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中小企業が集中する東京・大田区を訪ねて

仕事をよこせ 貸し渋りやめろ

怒りを政府に突きつけよう


 参議院で惨敗した自民党・橋本首相が退陣し、小渕政権が誕生した。小渕新政権は、金融システム安定化、景気対策、「減税」などを最優先課題としている。それは銀行など大企業を救済し、労働者、中小商工業者など国民大多数には犠牲を押しつけるものである。長引く不況の中で、中小企業は仕事がなく、資金繰りも銀行の貸し渋りによって困難になり、倒産、廃業の危機がいっそう深刻化している。何よりも多国籍大企業優先の経済運営をもくろむ小渕政権に対し、要求実現のため、労働者、中小商工業者は闘わなければならない。編集部は東京の中小企業が集積している大田区を訪ね、その実情と要求を聞いた。(Y)


 大田区には、東京二十三区最多の六千七百もの工場があり、そのほとんどは中小企業である。

至る所で貸し渋り

 まず、大田区の中小企業の全体について、大田区工業会連合会の野上浩民事務局長に話を聞いてみた。

 野上氏は「多くの中小企業が仕事がなくて困っている。仕事さえあれば、何とかなるが、この不況はどうにもならない。区や都のレベルで対応できるものでない。根本は日本の産業構造にある」と、いきなり核心に迫ってくる。

 野上氏は続ける。「トヨタやホンダなど大企業が史上最高の利益、かたや中小企業では倒産が最悪になっている。この構造こそが問題だ」と語る。

 続いて、銀行による貸し渋り問題について聞いてみた。「サギまがいの回収まである。一千万円借りていた会社が再融資を求めると、銀行は『貸していた一千万円のうち残りは二百万円だから、それを返していただけば、再度一千万円を用意します』などと言われ、無理して二百万円を返済しても、銀行からは『再融資はできません』などという話がある」という。

 そして行政などの公的資金についても「信用保証協会の融資にしても、取引先の銀行を通じて申し込むことになっている。すると、銀行は申し込んだ会社の担保価値を計算し、そこで多くがはねられる。直接、保証協会に申し込んでも、当然のように『担保は』とくる。本来、保証協会は自治体が銀行などの融資を受けられない企業に融資する制度だ。担保がないから保証協会に来るので、それを担保などとんでもない」と、保証協会のあり方に憤慨している。

蓄え崩して何とかしのぐ

 次に羽田空港の隣の工業団地で、約二百五十社が集中する京浜島を訪ねた。ここにはかなりの優良企業も含まれている。何十年と営業してきた会社や、この技術なら負けないといった会社が多い。

 ある金属加工会社を訪ねてみた。工場に数人の労働者がいるが、掃除をしている人、タバコを吸っている人などが暇そうにしている。事務所を訪ねると、社長さんが話をしてくれた。

 「仕事がない。これが一番困っている。この調子じゃ九月までないだろうな。たまに仕事が来ても『特急』で、すぐに仕上げなければならない。だから、材料にしても大至急一本だけ届けてくれとも言えないので、自分で仕入れに行かなくてはならない。こんな調子が続いている。今日も午前中で仕事は終わってしまった」と言う。

 続いて「結局、今月も借り入れるしかない」というので、どこから借りるか質問する。社長は「自分の預金を解約するだけ。多くの社長たちは、これまで蓄えたものを取り崩して、なんとかしのいでいる。本当はもう仕事をやめたいと思うが、従業員もいるし、自分も生活できなくなるので、しばらく赤字覚悟でやろうと思っている」と話してくれる。

 最後に今の政治に望むことがありますかと聞いてみた。すると「何もないよ。仕事がほしいだけだ」と言って、仕事場に向かって行った。

   ◇     ◇

 昼休みになり、ところどころで労働者が休んでいるので話しかけてみる。

 「だめだよ。仕事が減って、残業がないから生活が苦しい」などの声が返って来る。また工場には、バイクやスクーターが目につくので、聞いてみた。「以前はマイカーで通勤する人も多かったが、生活が苦しいので車検の時にスクーターに代える人が多いよ。まだ若い人は自動車を買っているが、俺らみたいに子供が大きくなって金がかかるとどうしてもバイクかスクーターにしなくてはならない」とのことだった。こんなところにも不況が影響している。

新政権にもガッカリ

M工業では、専務さんが対応してくれた。

専務は「うちは企業に依頼され、研究用の試験を行っている。これまでは景気に左右されない業種といわれてきた。だが、うちも仕事は七割に落ち込んでいる。この不況はうちのような所にまで及んでいる」と話す。

 融資は、鉄鋼協同組合が融資制度をつくっており心配はないが、組合参加の企業のうち四割しか利用していないという。

 続いて専務は政治について「ともかく自民党の総裁選、閣僚づくりをみてもがっかりした。日本の政治を大胆にリフレッシュすることが大事だと思う」と小渕政権をばっさり切る。「それと必ず首相になると米国もうでを行い、政権を米国に認めてもらう。これで自立した国家なのか疑問だ」と、これまでの自民党政権にも批判を加える。

 続いて、「ここの工業団地にはよく都や区の議員も含めて視察に来る。するとたいていの議員は『これが鋳造か初めて見た』などという人ばかりだ。生産の実際を知らない人が産業政策うんぬんというのだから、困ったもんだ。これでは製造業は発展できない」と批判する。

   ◇     ◇

 こうした中小企業とそこに働く労働者は、これまで「改革」政治によって大きな危機に直面している。この危機を乗り切るには、労働者や商工業者、国民各層が連携して闘い、政治を変えるために力を合わせていくことがますます重要になっていると感じた。


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