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労働新聞 2020年3月5日号・5面・国民運動

自立生活支援を
訴える院内試写会


障害者排除の施策転換を

 障害者の自立生活を描いた映画『インディペンデントリビング』(全国自立生活センター協議会や文化庁などが助成・協力)が今年三月十四日から東京など全国で公開(大阪・京都では一部先行公開)されるのを前に、国会内で二月二十日、映画の試写会と障害者や生活困窮者の自立生活を支援する政策を訴える集会が行われた。
 映画上映後にあいさつした田中悠輝監督は「この映画は私がヘルパーなどの活動をしながら三〜四年かけて撮りためた映像を編集したもの。この映画を通して、障害者も健常者も含め、すべての人たちが生きやすい社会をつくることを呼びかけたい。その思いで多くの人に映画制作を協力してもらった」「障害者の自立という意味では、意思疎通の難しい重度身体障害者や、精神障害、知的障害のある人にはより難しい部分がある。また都市部と地方との格差もある。自立生活センターは現在全国に百二十二カ所あるが、空白県もある。その地域に活動拠点がなければ、社会から隔離された施設で生活を送ることになる。社会とつながる機会を奪うことになる。運動を広げるためにも上映を広げたい。その一歩として東京で上映を成功させることは重要だ。ぜひ多くの人にこの映画を見て、広げてもらいたい」と協力を呼びかけた。
 続いて集会の主催者でもある舩後靖彦参議院議員が発言した。舩後は自身がALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症後、施設での生活を余儀なくされ、その際に職員から陰湿ないじめを受けた経験や、現在公判が進む相模原障害者施設殺傷事件などにも言及し、「私が国会議員になった際に職場や学校で介助者使えないことが問題になったが、こんにちの日本は障害者を締め出すような施策が行われ、また社会にもそれに同調する差別意識が根強くある。しかし私たち障害者にもそれに打ち勝つ知恵があるはず。障害者が地域に出て自立生活を営み健常者との距離を縮めることは重要だ」とこの映画の重要性を強調した。
 また田中氏が障害者介助と並行して活動に参加している生活困窮者の自立生活を支援するNPO「もやい」の大西連理事長も発言、「障害者も生活困窮者も誰もが地域で人のつながりのあるなかで生活できる社会をめざしたい」として、厚生労働省が制度改定で路上生活者を「隔離」する政策を進めていることを批判した。また東京五輪開催に合わせ行政が野宿者を排除しないよう訴える取り組みを紹介した。

映画紹介/「インディペンデントリビング」 活動家監督ならではの距離感
 かなり昔の話だが、某自立生活センターの催しに介助者として参加した。その後の打ち上げには当然酒も入ったのだが、健常者に比べて飲み会の機会は少なく、なかには施設から外泊許可をもらって参加している者もいて、「今夜はトコトン飲むぞ!」と乾杯の前から高いボルテージに。
 小一時間ほどで落ち着くと、次第に利用者と介助者入り乱れての議論の輪があちこちにできた。テーマはやはり「自立」…自立ってなんだ、誰しも赤ちゃんの時には育児が必要だし、病気やケガで看護が必要になる時もあり、高齢になれば介護が必要にもなる。事故などで障害者になる人もいる。この社会で暮らしている以上、誰もが他人の存在なしに生活できない。だったら障害者と健常者の違いってナンだ、「自立」ってナンだ…。
 そんな議論に熱中して、あるいは酔いつぶれて、トイレ介助を頼むのを失念する者が続出し、翌朝はその後始末に追われることとなった。この映画を見てるうち、あのアルコールと小便と熱気の入り混じった飲み会の空気が鼻腔によみがえった。
 生活の一旦を担う介助は利用者との距離がゼロに近い。よだれ、小便、汗などの体液と体臭、そして体温、これらはセットのようなものだ。映画でそうした再現不能なはずのものが感じられるのは、カメラを構えた監督の立ち位置と目線が介助者そのものだからだろう。実際、本作は映画監督がメガホン片手に撮ったものではない。介助者が映画監督になって制作されたものだ。
   *  *  *
 映画の舞台は大阪にある三つの自立生活センター。ここでは、施設などで暮らす障害者が、公的介助などを利用しながら地域で一人暮らしすることをめざす取り組みを、障害当事者が支援している。どこに住み、どうやって自分の生活を切り盛りするかなど、自分の人生の主体者となることを追求する。くも膜下出血で高次脳機能障害となった元塾講師や、十八歳まで過ごした山奥の施設を離れた脳性麻痺と知的障害をもつ若者、親元から一人暮らしをめざす精神と知的の障害をもつ女性などが、センターの者や介助者、身内などとともに四苦八苦する様子が映し出されている。
 意思疎通が難しければ介助者を使う困難さは増えるし、自由な選択や決定にはリスクや責任を伴う。それでも皆、隔離・管理され同じことが繰り返される毎日を強いられる施設を出て、「自分の人生をつかみたい」と必死にもがく。どんな人であっても、違いを認め、考えを尊重してほしい。自分らしくいられる自分の居場所がほしい…そんな奮闘は介助者や身内の成長も促していく。
 監督もそうした介助者の一人なのだろう。繰り返しになるが、「運動の現場に近い映画監督」ではなく「運動の当事者」が撮った映画だ。当然監督としては本職ではなく、これがデビュー作でもあるのだが、それでも完成度の高い見応えのある映画に仕上がっているのは、鎌仲ひとみプロデューサーなどスタッフの腕もさることながら、介助者である監督自身の経験と思いがそのまま映像となっているからなのだろう。
 ぜひこの身内感一〇〇%の映画を見て、かれらの悪戦苦闘を共有していただきたい。(Q)


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