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ルポ 共産党員が町長・兵庫県南光町(下)

噴き出す不満「町がさびれる!」


 南光町の町民の間では、長期の共産党町長の施政について、最近はとみに不安や危機感が募っている。それは、町が活性化するのかどうか、町の将来はどうなるのかという不安である。

 南光町のある商工業関係者は「上月町など近隣の町は工業団地を誘致したりしているが、ここはさっぱりそういう施策がない。商工業の振興を行政としてテコ入れしていない。産業振興に行政は関心がないのではないか。やっぱり地元に仕事があって、ふるさとに若い人が住み着くように、振興策をしてもらいたい」と述べている。ある女性商店主も「町長は一見、人当たりのよいことはしているが、商業に活気をもたらすことなんか、全然だめ。若い人も少ないし、町に活気がないよ」と嘆いている。

 ある土建業者は、「今の町長になってから、それまで二十軒あった土建屋が、半減してしまった。町の発注の仕事が極端に減ったためでもある。大型工事では、他の町の業者に発注してしまい、地元業者は冷遇されている。地元業者は経営基盤が軟弱なのに、余計きつい」と、苦境を語っている。実は、共産党町長誕生の際のねらいが、一つは部落解放同盟と一部の土建業つぶしにあったのだから、土建業者のうらみは大きい。

 農業関係者も「ここは昔から専業が少ないし、平均所得も低い。そもそも国の農政がころころ変わる日和見農政で困るが、町の行政ももっと補助金をとってほしい」と要求する。

農林、商工予算は軽視

 実際、約二十八億円規模の町財政をみると、農林水産業費の割合は約一六・三%(最近五年間平均)にすぎず、現町長就任の前年は二三・七%もあったのである。人口数の近い波賀町でも二二%(同)近い。商工費にいたってはわずか約〇・二%(同)である。いかに、地元産業振興に関心がないか歴然としている。これでは住民が地元を離れるのは避けられない。住民はかすみを食って生きているわけではなく、「住民奉仕」の看板が泣こうというものだ。

 ある有力町会議員に登場してもらおう。       

 「われわれは、町長が共産党員であろうがなかろうが、町の発展のためにこういう事業をやろうというのなら反対しない。しかし、町長にはその事業のために、例えば県や国へ要請に行って、自分の政治生命をかけて国や県と争っても財源を取ってくるんだという考え方も意気込みもない。例えば、国からの地方交付税は、算出根拠がある程度決まっているので、特定事業などに使える特別交付税の交付が問題となる。同じ佐用郡内の他の町と比べても、南光町(人口約四千八百人)が年間一億一千万〜一億二千万円なのに対し、三日月町(同三千六百人)は約一億九千万円、上月町(同六千人)は約一億七千万円とこんなに差がついている。『だから、もっと特別交付税の陳情に行くべきだ』と、われわれは主張している。

 土建業にしても、業者の育成は地元でやるしかなく、他の町が育成してくれない。『能力がないから、地元中小には引き受けさせない』ということではいつまでたっても育成できない。『町民が主人公』と言いながら、本当に町民が主人公となっているのか。

 過疎化を止め、町の繁栄を図るために、普通の保守系首長ではできないが、国のことを気にせず、ごっついことやってるじゃないかと言われるくらいやったらどうかと思う。例えば、少子化、高齢化問題などいくらでもある。しかし、高齢者への祝金制度の実施にしても、それさえ他の町からは遅れているありさまで、話にならない。南光町には他の自治体議員が、よく研修・視察に来る。よそでは『そんな素晴らしい町なのか』と話を聞いてくるわけだが、ひととおり視察すると『福祉の先進地域といえないではないか』と、がっかりして帰る人もたくさんいる」

 以上のように、南光町の福利厚生などといっても、兵庫県内の保守系町政と比較しても大差はない。下水道などのように、一部生活基盤では保守系の町より遅れている。

 むしろ、過疎化も止まらず、地元産業振興もなされず、次第に町がさびれるのではないかと、町の将来に対して町民の危機感が強い。こうした町が全国に広がればどうなるか。これが共産党の方針による「先駆的な民主行政」の実態である。


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