者は「アジアの基本的な価値観が、アジア経済危機の原因とは直接関係がないことは言うまでもない…価値観の中で悪いと証明されたものがあるとすれば、それは西欧が生み出したグローバル金融システムに内包された、純粋に利益志向型で、過剰な物質的な価値観そのものにほかならない」と「自由市場主義」を真っ向から批判する。

 第二は、先進国の経済侵略に対する認識である。「(多国籍企業が、コストの一番低いところで生産する結果、貧しい国が豊かになる。このようなシナリオを信じていたが)過去を振り返ってみると、私の世界観はあまりにも理想を追いすぎたようだ…富める者が貧乏人を搾取する権利を容認するような価値観と、それを可能にする手段と方法を兼ね備えたシステムが世界中を牛耳っているからである」と述べている。九八年・労働党旗開きで発した「アジアの指導者は経済危機から何を学ぶんだろうか」という問いかけに対する明快な答えである。

 第三に、日本に対する期待と批判を述べた部分である。「日本は国際舞台でアジアに関係する諸問題を取り上げて、アジアにとって良い手本となるべきだ」「日本はまだ本当にアジアの一員なのかどうかを決めかねているように思える…日本政府は、日本は西欧の一員か、もしくは西欧ともっと密接に連携すべきだと考えているようだ」「日本の政治指導者や企業のリーダーにとっての最大の課題は、日本国民の目を、他のアジア諸国との親密な協力関係に基づいた、未来に向けさせることである」

 「アジア諸国と広く友好を取り戻す。ついには尊敬を受ける、力強く頼られる、そういう道を歩くべきだ」という党の主張(九九年議長新春インタビュー)はアジアの指導者が経済危機の経験を通じて得た結論でもある。一読を。 (H)

たちばな出版 定価1600円(税別)


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