ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2021年1月1日号・10面〜11面

木を見て森を見ない国の中小対策

舟久保利明・東京工業団体
連合会会長(大田工業連合会)

 大田区にはかつて約一万の町工場があったが、今は二千社を切っている。区は「三千五百〜六百社」と言うが、正確には事業所数だ。機械を保有し、削ったりメッキをしたりするものづくりの現場は二千以下で、その約半分が従業員三人以下、十人以下が約八割で、残り約二割が五十人前後の規模だ。
 米中貿易摩擦による仕事量の減少に続き、昨年二〜三月はコロナ禍で仕事量が半減したところが多い。大企業と違って、従業員は正社員という会社がほとんどなので、賃下げやボーナスカットで乗り切ったところが多いと思う。
 こうしたなか、大田区政は苦境にあるものづくり企業に最大五千万円の融資をする手を打った。利息なしで一年返済猶予、返済期間九年という融資だ。本来こういうことは国や都政がやるべきだとも思うが。信用金庫なども親身に対応してくれ、昨年六月の「ボーナス危機」、九月の「半期決算危機」は何とか乗り切ったが、今年二〜三月に返済が始まると大変になってくると思う。
 今のところ、コロナ禍で倒産が目立って増えているわけではない。リーマン・ショックや東日本大震災などで、足腰の弱いところは既にかなり淘汰されてきたからだ。ただ、従業員三人以下の家族経営のところなどでは、後継者問題も重なり、「先がない」と感じてコロナ禍を「潮時」としてやめることを決めたりもしている。
 大田区の町工場は戦後直後に創業したところが多い。私の世代は二代目で、その四十歳代の息子が三代目というケースがひとつの典型だ。私の時代は高度成長期で大企業の協同組合とか協力会とかがあったが、それらはほぼなくなった。しかしその分、地域的な協同組合や協力会のつながりは強い。また生き残っているところは、コア・コンピタンス(企業の中核となる強み)というか、余人をもって替えがたい技術などを持っている。こうした連携と技術の集積は安い海外で代替できるものではない。
 「中小企業の淘汰」ということは菅政権が急に言い出した印象だが、何を考えているのか。そもそも中小企業という言葉は「中小企業論」(一九五七年、伊東岱吉著)が発端だが、その本で述べられる中小企業は「大企業の下請け」という性格で定義されている。しかし、いま生き残っている中小企業は必ずしもそればかりではない。実態を知らない者の意見ではないか。アトキンソンさん(小西美術工藝社社長)がどれほど町工場を知っているというのか。木を見て森を見ない意見なのではないか。
 「日本の企業は中小が多いから生産性が低い」というのも、統計の取り方次第で、ウソだと思う。たとえば、トヨタは下請けに毎年単価の二%カットを下請けに要請しているが、下請けは努力を重ねてそれに応えている。「生産性が低い」というのは実感とかけ離れている。  国の中小企業対策は、バブルが弾けてからずっと空白のままだ。中小企業は日本の企業の九九・七%を占め、ここが疲弊しては大企業も生きてはいけない「経済の根っ子」であることを、国は再認識してほしい。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2021