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 著作物の再販制撤廃に反対

新聞・出版業界など立ち上がる

書店組合が百万署名提出へ


 著作物の再販売価格維持制度(再販制)や港湾運送などについて、政府の行革委員会などは規制緩和・廃止の方向で、来月中にも報告をまとめようとしている。そうした切迫した状況のもとで、関係業者や労働組合の反撃があいついでいる。全国港湾労組などは十一月二十一日、対米抗議も含め全国で二十四時間ストライキに突入した。著作物の再販問題でも十七日、撤廃に反対して新聞業界や文化団体、労組など十団体が東京・日比谷公会堂で総決起集会(約千九百人)を開いた。この総決起集会は、七月にも同規模の集会が東京で開催され、その時に比べ新聞、出版業界自身が積極的に取り組んだことが大きな特徴である。規制緩和の流れに対する、関係業界の反発と結束力を示したものといえる。橋本政権の「改革」にさらに連携を強めて反撃することが求められている。再販撤廃反対集会での決意などを紹介する。 


あくまでも再販を堅持する

小池 唯夫・日本新聞協会会長

 再販制は、いま重大な正念場にさしかかっている。廃止になれば、新聞業界は「悪貨が良貨を駆逐する」という事態になりかねない。昭和初期、過当競争や安売り合戦によって、徳富蘇峰の国民新聞など質の高い新聞が次々と消えて、つぶれていった歴史がある。新聞が国民の判断材料として、日々情報を伝達することで、民主主義社会は成り立っていると思う。毎日、朝夕刊で合計七千二百万部が発行されている。これが全国津々浦々へ届けられ、各家庭では届くことがごく自然になっている。「悪貨」のような新聞が寡占(かせん)化すると、一時的には安売り競争で安くなるかもしれないが、そのうち値上げされるだろう。この問題は、日米構造協議などの対米交渉のなかから、規制緩和や市場開放の要求として出てきた。もともと問題があったわけではない。規制緩和の風潮のなかで、公正取引委員会、行革委員会が外圧に便乗しているのだ。新聞協会はあくまでも再販制を堅持して皆さんの期待にこたえたい。

廃止論に断じて屈服しない

渡邊 隆男・日本書籍出版協会理事長

 撤廃に反対する世論は昨今、全国でほうはいとまき起こっている。出版物が同一価格で全国津々浦々に販売される商慣習は、明治末期に始まった。これは文化の普及を願う出版業者の良心によって支えられてきた。定価販売制が戦後の独禁法から除外されたのも、現に欧州で再販制が続けられているのも、出版物の文化的使命を重視するからである。読者の利益とは、著作内容のクオリティ(質)であり、多様性である。現状では出版物の価格が問題ではないと思う。だから読者との信頼のもと、六十万点の出版物が、整然と流通しているわけである。しれつな価格競争を導く経済至上主義の破たんの末路は、すでに歴史的に明白である。廃止されれば、売れ筋中心の仕入れ、流通マージンの値上げ、少数出版物の減少などで、結局大幅値上げへと至る。弱小出版社、書店は淘汰(とうた)され、出版物の多様性は失われ、まさに百害あって一利なしだ。廃止論者に断じて屈服してはならない。

撤廃は音楽文化の発展阻害

高野 宏・日本レコード協会会長

 撤廃は、音楽の楽しみ、喜びをいっさい奪い取ってしまうおそれがある。聞きたいCD、音楽が入手できなくなったり、値段が高くなった場合、結局音楽そのものが作られなくなる。コンサートなどもできなくなるおそれがある。そういう時代がきたらどうなるのか、ものすごい危機感に襲われている。価格競争のしれつ化、売れ筋商品のみの販売をもたらし、伝統芸能、クラシックなど文化価値の高いものの発売を困難にする。地方、消費者にとって商品が割高になり、音楽文化で地域格差が生じる。文化・芸術の豊かな発展を妨げ、精神生活に深くかかわる多様性の確保を不可能にする。わが国音楽文化の発展を著しく阻害し、消費者利益に大きく反するもので、強く反対する。


集会決議(抜粋)

 いま、わが国の民主主義、文化を担う著作物の発行と流通が危機にさらされている。新聞、書籍などは、言論、学術、思想芸術などの伝達メディアとして、平和で豊かな民主社会を実現するための文化的基盤となる商品である。これら著作物の公平で効率的な発行と流通は、再販制度によって支えられている。大多数の読者や音楽愛好家は、再販制度のメリットを理解し、その存続を支持している。活字文化・音楽文化のメディアは、いずれも個性的、創造的である。いわゆる市場原理による価格競争が、多様性の衰退を招くことは明らかである。われわれは、著作物の再販制度撤廃反対を広く国民に訴える。あわせて、著者・作家・読者・音楽愛好家とともに、再販制度のもとでフェアーな競争をつうじ、日本の文化の発展に貢献することを誓うものである。


再販売価格維持制度

 メーカーが決めた価格で商品を売るように小売店と契約する制度。著作物は独禁法によってそれが認められている。


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