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労働新聞 2021年1月1日号・15面

「中国を知る」

「怖い」から学びにつなげる
戦争について改めて考えたい

 日本大学芸術学部生による映画祭が2020年12月12日〜18日に行われた。テーマは「中国を知る」。日中・米中関係が複雑さを増すなか、学生の自主的企画として意義ある取り組みとなった。学生とゼミ担当の古賀教授に聞いた。(文責・編集部)


ーー今回、「中国を知る」というテーマを取り上げた理由をお聞かせください。

宮脇 新型コロナウイルスの感染拡大が世界をおおっていますが、約一年前、中国武漢市での感染拡大が発端でした。また、香港の「民主化運動」に対する中国政府の強硬姿勢も連日報じられました。私には「中国による支配が強まっている」という印象でした。
 また、父が中国に単身赴任していた当時、尖閣諸島問題をきっかけに反日暴動が起きました(二〇一二年)。そのほか、日本製キャラクターに対する著作権侵害(パクリ問題)や訪日観光客のマナーの悪さなど、「負」のイメージが大きかったのです。
 そうしたなか、一八年の「朝鮮半島と私たち」で、自分が朝鮮半島の歴史や在日コリアンについてほとんど知らなかったことを痛感させられました。
 考えてみれば、中国での激しい反日感情の背景について、私自身の知識はとてもあいまいなものでした。これから社会に出ていこうとする私たちが、隣国・中国の過去と現在について知らないままでいることに、強い焦りを感じました。
 映画を通して中国を知りたい、学びたいと思ったのがきっかけです。

古賀 本映画学科では、映画のつくり方、撮影や演出方法、評論文の書き方などを学びます。しかし、映画の画面に映されることについてはほとんど学びません。映画祭という機会を通して、映っている物事を知ることができます。
 パンフレットでの映画解説や、有識者への取材なども学生が自ら担当することで、映画自身、そして歴史についても見識を深めるきっかけになったのではないでしょうか。

ーー準備の過程で、難題はありましたか?

宮脇 最初に選んだ映画は、日中関係、とくに日中戦争に関するものばかりでした。しかし、古賀先生やユーロスペースからの助言を受け、中国国内、昨今話題になっている香港や台湾に関する映画を外すことはできないということになりました。

古賀 それでも、上映できなかった映画は多くあります。「チャイナシャドー」(柳町光男監督)や「鬼が来た!」(姜文監督)などは、日本での上映権の所在が分からなくなっており、断念せざるを得ませんでした。中国国内で制作された映画は、とくにそうです。日中国交正常化十周年を記念して制作され、日中両国で盛んに宣伝された「未完の対局」でさえ、当初、権利関係があいまいでした。「ジョン・ラーベ〜南京のシンドラー〜」は、ドイツの権利元と交渉することで、ようやく二回だけ上映できることになりました。
 もう一つ。「ジョン・ラーベ」は南京事件を扱った映画ですから、右翼による抗議が予想されました。他方、中国政府は香港問題などを扱った作品を歓迎しませんし、「中国を知る」というテーマに台湾と香港を加えることを喜ばない声もありました。
 こうした複雑さも、学びのよい機会だと思います。

阿部 コロナ禍によって講義がオンライン化されていたので、なかなか友人に会えず、チケットの販売にはとても苦労しました。(映画館のある)「渋谷に行く」ことに心理的抵抗を感じる声もありました。

日原 その分、チラシを中国関連の書店や雑貨屋などを回って置いてもらう活動をがんばりました。

ーー企画を通して感じたことをお聞かせください。

宮脇 日中関係だけでなく、中国を取り巻く情勢は非常に複雑で、衝撃を受けました。日中関係だけでなく、米国や欧州、アジアなど第三国・諸国との関係、中国大陸、さらに台湾や香港なども含めて、今後の情勢の推移についても知っていくことが重要だと感じています。

三ケ田 限られた情報しか知らない状況で「中国はイヤだ」というのも、「何か違う」と思います。自分で考えていくことが大切だと思いました。

関口 身の回りに留学生がいないこともあり、これまでは中国について考えてきませんでした。中国の人と「人間として」どう付き合うのか、考えていきたいです。

平尾 正直なところ、日中関係では「日本が被害者」というイメージでした。でも「ラストエンペラー」では、日本は溥儀(宣統帝)を操る加害者です。歴史を知ることで、互いに歩み寄れればいいなと思います。

片山 私も「中国は怖い」というイメージでしたが、企画を通して得ることがいろいろありました。

日原 映画祭が成功して「終わり」ではなく、これをスタートにして、新しい学びにつなげていけたらと思います。

石川 この手のテーマだと、お客様は年配の人が多くなります。学生が行うことで、同世代にアピールする効果があると感じました。

神能 日本は七夕で浮かれている日(七月七日)、中国は「盧溝橋事件の日」です。加害者は覚えていませんが、被害者はずっと覚えています。戦争について、改めて考えたいと思いました。

北原 同世代の人に、中国、日中関係への興味を持ってほしいと感じました。

阿部 歴史問題は簡単ではないと思いますが、日本が戦争の加害者だったことを再確認しました。知っただけでも、世界の見方が変わるのかなと思います。

ーー最後に、宮脇さんから一言、お願いします。

宮脇 多くのマスコミに、しかも好意的に取り上げていただいたこともあり、コロナ禍という大変な状況でしたが、全体で一千八百十六人のお客様に来場していただきました。ありがとうございました。
 中国に対する理解を深め、日中関係を考えていく若者が増えていくことに、これからも微力を尽くしたいと思っています。

ーーありがとうございました。
古賀太・日大芸術学部教授
[学生の皆さん]宮脇千聖/阿部佑紀/石川夏海/石原旭/片山玲成/北原遥/関口真輝/中里若菜/日原朋哉/平尾元瑛/三ヶ田倖那/向笠友哉/神能希望/瀬村知香(敬称略)


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