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大衆行動で要求実現を 選挙に期待できない

国民各層の団結した力が大事



 参議院選挙が始まり、与野党とも「景気回復」などの口当たりのよい「公約」を掲げている。しかし、経営危機で苦しむ中小商工業者やリストラ攻撃を受けている労働者、失業者は選挙で状況が変わるとは本気で信じていない。政府・自民党は七月二日、銀行などの不良債権処理のためにブリッジバンク(つなぎ銀行)を導入することを決定した。これは先のサマーズ・米財務副長官の来日で、不良債権の早期処理、税制改革、規制緩和などを約束させられた橋本政権が、三十兆円以上の公的資金(税金)を使って不良債権処理をしようとしているものだ。米国の要求は、「日本再占領」という批判があるように、明らかな内政干渉である。そして、国民にとっては犠牲の押しつけがさらに増える。国民各層にとっては、長引く不況でどうやって生活危機を突破するのかが最大の関心事であり、選挙に全く期待していない。国民各層が連携して、政府や自治体に要求を突きつけ、大衆行動で実現する以外に道はない。皮革業者(東京)や失業者などの声を聞いた。


大銀行救済に30兆円も中小企業にも金を回せ

東京・皮革業者

 私は、メーカーの下請けで牛皮、豚皮のなめしをやっている。牛皮はカバン、ベルト、靴などの材料に、豚皮はレザーウェアーなどの材料になる。以前は人を雇って経営していたが、八一年からは家族でやっている。

仕事は以前に比べ、二割程度しかない。東京では墨田区、荒川区にこの業界は集中しているが、会社数はずいぶん減った。墨田区では二百社あったのが今は三十社に、荒川区では四十五社がわずか八社になっている。しかもどの会社も中小零細だ。

 九一年をピークにどんどん悪くなっており、特に九三年のウルグアイ・ラウンドが一番打撃だった。農産物と皮革の自由化は一番遅かったが、これでやられた。政府も皮革産業は同和対策として保護しなくてはならないと米国に言っていたが、米国の圧力に屈してしまった。まさに規制緩和でつぶされたといえる。

そして九四年から、アジアの皮革製品がどっと入ってきた。昨年からは中国が参入してきた。価格的にはアジア製品は、国産品の四〇%くらいだ。これで国内の皮革産業は壊滅状態となった。

また、下請けを始めてから十七年になるが工賃は全く同じだ。しかし、物価や水光熱費など生産経費は倍近くに上がっている。だから苦しい。しかもメーカー側はアジアに対抗するためには、工賃を下げたがっているが、これ以上下げたらやっていけない。

 われわれは、こうしたなかでどう生き残るか模索している。

 皮革の業界組合では、もっと革製品を使ってもらえるように宣伝しているが、新聞広告を出せば、一回一千万円かかるので、せいぜい年に一回出せるかどうかだ。これではテレビ時代に追いつけないし、若者が革靴でなくスニーカーを履くのを止めることもできない。

 銀行による貸し渋り問題は、われわれのところではない。皮革業界には同和対策の一環として、都から特別融資がある。しかし、これもあと四年すればなくなってしまう。そうなれば融資も受けられない。なぜなら皮革業界はほとんどが赤字だから、普通の融資だと条件が厳しいので受けつけてくれない。これも頭が痛い。

 協同組合では事業の近代化、共同化を進めることも考えている。皮革産業は大量の水と科学薬品を使う「公害型産業」である。そこで排水処理場も必要だ。だが、われわれのような零細企業の集まりでは、それだけの力がない。そこで共同事業による排水処理について、政府に補助金を求めたが認められなかった。

 政府は、われわれの近代化、共同事業を公害防止の事業として、地場産業保護として補助すべきだ。このことを一番強く思っている。

 同じ皮革業界では、関西ががんばっている。関西の業界を視察したが、共同化、近代化が進んでいる。これは運動の力の差からきていると思う。だからわれわれは、もっと運動を力強く進めることも大事だと思っている。そして政府や自治体に要求をぶつけていくことが大事だろう。

 参議院選挙が行われているが、期待はしてない。自民党の景気対策は大銀行には三十兆円も使うが、それほど金があるなら中小企業にも回してほしい。近代化のために排水事業にしても、せいぜい十億円もあれば十分できるものだ。

 バブル崩壊後の不況やアジア製品進出などは、われわれの企業努力だけでは解決できない。こうした時こそ、地場産業保護、同和対策などの観点で政治が弱い部分に光を当てるべきだ。


失業者の声

選挙どころではない それより仕事がほしい

 二月に会社が倒産して以来、毎日職安にきている。会社は非鉄金属を細長く延ばし、眼鏡のフレームやボールペンの頭の部分などの材料をつくる中小企業だった。もうこうした仕事はほとんど海外で生産しているので、同じ仕事はない。

 毎日職安にきても、手ごたえがない。たまに仕事があっても、給料がたった月十六万円にしかならない。十六万円といっても、そこから厚生年金や保険などをひかれたら、いったいいくら残るのか。しかも、住んでいるのは新宿のアパートだから家賃も高い。これではとても暮らせない。

最後は、こうした安い仕事でもしながら、アルバイトもやらないといけないかと思う。

参議院選挙が行われているが、何も感じないし、期待もない。選挙どころではないというのが率直な気持ちだ。ともかく仕事がほしい。(五十歳代・男性)

 今は派遣労働をしている。この不況で、派遣だと不安なので正社員の仕事を求めて職安にきている。今はコンピューター入力の仕事をしていて、時給は千六百円だから高いとは思うが、交通費も支給されていない。

派遣で行った会社がリストラを行い、大量に派遣労働者の首が切られることがある。その場合、なかなか次の行き先が決まらないし、全員が決まらないこともよくある。また、行った先は直接の雇い主ではないので、不満などを言うこともでない。

 こういう時代だから、正社員になったとしてもいつ倒産するか分からないが、福利厚生や退職金などを考えると、正社員になったほうがよいと思っている。正社員になっていたほうが、何かと安心かなと思っている。

 参議院選挙については、誰が当選しても同じだと思っている。だから期待しないし、関心もない。(二十歳代・女性)


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