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介護保険

実施の延期、抜本見直しを


 公的介護保険が来年四月から実施されようとしている。しかし、問題点が多く、各方面から不信の声があがっている。あらためてその仕組みや問題点をみてみる。


介護保険とは

 介護保険は、介護を必要とする高齢者に対して保険によって介護サービスを提供するもの。

 保険料を払うのは四十歳以上の人。保険料を払い、認定されれば、サービスを受けられるが、さらに利用料として一割負担がある。

 第1号被保険者―六十五歳以上のすべての人。保険料は年金から天引きされる。生活保護を受けていたり、低所得で国民健康保険料が免除されている人も支払う。常に介護が必要とする状態や、日常生活に支援が必要な状態になったと、認定された場合にサービスが受けられる。

第2号被保険者―四十歳から六十四歳までの医療保険加入者。初老期の痴呆、脳血管疾患などの老化が原因とされる病気によって、介護が必要と認定された人だけがサービスを受けられる。

実施すれば混乱必至

一、保険料・利用料の負担に耐えられるのか

 当初、厚生省が示した保険料は二千五百円だったが、全国市長会の調査では、三〜四千円の保険料とする自治体が六割を占め、五千円以上の自治体も一割以上ある。

 月額四千円の場合で、夫婦で年間約十万円の負担となり、利用すればさらに負担が増加する。低所得者が多い高齢者にこれだけの負担に耐えられるだろうか。

二、コンピュータで認定できるのか

 昨秋、全国で実施した認定の試行事業では、重い傷害をもつ人が介護不要と認定されるなど、コンピュータ・ソフトの不備が指摘された。また、介護認定にともなう個人情報がケアプラン作成の場に提出されるが、プライバシー保護が可能かという問題もある。

三、サービス不足のまま実施できるのか

 公的介護保険法が成立したときに、新ゴールドプランの達成が付帯決議された。しかし、新ゴールドプランはまだ達成されていない。そして、全国市長会のアンケートでは、介護サービスの充足率は約六割。介護保険が実施されても介護を受けられない。


広がる不信、実施見直しの声

老人は死ねと言うのか/高齢者団体役員

 高齢者は、医療保険制度が改悪され、負担を強いられてきた。その上、介護保険が実施されれば、介護保険料を支払い、サービスを受けるたびに一割負担となる。とんでもない制度だ。

 しかも、老人医療についても新たな保険制度を導入しようとする動きもある。高齢者が医療保険を払い、利用料を負担し、さらに介護保険料を払い、そして一割負担となる。

 これまで家族のため社会のために働いてきた高齢者の体がボロボロになるのはしょうがないことだ。だから病院にも多く行かなくてはならない。介護も必要になる。そうした高齢者をまた痛めつけるのかと思うと、怒りがわいてくる。

 また、なかにはご主人の厚生年金だけで暮らしている人たちもいる。介護保険が実施されれば、とても生活できない人たちがたくさん出てくる。老人は死ねと言うのか。

介護保険は生存権の侵害だ/特養ホーム施設長

 介護保険が実施されれば、特養ホームの三分の一はつぶれる。

 現在、特別養護老人ホームにいる方の約八割は利用料が払えない。これまでは、自治体などがホームに対し補助を行っていた。それもなくなるので、ホームはその方々を追い出さなくてはならない。

 経営的には、要介護認定の重い方を集めて、高い保険料で維持するか、軽度の方だけを集めて、職員を減らして維持するしかない。

 これはどう考えても福祉ではない。金があるのでよりよいサービスが受けられるなら、ふつうのサービス業にすぎない。憲法で、国民は健康で文化的な最低限の生活を国の責任で保障されている。介護保険は生存権の侵害だ。

障害者にも保険料の負担/障害者の家族

 最近、市の福祉関係の人から、「障害者福祉法による障害者への福祉制度が二〇〇五年になくなり、障害者へのサービスも介護保険に一本化される」と聞いた。そうなれば、障害者も介護保険料を払い、一割を負担しなくてはならない。

 私が生きていれば、なんとかなるかもしれないが、障害者が一人残されて、どうやって生活するのか。作業所での報酬はわずかなもので、とても生活費などねん出できない。

 ふと、この子を道連れに自殺しようかとさえ思ってしまう。


自治体、住民への過重負担反対
全国1200以上の議会が意見書

 多くの自治体が介護保険の主体として、さまざまな負担を負わされるのは明らかである。

 サービスを実施するために、施設の建設、事務処理などぼう大な費用がかかる。そのため、全国町村会をはじめ全国の三分の一以上の地方議会が政府に意見書をあげている。資料として5月27日に採択された大阪市議会の意見書(要旨)を紹介する。


大阪市議会介護保険制度に関する意見書

 2000年4月から導入される介護保険制度は、国民生活や地方行財政に極めて重大な影響をおよぼすこととなり、現時点においても、多くの課題や問題点が指摘されている状況である。

 よって政府におかれては、国民健康保険制度の運営が困難な実態にあることを踏まえ、地方自治体や要介護者および家族に過重な負担を生じさせることなく、国の責任において長期的に安定した運営が可能な制度として実施されるとともに、施設整備や人材確保などサービス基盤の早急な充実をはかるための国庫補助制度の充実と事務システムの構築や事務に要する人員の確保に必要な財政措置を講じるよう強く要望する。


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