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労働新聞 2020年12月15日号・5面 国民運動

持続可能な米・水田農業政策へ抜本的な改革を

中原 浩一・北海道農民連盟書記長に聞く

 日本の米・水田農業政策が大きな岐路に立っている。人口減少等により毎年十万トン米の消費が減る自然減少に加え、コロナ禍で中食・外食需要が減少するなどの要因で米の在庫が積み上がり、生産者は来年度以降の経営に大きな不安を抱えている。また国による生産調整(減反)の廃止から三年が経過し、政策の見直しを求める声も高まっている。こうしたなか、北海道農民連盟は十月に緊急対策と抜本的改革を求める国への要請を行った。求められる農政などについて、大規模な米生産者でもある道農連の中原浩一書記長(和寒町議会議員)に聞いた。(文責編集部)


 北海道では今年の作況指数(十月十五日現在)は一〇六と豊作基調にある。精魂込めて育てている米農家としては当然取れないより取れた方がいい。マツコ・デラックスさんが出演する北海道米CMも好評で、「ななつぼし」「ゆめぴりか」「ふっくりんこ」などの主力銘柄も全国的に販売力が上がっている。しかし現状には不安も多い。
 今年はコロナ禍もあって需要が大きく落ち込んだ。観光業や中食・外食での需要減で、米に限らず野菜も大きな打撃を受けた。北海道米は一万トン影響があったという業者の話も聞いている。加えて、今年は北海道だけでなく東北や新潟など主産地が豊作基調にあるため、米の民間在庫が大きく膨れている。
 これは当然米価に影響を与えている。今年の収穫分に対してはJAから概算金という形で支払われるのだが、北海道では昨年より六十キロあたり三百〜四百円値下がりした。これはがんばってもらったほうで、八百〜千円下がっている県もある。しかし今後はどうなるか分からない。
 北海道では毎年九月中旬頃に米を収穫し、それから来年度の新米の出るまでの間が米の価格期間だが、来年の状況に応じてこの間の米価格が変動し、来年も米が余りそうだとなれば価格は下がる。十年前には東北や新潟で概算金を払い戻すよう求められる事態となった。だから農家仲間とは「この概算金で今年は何とか乗り切れるけど、来年はどうなるだろうか」などと心配の意見が多い。
 結局、現在の余剰分の米在庫をどうするのか、そして来年度に適正な減産が行えるのか、これが今後の経営にとって重要となる。

■国主導の緊急米価対策を
 こうした現状を受け、道農連は米の需給・価格安定に関する二つの緊急要請を行った。
 一つは、余剰米を主食用米の市場から緊急に隔離すること。農水省は北海道産でいえば一万トンの米を備蓄するための倉庫代は出すと言っているが、それではその分の米が一年落ちの安い米になり、また来年の市場価格を引き下げることにもなる。米価暴落を防ぐためには、需要減少分を、政府備蓄米の追加買上げや、価格差補填をした上での飼料用米等への用途変更、政府開発援助(ODA)を活用した海外支援分に回すなど、市場から隔離しなければならないと強調した。農水省側は「政府備蓄米の追加買上げなど国の市場介入は政策主旨と異なり難しい」と消極的な姿勢だが、必要な手立てだ。
 もう一つが、米需給均衡化に向けた政策の見直しだ。農水省は三年前に生産者主体の需給調整手法が始まって以降、毎年需要量の見通しを示しているが、今年十一月に示した指針では来年産の米の適正生産量は六百九十三万トンに設定されている。これは、六万ヘクタール以上の規模、数量で三十万トン以上の規模の減産が求められていることになる。しかし、これほど大規模な減産を生産者や産地の努力だけで実現させることは非現実的で、例えば北海道の生産者が減産に向け調整しても、他の地域で減産されなければ結局来年の米価は下がり、減産した者がバカをみることになる。民間丸投げではなく国が責任を持つべきだ。
 加えて、米の消費拡大を促進させるなど、需要回復に資する対策を拡充強化することも求めた。消費拡大のためにも米価の安定は必要だ。米価が乱高下している状況では米を主食として位置付けられない。米価の安定は生産者だけなく消費者の利益にもなるはずだ。

■この三年の米政策は失敗
 今年の状況を見ても明白だが、国の新たな米・水田政策はこの三年を見ると失敗であり、失敗であれば国の責任のもとで抜本的に見直すべきだ。
 この三年間を振り返ると、一昨年は北海道の作況が九〇、全国は九八で、昨年は九州が八六で全国は九九と、台風や大雨などの天災で偶然需給バランスが取れて米価が下がらなかっただけというほかない。
 このような米政策の下で若者ほど水田をやめている傾向がある。北海道では上川・空知が米の主産地だが、ここでは米の転作率も高い。離農した農家の農地を集約して三十〜四十ヘクタールの水田を抱えている生産者も多いが、これらすべてで米作ができないのであれば、十ヘクタール前後の米作のために一千万円の収穫機械や五百万円の田植え機に投資するかとなれば、機械更新の時期に水田を丸々やめることも経営的には仕方のない判断だ。米作でがんばっていこうとしている若者にとって魅力のある米政策が必要だ。
 道農連では二〇〇八年に政策提言「真の農政改革」を作成し、一三年と一八年にも補版を出している。国民の食と食料安全保障の観点から、また地域経済の活性化の観点から、持続可能な農業経営・農村社会の構築が必要不可欠だと訴え、その実現に向けて、作物別の直接支払制度創設や新たな経営セーフティーネット制度の導入、多面的機能固定支払や農村環境整備支援などを提言している。
 相次ぐ異常気象や高齢社会化などで、近い将来に世界的な食料危機が訪れる懸念が高まっていると言われている。持続可能な米・水田農業政策に向け、国は抜本的な改革を急ぐ必要があるのではないか。


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