980305


中小建設業

経営危機にあいつぐ悲鳴

その要求を支持し、闘いを発展させよう



 昨年夏の一部上場ゼネコン三社のあいつぐ倒産に代表されるように、長期の不況のもとで建設業界、とりわけ中小零細建設業界は危機的状況にある。建設業の倒産、失業は昨一年間、急増した。元請けの代金不払いなど、しわよせは中小零細業者に集中している。追い打ちをかけるように、九八年度政府、地方自治体の公共事業費削減がある。そうした状況下で、業者は次第に行動に立ち上がりつつある。犠牲にされる諸階層はいっそう広範な闘いを進め、大銀行には三十兆円投入し、中小零細業者は切り捨てる橋本「改革」政治を打破しなければならない。

 建設業界は現在「ゼネコン危機」がいわれ、実際に昨年夏、一部上場ゼネコンの東海興業などがあいついで倒産した。この連鎖倒産はすでに四十件、失業者千人以上を出している。昨一年間の建設業の倒産は、約五千百件、負債総額は二兆四千億円以上(東京商工リサーチ調べ)で、負債総額は過去最悪となった。昨年のわが国倒産件数の約三割が建設関係だ。
 本年一月の建設業就業者数は約五万人も減少(前年同月比)、求人数も建設関係はマイナス一八・九%となり(同)、建設業としては最悪の状態となっている。

元請けの代金不払いが横行
 大手ゼネコン以上に、中小零細建設業は不況を背景とした元請け企業の代金不払い、受注減、資金繰り悪化などによって、倒産や経営危機が広がり、このうえない苦境にある。
 橋本政権はいま、「国際競争力強化」をめざす「財政構造改革」の名のもとに大幅な公共事業削減を打ち出した。地方自治体もこれに連動して、公共事業を大幅に削減。中小建設業にとっては、まさに二重、三重の打撃である。
 そうした結果、自殺者や自殺未遂、あるいは請け負い工事の打ち壊しを起こすまで、業者は追い詰められている(別掲)。
 いうまでもなく建設産業は、国民生活につながる住宅・社会資本整備の担い手として、経済・社会で重要な役割を果たしてきた。国内総生産(GDP)の一七%を占める約八十兆円の建設投資など、日本経済の重要な基幹産業の位置を占めている。とりわけ地方経済にとって、他に基幹産業がない所では重要な位置を占めている。
 事業者数は現在約五十六万五千(九七年)、就業者は約七百万人にも上る。しかも、事業者総数の約六五%が資本金一千万円未満の圧倒的な中小零細で占められている。したがって、公共事業削減などのしわよせは、まず体力のない中小零細建設業に押しつけられることになる。
 戦後、大規模な公共事業が大企業育成のインフラ整備のために組まれてきたが、こんにち多国籍大企業の国際競争力強化のために、公共事業もコスト削減の必要性に迫られている。そこで多国籍大企業などは公共事業を「悪者」にしたてて削減し、中小へのしわよせを企図している。
 こういう中で、共産党の「公共事業はムダづかい」などという主張は、一部支配層の主張に便乗して中小への犠牲転嫁を促進するもので、極めて無責任そのものである。

行動に立ち上がる
 これほどまでの苦境にあえぐ中小建設業者は現在、経営危機突破をめざして次第に行動に立ち上がりつつある。
 職人などでつくる全国建設労働組合総連合(約七十五万人)は、この二月に他団体と四千五百人規模の危機突破集会を開催、ゼネコンなどとの集団企業交渉も毎年重ねている。「電話相談」も昨年十一、十二月に東京土建や全日本建設運輸連帯労組が開設、この二月にも全日建連帯労組が業者と連携して東京、神奈川、大阪で開設し、切迫した相談があいついだ(別掲)。
 中小業者の要求は、正当な工事代金を払え、一方的に値引きをするな、倒産にともなう保証制度の確立、中小にこそ手厚い融資を、仕事をよこせなどと極めて切実である。当然、元請けの横暴を放置する政府(建設省)、自治体の監督や制度への批判も強い。
 中小建設業に犠牲を転嫁する橋本「改革」政治に反対し、その切実な要求と行動を支持して闘いをいっそう発展させなければならない。


ついに自殺者も!  東 京

 東京・東久留米市の建設会社社長が昨年七月、元請けの大手私鉄の京王系設備工事会社の門前で、灯油をかぶって焼身自殺した。遺書には「反省の色を求め、私は死の抗議に出ます」と書き残されていた。元請けの不払いに抗議した自殺だった。亡くなった社長は東京土建一般労働組合(十二万三千人)の組合員でもあった。衝撃を受けた東京土建は不払いの解決に組織を挙げて取り組んでいる。


作った高速道路を自ら破壊  福 岡

 福岡・広川町の建設会社経営者が昨年十二月、福岡市に自社が建設を請け負った高速道路の工事代金の一部約千四百万円が支払われないことに抗議して、重機を持ち込んで道路の一部を破壊、逮捕された。同社は、工事受注の三次下請けとして工事を完成させたが、七月に二次下請けが倒産。そのため発注者の高速道路公社に支払いの救済措置を求めたが、公社側は門前払い。元請けも一次下請けに支払いを済ませたとして、元請けとも話がつかなかったという。


中小建設業者下請けいじめホットライン開く  神奈川

 中小零細建設業者でつくる県中小建設業協会(高橋正会長)は二月十七、十八日、全日本建設運輸連帯労組と連携して、「大企業による下請けいじめホットライン」を開設した。
 相談の中では、元請けの支払いがないからと、一次下請けが二次下請けに不払いするケースがざらだという。
 中には元請けから数千万円の仕事を受け、工事完成後五五%もの値引きをさせられた下請けもあった。その下請けは、孫請けにすでに元の値段で何千万円も支払いを済ませていたという。
 また、建売住宅七棟のうち五棟を完成させた時点で、「工期の遅れ」を口実に代金の一部二千八百万円を払わない事例も。「訴訟などという悠長なことをやっていたら倒産してしまう」と、悲鳴にも似た声もあったという。
 総計は四十二件(別記)だが、「相談は氷山の一角で、深刻な事態は数十倍に上るだろう。皆、今後の元請けとの関係を心配して、悩んだ末に電話してくるのだから。倒産関係が意外に少ないのは、もうあきらめているのではないか」(協会事務局)と見られている。
 圧倒的に多い不払いや値引き問題の事例は、(1)元請け・下請け間に契約書がなくて、それを逆手に全額または一部を不払い、(2)元請けに「次の仕事を出すから」と言われ、踏み倒される。追加工事の場合に多い。(3)工事仕様や期限など、なんらかの「トラブル」を口実に不払いなどの経過で起きるという。これは、重層的な下請け構造やランクが一つ違うだけで圧倒的な力関係の差がある、この業界特有の前近代的な構造、慣習に根ざしているようでもある。
 これらの問題の最近の特徴は、問題事例の急増、不払いの高額化、次に請け負う仕事の減少という点である。
 同協会はホットラインに取り組んで、「公共工事減少についてはいろいろ議論があるが、最大の問題はその犠牲を中小零細に強いられることだ」と憤りを込めて語る。
 さらに「対等な取引、代金支払い期限などを明記した建設業法があるが、まったく順守されていない。建設産業における紛争をめぐっては、都道府県と中央に準司法的機関の建設工事紛争審査会があるが、元請けと下請けとの関係にとって何の役にも立っていない。不法な元請けには、入札資格の厳格化や何らかのペナルティを課す制度によって、正していくべきだ。個々の事例への相談と同時に、それだけでは解決できない制度改善の環境づくりにも取り組んでいきたい」と話している。

相談の内訳
工事代金不払い
工事開始後の値引き
      小計33件
「指し値」の強要 3件
倒産       1件
その他      5件
※「指し値」:発注先が一方的に値段を決めること


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