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労働新聞 2021年10月15日号・3面

元首相、元中国大使などが
登壇、日中関係の打開へ提言

国民連合が「対中外交の
転換」求め緊急集会

日中は「共存」、東アジアの
平和と安定の「大同」に

 来年九月はわが国と中国との国交正常化五十年を迎える節目となる。だが、日中関係はそれ以来最低ともいえる関係の冷え込みが続いている。特に今年四月の菅首相(当時)とバイデン米大統領との日米首脳会談では台頭する中国への敵視策が大きなテーマとなり、日本は日中関係の基礎である「一つの中国」という原則を事実上かなぐり捨て、「台湾有事」に介入することさえ明言した。それに沿うように日米豪印戦略対話(QUAD)などの軍事同盟が強化されている。新たに発足した岸田政権もこれを踏襲、国家安全保障戦略(NSS)を改定する意思を示し、「敵基地攻撃論」まで言及している。また、経済安保相を新設、経済分野に至るまで対中対抗を貫こうとしている。だが、立憲民主党など野党から異論はまったく出ないばかりか、共産党は中国の「人権問題」をあげつらい、対中敵視策を競う有様だ。アフガニスタンからの敗走が示すように米国の衰退が急速に進むなか、台頭する中国への敵視を強化することはわが国の真の国益に反するものである。尖閣諸島問題などわが国と中国との関係の懸案事項はあくまで七二年の日中共同宣言に基づく解決を図るべきである。こうしたなか、「自主・平和・民主のための広範な国民連合」は東京で十月九日、「緊急共同『対中国外交の転換を求める』」と題した集会を開催した。集会はオンラインでも配信され、全国から多くの参加者が視聴した。福岡や熊本ではサテライト会場も設定された。総選挙を直前にして、日中関係の抜本的改善を迫る取り組みは大きな意義がある。今後の運動の発展が期待される。以下、催しの様子を紹介する。


 主催者あいさつに立った角田義一・国民連合代表世話人(元参議院副議長)は冒頭、会場参加者やインターネットを通じて視聴参加した人たちへ御礼を述べた。
 その上で発足間もない岸田政権について、基本的には安倍・菅政権と変わらぬ政権であると断じた。
 その上で、自民党総裁選では対中対抗が競われ、「台湾有事」への介入まで公然と叫ばれるような状況を厳しく批判した。そして、「台湾有事」へ介入することによって、わが国が戦場になると警鐘を鳴らし、米国に対し、米中間の争いがあった場合、「日本は憲法九条に基づいて参加しないとハッキリ言う政権をつくることがわれわれの任務だ」と訴えた。
 そして、わが国が亡国を歩ませないための集会にしようと呼びかけ、締めくくった。
 続いて問題提起が各氏から行われた。
 鳩山友紀夫・元首相は日中関係について、一九七二年の「日中共同宣言」の精神に戻る必要性を強調、「最近の政治はこの原点を忘れている」と指摘した。また、尖閣諸島問題など日中間の懸案事項についても、常に話し合える仕組みが必要ではないかと提起した。
 続けて、AUKUSなどの軍事同盟とそれに基づく中国への挑発などを挙げ、「一触即発的なことをすべきではない」と米英などの姿勢をいさめるとともに、中国に対してもいわゆる「戦狼外交」のようなことはやめるべきだと述べ、わが国が米中に自主的な姿勢で臨むよう求めた。
 最後に来年に日中国交正常化五十年を迎えることに触れ、習近平国家主席を国賓として招くことができるよう環境づくりの必要性を強調した。
 谷野作太郎・元内閣外政審議室長(元駐中国大使)は来年の日中国交正常化五十年に向けて、両国関係の新たな土台づくりが必要と提起、環境問題を重視したグリーン・イノベーションなどの分野での協力の可能性に触れた。
 そして、こんにちの日中関係についてわが国の経済界からその打開を求める声が上がることに期待を示し、両国にある相違を残しつつ、友好関係の発展という大同に向けた意義を確認した。
 柳澤協二・元内閣官房副長官補は専門の安全保障の面から発言、トランプ政権以降の米国が「台湾旅行法」などで「中国は一つ」であるという国際的な合意の現状変更を試み、それに中国が軍事的な対応を招いている点を指摘した。またこうした対立が経済面に及び、「戦争をしないという要因が失われてきている」と述べ、台湾有事を防ぐことが「最大の課題だ」と述べた。そして、第一次世界大戦などの例も挙げながら些細な偶発的衝突が戦争につながる危険性に触れるとともに、米中両国に対して、「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という憲法前文の精神に基づいた発信を行うような外交の必要性を強調した。
 羽場久美子・青山学院大学名誉教授は「相互信頼と発展が日中関係の基礎にある」こと、そして、「それが戦争を避ける」ことにつながるとの問題提起を行った。その上で米国が中国と対抗を強めている背景には米国の経済的衰退があると述べた。その上でバイデン米大統領が主張する「価値の同盟」に対して欧州や東南アジア諸国連合(ASEAN)などは中国との経済関係を重視する立場から警戒感を示していることに触れながら、わが国も米中の「二者択一」ではなく、成長する中国、またインドと結びながら経済や情報技術(IT)などの分野での協力を発展させ、「共同して、新しい未来と繁栄をつくっていくべきだ」と訴えた。そして、わが国の地政学的位置を利用しながら、日本を対中包囲網の最前線に立たせ「アジア人同士の戦争」で漁夫の利を得ようという米国の意図を指摘、東アジアにおける紛争を避けるべきだと強調、「重要なことは、相互信頼、対話」「戦争をせず共同発展こそ」と締めくくった。
 新外交イニシアチブ代表の猿田佐世弁護士は米国で活動する自身の視点も交えながら報告を行った。そして、わが国は「米中を選ばせるな」と主張すべきと提起、東南アジアの国々が米中双方に自制を促すメッセージを発していることや、「アジア諸国は、米中のいずれか一つを選ぶという選択を迫られることを望んでいない」というシンガポールのリー首相の発言などを紹介、米中対立の狭間にあるアジアの中小国の努力にわが国が加わるべきだと述べた。併せてASEAN諸国における世論調査に触れ、多くの国々で米国より中国との連携を望んでいる人びとが多いという結果を示し、「日本がこうした声を無視していることは問題だ」と述べた。その上で「日本が『ミドルパワー』の国であることを認識し、韓国や東南アジアの国々と連携しながら、米中対立の緩和を呼びかけるべき」と強調した。
 丸川知雄・東京大学教授はファーウェイの排除などトランプ政権以降強められた米国による中国への経済的締め付けを振り返りながら、わが国のマスコミを中心にいわれる「米中デカップリング」説の検証から話を進めた。そして、デカップリング論と裏腹に二〇二〇年以降、米国から中国への輸出は急速に回復、米国の中国からの輸入も二一年には以前の水準に戻る見通しであると指摘した。とりわけ半導体などIC分野でも米国から中国への輸出は二〇年から急増、一方わが国の中国へのIC輸出は停滞、「米国の裏切り」とも映る状況を明らかにした。併せて中国の環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟表明に触れ、TPP加盟をテコに国有企業の改革を進めようという中国の意思があらわれているのではと指摘した。また、いわゆる新疆ウイグル問題に話を進め、亡命ウイグル族の人たちが言う「強制労働」には根拠がないこと、「貧困ゼロ」という目標達成に前のめりとなった地方政府の強い姿勢に問題があったのではと述べた。また、人権団体などが「新疆の綿は使うな」「ウイグル族を雇っている工場とは取引するな」と主張していることについて、それはウイグル族が貧困から脱却することに逆行するのではと疑問を呈した。
 集会は休憩を挟みながら歌舞音楽集団「荒野座」の江村結さんが一九三一年九月十八日、満州事変の発端となった柳条湖事件の悲憤を歌った「松花江の畔に」を熱唱、会場の雰囲気を盛り上げた。
 東アジア不戦推進プロジェクトを提唱している西原春夫・元早大総長は「対立超克の理論」と題して発言、「対立している次元より一段高い次元に立つ」こと、そして「共通の利益」をつくり出すことが必要だと述べた。
 そして、同プロジェクトについて紹介するとともに、「外交の本旨はどこの国も攻めてこないようにすること」と強調、「平和国家日本の世界的使命はこの理論の普及と具体化にある」と結んだ。
 次に問題提起を行った各氏から再び「中国の発展は日本の利益になる。だが、その発展は国際社会から理解と支持を得るものでなければならない」(谷野氏)、「いちばん大事なのはお互い(日中間)の違いを認め合うこと。違いがあるからこそ助け合いができる」(鳩山氏)などの発言が相次いだ。
 閉会あいさつに立った西澤清・国民連合代表世話人は「大変示唆に富む発言で私たちは大変勇気をもらった」と報告に立った諸氏に謝意を示すとともに、「この種の集会は本日が初めてだ。今日の皆さんのお話を糧にして是非皆さんいっしょにがんばろう」と呼びかけ、集会を締めくくった。
 集会には、水岡俊一・立憲民主党参議院議員会長、国民民主党政調会長の舟山康江参議院議員などの国会議員から賛同のメッセージが寄せられた。
 なお、当日時間等の都合で発表されなかった伊波洋一参議院議員(会派「沖縄の風」代表)の報告と日本青年団協議会大崎博士副会長のメッセージのビデオが広範な国民連合のWebサイトに掲載されている。


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