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東京

核問題でシンポジウム

吉田康彦氏、野田英二郎氏などパネラーに

核廃絶へ日本の責任問う


 五月のインド、パキスタン両国の核実験後、核拡散防止条約(NPT)による五大国の核支配体制に対し、途上国や非同盟諸国から批判の声が高まっている。十月十八日に労組役員や学者など九十五人が呼びかけ・賛同して開かれたシンポジウムは、五大国による核支配体制を暴露し、こんにちの核兵器問題の根源を議論した。核兵器廃絶に向けて世論を盛り上げるうえで意義ある集会となった。 


 シンポジウム「核兵器廃絶の課題・問われる日本の責任」が十月十八日、東京・全水道会館で開かれた。主催は、紀平悌子・日本婦人有権者同盟会長、指揮者の外山雄三氏、槙枝元文・元総評議長などが呼びかけた実行委員会。会場には労働者や学生など約百人が集まった。

 主催者を代表して、呼びかけ人の一人である隅谷三喜男・東京大学名誉教授があいさつを行った。氏は新たな日米防衛協力の指針(新ガイドライン)について触れ、「旧ガイドラインが出されたときには、議論も反対運動もなかった。新ガイドラインに対し、国民的議論が必要であり、さらに新ガイドラインを批判し、有事立法に反対する運動を展開しよう」と呼びかけた。

 シンポジウムでは、吉田康彦・埼玉大学教授、野田英二郎・日中友好会館副会長、前野良・原水爆禁止国民会議顧問の三氏が発言した。

 吉田氏は、まず「印パの核実験は、国際社会に問題提起を行った、という意味で『けがの巧妙』といえる。インドはこれまで核不拡散体制の矛盾や不平等性を訴えてきた」としたうえで、NPT体制について「既存の核兵器をどうするか、新たな核兵器開発をどう防ぐか、という問題がある。開発防止については、NPT体制で規制されているが、NPT体制強化が核廃絶につながるわけではない。NPTをいくら強化しても『不拡散』であって『廃絶』でない」と指摘。核兵器廃絶には、なによりも米国の核軍縮が必要と述べ、「日本政府は米国に核廃絶を求めるべきだ。また、核兵器の先制使用禁止、非核地帯を世界に広げていこう」と述べた。

 続いて野田氏が、朝鮮民主主義人民共和国の人工衛星打ち上げで、日本政府が「ミサイル発射」として制裁を行ったことにも触れながら、日本政府の自主性のなさを批判した。野田氏は「インドの核実験に日本は過剰に反応した。インドに対しては『核実験はけしからん』一点張りで、実験の背景について理解していない。北朝鮮の人工衛星打ち上げにも過剰反応した。相手の国情に対する理解がないと、感情論だけになってしまう。これは日本自身の利益にもならない。日本は情勢判断の情報も米国に依存しており、主体性が全くない。自主性のなさが改めて露呈した」と日本政府の外交姿勢を批判した。

 前野氏は、自らの被爆体験と原水禁運動の経験を踏まえ、「運動体が小さくわかれてしまっている。個々の運動を重視しながら、それらをつなげていかなければならない」と提起した。

 質疑応答の後、片岡健・日中友好協会副理事長が「今日の発言に『私たちは米国の世論は変えられないが、日本の世論は変えられる』とあった。まさにその通りだ。核兵器廃絶へ向け、意義のある討論ができた」とまとめ、閉会した。

 印パ核実験後、世界では核保有五大国に核軍縮・廃絶を求める声が高まっている。国内でも、「米国の核の傘から脱却し、日本政府は核兵器廃絶へ積極的に努力すべき」との世論が広がっている。こうしたなか、日本の責任を考えるシンポジウムが開かれたことは意義深く重要である。


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