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財政危機打開には、原因と責任の明確化がまず必要である

弱いところに犠牲を押しつける財政再建であってはならない

一九九八年十一月 日本労働党神奈川県委員会


 党神奈川県委員会(山本喜俊委員長)は十一月二十七日、岡崎県政の「財政危機宣言」に対する見解を発表した。その要旨を紹介する。

 岡崎知事は、「県財政の危機」を宣言し、県民や県職員に一方的に犠牲を求めている。

 しかし、なぜ危機に陥ったかは明確にされていない。まして責任がどこにあるのか、まったく明確ではない。原因も責任も不明では、財政が再建されるという保証はない。

 県知事の政治責任を明確化するとともに、県政全体の転換を実現しなければならない。

(一)財政危機の根源は、歴代知事が進めた一部企業利益のための開発政策

● 「歳入不足」は過大な見積もりが前提

 岡崎知事も、知事に批判的な一部勢力も、「県税収入が見込みよりも一千億円も落ち込んだ」と言っている。こうした言い方は、バブル絶頂期を正常と考える異常な認識に過ぎない。

 改訂された今年度の県税収見通しは九千七百億円(平年度化した地方消費税収見通し五百七十億円分を引くと九千百三十億円)である。これだけの歳入があったのは、バブル絶頂期の八八年度からの数年にすぎない。九四年度八千八百億円、九五年度九千百七十億円で、バブル前は七千億円前後が最大である。

 今年度予算策定を進めた昨年の今頃は、アジア経済危機から北海道拓殖銀行や山一証券の倒産と、深刻な経済危機が始まっていた。税収の大幅減少見通しが本来当然のことであった。ところが、岡崎知事は税収見積もりを過去最大規模の一兆九百億円と組んだ。あまりに過大、幻想的だったが、あとでふれるように知事にはそれがどうしても必要だった。

● 問題は歳出、最大の原因は県債償還費

 問題は、歳出が増え続けていることである。その最大要因は、増え続ける投資的経費(公共事業費)と県債の償還費用である。

 長洲前知事時代、県は投資的経費を急膨張させた。バブル崩壊後も、県債を乱発し継続した。投資的経費は八八年度の約二千百億円が九四年には四千三百億円に、倍増以上となった。バブル崩壊後県債発行は急増し、九四年には三千三百億円(九一年はわずか八百億円)にもなった。その結果、県債発行残高は二兆円に迫り、一般会計総額(約一兆七千億円)を上まわる「サラ金財政」に陥った。この返済(一年で二千億円前後、予算総額の一〇%以上)に追われているのである。

 県の財政危機の本質はこうしたことである。

● 一握りの企業が利益を得た巨大プロジェクト

 根本的な問題は、この公共事業で誰が利益を得たかである。一部の政党はゼネコンがもうけたという。たしかにゼネコンは利益を得ただろうが、肝心なことはそれだけではない。

 周知のように長洲前知事は、三井不動産の宅地造成にすぎない「湘南国際村」などの事業を進めた。このように県は、三井や三菱、東急電鉄など不動産業企業と結びついて、巨大プロジェクトを進めた。この結果、いま県内で最大の利益をあげる産業は不動産業という実態となっている。横浜の「みなとみらい地区」に建つ、日本一のランドマークタワー・ビルや、やはり日本一の商業施設といわれるクイーンズ・スクエアなどをみれば明らかである。

● 岡崎県政もこれを継承発展

 岡崎知事も、この方向を継承・発展させている。九七年度からスタートした「かながわ新総合計画」は、五カ年で十二兆三千五百億円の大規模な投資的事業計画である。これを進めるためにこそ、願望の税収見通しを立て、巨額の県債を発行して予算を組んだのだ。

 こうして、岡崎県政は誰に奉仕するというのか。たとえば、「京浜臨界部再編整備構想」を重点政策に掲げ、この地域の「サービス経済化」(手塚治虫ワールドや物流基地など)を主張している。その誘導プロジェクトは、「東海道貨物支線貨客併用化」である。東京都心に十五分前後でつながる鉄道ができれば、京浜臨海部の地価は大幅に上がる。一部企業が工場を放棄し「土地利用転換」を進めているが、それを支援するねらいは明白である。

● 原因と責任を明確に

 このように、財政危機は一握りの企業利益のための開発政策を進めてきた県政の結果である。税収減で、その矛盾が露呈したに過ぎない。

 責任を明確にして知事を換え、県政を根本的に変えない限り、財政危機は打開できない。一握りの企業のために使われた財政赤字を、県民は決して引き受けることはない。

 長洲県政、岡崎県政を支えてきた自民党など議会各党にも大きな責任がある。企業ゆ着は、最近の県会議員の相つぐ逮捕にもみられるように、議会にも及んでいる。

(二)国とは闘うべきだが、それを理由に県の責任をあいまいにはできない

 国と地方の「いびつな税源配分」こそ問題だという意見はその通りで、地方自治体・県民は結束して国に要求しなくてはならない。だが、ここ十年余の県財政の根本的問題を帳消しにすることではない。

 また、不況対策ということで、国が地方に景気対策を押しつけた「責任」を明確にし、国に緊急対策をとらせるという意見もある。確かに押しつけたのは国だが、県はそれを無批判に受け入れ、特定の企業利益のためにむしろ積極的に投資を増やした責任を免れることはできない。

 こうした見解は、県の責任をあいまいにするものである。ましてや、知事や一部政党のように財源対策として政府に、中小企業への大増税となる「外形標準課税方式」導入を要求し、県民に負担を求めるなど論外である。

 さらに問題は、岡崎知事が「赤字再建団体に転落すれば自治省の管理下になり財政自主権が貫けない」などと自分の責任を棚に上げ、県民と県職員を脅していることである。知事が県民とともに闘うべき相手は、介入してくる自治省であろう。

 そもそも、政府や自治省に、神奈川県を「管理」する資格などない。県財政は、自治省の決めた「地方財政計画」にそって運営され、その結果としての財政赤字にほかならないからである。

 東京都をはじめ大阪府も愛知県も財政危機状況で、これら都府県が連合して自治省と闘うべきである。

(三)知事を換え、県民だれをも犠牲にしない財政再建を

 県財政危機の打開は、現知事の責任を明確にして知事を取り換え、県民の合意のもとに進めなければならない。

 県政と一部企業のゆ着をただし、投資的経費(公共事業)の全面見直しが必要である。すべての投資的経費をいったん凍結・白紙化し、計画を作り直す必要がある。

 県民生活を犠牲にしてはならない。少なくとも福祉、医療、教育費、市町村への補助金などは現状維持、むしろ強化を前提に検討する。危機の尻ぬぐいを市町村に押しつけてはならない。県人事委員会勧告は完全実施しなければならない。

 県は、県民、県下市町村、また、全国の地方自治体と結束し、財政自主権の確立、真の地方自治を前進させるため奮闘しなくてはならない。


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