980905


東京

米国の核の傘から脱却し

今こそ核兵器廃絶を

 政府系の「行動会議」に対抗

市民が提言まとめる


 五月の印パによる核実験以降、核廃絶をもとめる国際世論は日増しに大きくなっている。日本国内でも、被爆国である日本が米国の核の傘から脱却し、米国をはじめとする核保有五大国に核廃絶を迫るべきという世論が広がっている。日本政府が提唱し、八月三十日から開かれたフォーラム「核不拡散・核軍縮に関する緊急行動会議」に対し、米国の核の傘からの脱却など市民の意見を反映させようとする集会が開かれた。

 「市民の声今こそ核兵器廃絶を! 緊急行動会議」が八月二十九日、東京・専売ホールで開かれ、約百二十人が参加した。梅林宏道・太平洋軍備撤廃運動国際コーディネーターや、江尻美穂子・日本YWCA会長などが呼びかけた実行委員会が主催したもの。

 第一部では「核兵器廃絶への道筋」と題し、吉田康彦・埼玉大学教授や前田哲男・東京国際大学教授、池田眞規・日本反核法律家協会事務局長などが報告を行った。

 第二部では「日本は何をすべきか」と題し、田中煕巳・日本原水爆被害者団体連絡協議会事務局次長、ジャクリーン・カバッソウ氏(米国西部諸州法律財団)などが発言した。また、外務省から軍備管理軍縮課首席事務官の森野泰成氏が出席、政府見解を報告した。

 池田眞規氏は、国際反核法律家協会の加盟団体である米国の「核政策に関する法律家委員会」が提起し、国連の文章となっている「モデル核兵器条約」について報告した。

 池田氏は報告の中で、「核廃絶へむけた条約について『米国が反対するだろう』という意見があるが、国際的には可能なことではないか。戦後の歴史を見ると、大国でなく小さな国が共同すれば国際政治を動かせる展望がでてきている。米国といえども、世界の大きな世論には屈服せざるを得ない。民衆の力に依拠して核廃絶運動を進めていこう」と述べた。

 吉田氏は、「核不拡散条約(NPT)と包括的核実験禁止条約(CTBT)のこれから」として「NPT体制の実際を見極める必要がある。NPTは五大国(締結時は三大国)の核独占体制を国際的に追認させたもので、『核保有容認条約』といえる。また、核軍縮について交渉すると定めているが、廃絶するとはなっていない。インドの主張を待つまでもなく、不平等条約なのは明らかだ。米国はイスラエルに核情報を提供しており、印パを非難するのはき弁だ。日本はNPTから脱退し、途上国などにも集団脱退を呼びかければ保有国はおびえるだろう」と問題提起を行った。

 前田氏は、「印パの核実験は日本自身の核政策の全面的な再検討を突きつけた。日本の核政策は矛盾した四つの政策((1)非核三原則、(2)核軍縮に力を注ぐ、(3)国際的な核の脅威に対し米国の核の抑止力に依存、(4)核エネルギーの平和利用は最重点国策)をよせあつめたにすぎない。日本は非核三原則をもちながら、安全保障は米国の核に依存し、核政策が一貫していない。今こそ、日本は核の傘という『はだかの王様』のファッションを脱ぎ捨てる決断が必要。そして東北アジア非核地帯設置を呼びかけるべきだ」と、日本の核政策の見直しを提起した。

 第二部では被爆者の立場から田中氏が発言。田中氏は「核について『軍縮』や『凍結』というのは、核兵器があることを認めた上での考え方。被爆者は廃絶を求める。安全保障は核のないもとで考えるべきだ。日本政府の態度は被害を受けた側ではなく、原爆を落とした側の立場に立っているように感じる」と政府の態度を批判した。

 集会では活発な質疑応答と討議が行われ、最後に「市民の提言」がまとめられた。提言では、日本政府に対し(1)米国の核の傘からの脱却、(2)核兵器禁止条約早期締結に向けイニシアチブをとること、(3)保有国に未臨界核実験などを行わないように求めることなどが盛り込まれた。

 核廃絶へ向け、核兵器禁止、核の傘からの脱却を求める運動は前進している。


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