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ターボ資本主義
―市場経済の光と闇―

エドワード・ルトワク著


 筆者のエドワード・ルトワクは、かつてレーガン政権時代には軍事戦略研究家として政府内で活躍した人物で、軍事戦略だけでなく、経済など幅広い分野で論陣を張っている。現在はワシントンの戦略国際問題研究センター上級研究員である。

 「ターボ資本主義」とは規制緩和による市場万能の資本主義。言うなれば「むき出しの資本主義」のことを、氏はそう定義した。

 本書では「日本が『ターボ資本主義』を完全に受け入れれば、数百万人が職を失い、多数の大企業も中小企業も倒産し、米国と同様に貧富の差が拡大する」と警告する。そして日本は規制緩和によって経済を救うのか、社会を救うために規制緩和に抵抗するのか、と問題を投げかけている。

 「ターボ資本主義」は、先進国ではすでに取り入れられている。特に米国は景気好調から「市場万能」「規制緩和」を持ち上げている。だがその米国では、多くの労働者が低賃金のため、複数の仕事をしなくては暮らせない。さらに単純作業の労働は海外に移され、高度な技術をもたない労働者は失業する。そして、凶悪犯罪の多発、離婚がごく当り前で家族が崩壊し、地域の中で人びとの結びつきもないことを多くの実例で紹介している。

 氏は改革には犯罪の増加が付随すると、日本が改革を進めるなら刑務所を大量につくるように提案している。そのことは、米国の麻薬犯罪を例に引きながら、麻薬取り引きを行っている二万三千人と利益約三億ドルを分析し、さまざまなリスクはあるが、一人当たりの年収は一万二千五百ドルとなり、失業と貧困にあえぐ人間からすれば「合理的な選択」だと結論づける。

 氏はさらに「改革にともなう痛みは全員で分かち合うが、痛みに耐えて得た成果はごく小数が独り占めする」と指摘し、その解決には「永遠の成長」しかなく、それは不可能だと論じている。現在、日本で多くの学者や政治家が「規制緩和」「市場万能」が国民を豊かにすると宣伝しているが、本書はそのペテンを米国などの実例で示している。そして、この「市場万能論」もやがて歴史から消え去るとしている。その先については、何も言っていないのが残念だが… (Y)

TBSブリタニカ 定価2000円(税別)


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