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労働新聞 2020年1月1日号・10〜11面

2020/各界の運動・声

自治体病院/厚労省発表に強い懸念 命と健康を守る役割果たす
小熊 豊・全国自治体病院協議会会長

 厚生労働省は昨年9月、全国の自治体病院について、424の名前をあげて「再編・統合」を促した。背景には、ベッド数削減を前提にした「地域医療構想」がある。これに呼応するかのように、東京、埼玉などでは独立行政法人化の動きが始まった。政府の態度は、地域社会における自治体病院の役割を省みない一方的なもので、首長や地方議会が反発しているのは当然である。住民の命と健康を守る世論づくりが求められている。自治体病院の役割について、小熊豊・全国自治体病院協議会会長に聞いた。(文責・編集部)

ーー全国自治体病院協議会についてご紹介下さい。

小熊 全国自治体病院協議会は、自治体病院による全国組織です。  自治体病院には、都道府県立、市町村立、さらに複数の自治体でつくる組合立の三種類があります。現在、協議会には八百六十九の病院が加盟しています。さらに、診療所などの準会員が約二百、特別会員は二十九です。
 最盛期には、会員だけで一千二百近くいましたので、大きく減っています。病院の再編統合のほか、診療所への変更で準会員に「移行」したり、民間への売却や指定管理者制度への移行などで脱退した例など、減少の理由はさまざまです。

ーーどんな活動をしているのでしょうか。

小熊 昨年十月、徳島県で第五十七回全国自治体病院学会を開きましたが、こうした学会は毎年開催しています。そのほか、記念講演やシンポジウムなど、調査活動や情報交換、行政への要請活動などを行っています。

ーー地方においては、自治体病院の役割がとくに大きいと推察しますが。

小熊 その通りです。
 会員病院の約三割が、人口三万人未満の市区町村に立地しています。これが、人口十万人以下では約七割に達します。
 とくに三万人以下の地方は、開業医も新たに開業しないような現状があります。そういった所で、地域に必要な医療を、地域密着型で提供する役割があります。へき地医療拠点病院の約六一%が、自治体病院です。
 十万人前後の場所では周辺地域を含む中核的な機能を果たし、大都市では救急や高度専門医療という役割を果たします。
 このように、地域によって医療活動の内容や働き方が違います。

ーー災害や感染症発生時の役割もあると思います。

小熊 災害や感染症発生時には、自治体病院が中心的役割を果たします。まさに、「命と健康の最後の砦(とりで)」なのです。
 全国の基幹災害拠点病院の約五二%、地域災害拠点病院の約三九%が自治体病院です。基幹災害拠点病院では、日常的に、水や食料、薬剤などのストックを用意して、「万が一」に備えています。
 実際、熊本地震の際、小児・周産期医療の拠点であった熊本市民病院には多くの患者さんがいました。「災害時相互援助協定」に基づき、数十人の患者さんを二十四時間以内に無事、他院に移送できました。二〇〇三年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際にも、自治体病院は患者を中心的に受け入れました。
 日本はまさに「災害列島」です。台風や豪雨などの自然災害は、さらに増えることが予想されますので、自治体病院の役割は大きいと思います。
 また、DMAT(災害医療支援チーム)への支援・協力も行っています。
 もう一つ付け加えると、専門医の研修受け入れです。平均二〇%以上、小児科や産婦人科では三〇%以上の研修を自治体病院が受け入れています。
 ですから私たちは、自治体病院には本来、ベッドや人員に十分な余裕がなければならないと思っています。

ーーですが、「生産性」や「効率性」ばかりを求められる風潮があります。

小熊 自治体病院が「生産性が悪い」「効率が悪い」と言われていることは知っています。
 政府の指示の下、各都道府県は団塊の世代がすべて「後期高齢者」となる二〇二五年に向けた「地域医療構想」をとりまとめました。この下で、地域の医療体制確保のため、「調整会議」が議論を進めています。政府としてはこれを「現状追認」と判断して、さらなる効率化を進めたいのでしょう。「骨太の方針」でも、「客観的指標を用いて見直す」としています。
 もし公的病院にムダがあるのなら、それはしっかりと是正すべきでしょう。協議会としても、会員への助言を行っています。患者の負担にならない再編統合なら、あってもよいと思います。
 ただ、高齢者が増えていくわけですから、医療費・介護費などの社会保障費が増えるのは当たり前です。しかも、災害などの「いざ」という時に患者さんを収容できないということでは、私たちの使命から外れてしまいます。経済性、効率性だけを見ていては、よい医療はできません。
 外国人富裕層を目当てに「医療ツーリズムで稼ごう」という意見もあります。ですが、地方の病院からすれば、医師不足で「これ以上の患者を診られない」というのが実態なのです。

ーー厚生労働省は九月、「再編統合等の再検討を求める」として、全国四百二十四の病院名を公表しました。どう受け止めていますか。

小熊 四百二十四病院は全体の二九・一%にあたり、都道府県別の割合では新潟(五三・七%)、私の出身である北海道(四八・六%)、宮城(四七・五%)といった順でした。
 厚労省は、あの公表に先立って、知事会や市長会、町村会などへの情報提供がありませんでした。併せて、公表の基礎となった指標は、二〇一七年六月という二年以上前の、しかもわずか一カ月間のものでした。さらにベースにしたのは、急性期(病気になり始めた時期)の小児科、心臓疾患、がんなど六つの指標だけでした。地方の事情も考慮されず、上記の一律の指標で示してもいました。
 そもそも、人口三万以下の地方に立地している病院では、急性期のがんなどの医療は行えないのが実情です。医師が「地方の実情を考慮していない」「ますます患者が来なくなる」と思い、住民は「この病院はなくなるのか」と不安になったのは当然でしょう。
 私たちとしては、十一月二十日に政府に提出した「要望書」(全国知事会などと共同で実施)において、「全国一律の基準による分析したデータだけで再編統合を推進することは適切ではなく、結果として地域の住民の不信を招いており、厚生労働省の進め方に関しては強い懸念を覚えます」と指摘しました。
 ただ、協議会としては動揺が広がることは本意ではありません。それぞれの病院が自らの役割を見つめ直し、将来を見通した上で「今のままでよい」ということであれば「胸を張ってやって下さい」ということをお伝えしました。

ーー十月からの消費税増税の影響はどうでしょうか。

小熊 十月以降の影響ということでは、まだ調査中です。
 ただ、自治体病院の多くは高度経済成長時代に建てられたものが多く、老朽化で更新時期を迎えています。耐震化工事の必要性も増していますが、この経費が膨らみます。また、高価な医療機器を導入する際にはダメージになります。
 医療費や薬代は非課税取引なので、コスト分を患者さんからいただくわけにはいきません。自治体病院の経営は、ますます厳しい状況です。

ーー医師の「働き方改革」には、どう対応しますか。

小熊 まず、医師不足は決して地方だけの問題ではないことです。厚労省は、「医師は近いうちに充足する」と試算していますが、これは、長時間の時間外労働を前提にしたものです。長時間労働を規制する「働き方改革」であるはずなのに、なぜこんな試算をするのでしょうか。
 「働き方改革」ですが、医師の残業規制は二四年からの開始となっています。とはいえ、「猶予期間があるからよい」ということにはなりません。
 地方においては、大学との関係が切実です。自治体病院では、地方の大学から医師が派遣されていることがほとんどです。大学の若い先生が当直に入ると、それは大学側からすると「時間外労働」になります。大学側が当直を拒否したり、派遣人数を減らすようだと、自治体病院には大変な問題になります。
 また、女性医師が働きやすい環境を整えることも欠かせません。
 いずれにしても、医師不足の解消なしには打開できません。一九八〇年代からの医学部定員抑制の結果、働き盛りの三十歳代後半から五十歳代までの医師が不足しているのです。私たちはせめて、医師の養成数は現状を維持すべきだと求めています。

ーー最後に、一言お願いします。

小熊 病院の消滅や縮小は、住民の命と健康への影響が第一です。加えて、医師・看護師・事務員だけでなく、食料品を収める業者やクリーニングなど、地方にとっては「一大産業」というか、雇用の場でもあります。ですから、地域経済の衰退にも直結する問題です。
 地域でどういう医療をめざすのかをよく考え、開業医とも連携し、IT(情報技術)なども取り入れながら、命と健康を守るために役割を果たしていきたいと思います。

ーーありがとうございました。

おぐま・ゆたか
1950年生まれ。75年北海道大学卒業。同大学医学部附属病院第一内科、国立札幌病院北海道がんセンター勤務を経て、富山医科薬科大学助教授、帯広厚生病院第4内科主任医長。91年砂川市立病院内科部長、96年同病院院長、2018年6月から現職。


香港問題/「民主」だけで評価できぬ 報じられぬ歴史的・構造的特徴
丸川 哲史・明治大学教員

 中国・香港のデモを利用し、米国を中心にわが国支配層、マスコミは中国敵視の世論づくりを強化している。この問題を見る視点について、丸川哲史・明治大学教員に聞いた。(文責・編集部)

ーー香港問題をめぐるマスコミの報道について、どう思いますか。

丸川 香港をめぐるわが国マスコミの論調を見ると、香港自身の歴史的・構造的特徴を分析・理解しようとするものはほとんどない。
 まず、香港の歴史的位置についての前提を述べておきたい。
 香港経済は、植民地時代は英国との関係において、一九七〇年代末から改革開放政策を採用した中国本土との仲介役としての役割を担った。このいずれにおいても、香港は「買弁的」で有利な存在だったのである。
 また、マスコミは林鄭月娥・行政長官を中心とする勢力を「親中派」と呼ぶが、現地にそのような言葉はなく、「建制派」と呼ばれている。この勢力は、英植民地時代からの「買弁」階級の末裔である。
 ところが、かれらが主導した経済的旨味は消失しつつある。返還時(九七年)、香港は全中国経済の一八・四%を占めていた。こんにち、それはわずか二・七%である。香港の経済規模は、すでに深センよりも小さい。かつて、中国本土から移住した下層労働者をさげすんでいた香港住民は、今や本土からの「爆買い」に頼るようになった。
 さらに「一帯一路」構想の下、中国の関心は、米国のヘゲモニーが比較的低いユーラシア、南アジア、そしてアフリカに向かっている。
 こうした事実が、香港住民の心理に複雑な影響を与えている。ある意味で、日本の対中国感情と共通する部分もある。
 これらを前提に、香港でのデモを見るには、三つの視点が必要だと考える。

ーーその視点について、ぜひお話し下さい。

丸川 まず、中国政府が約束した「一国二制度」の終わりが二十八年後に来るということだ。香港経済を支える金融業・不動産業の一部はこれを警戒し、学生デモを支援した。大富豪の一部は、資産を国外に移しているともいう。ただ、中国政府が前倒しで「一国二制度」を廃止することはないだろう。
 第二に、香港の深刻な社会矛盾がある。実は、香港の「格差」問題は、中国本土よりもひどい。大学進学率は約三割だが、卒業・就職しても「二畳」程度の部屋に住まざるを得ない者が多い。一方、富裕層は「山の手」に大邸宅を構えている。これは、若者が現状に不満を高める大きな背景の一つで、責任はこうした状況を放置してきた「建制派」にある。デモのスローガンの「民主」の背景にある、住民の「生存権」の問題に注目することが欠かせないのだ。
 最後に、香港住民のポスト・コロニアルな意識状況を指摘しておきたい。デモで星条旗やユニオンジャック(英国旗)を振っているのを見かけるが、旧宗主国に対する「依存」ともいうべき心理状況がある。一九六七年、香港では反英暴動が起きた(香港暴動)。これは、中国本土で進行していた文化大革命、「紅衛兵」の影響を受けていた。住民の生活苦を背景とする点では現在のデモと同じだが、意識状況は「逆転」ともいうべき様相を見せている。これは、中国革命や社会主義建設の問題とも関わる問題といえるだろう。
 その中国が、十九世紀以降、帝国主義諸国に奪われた土地・財産を回復する意志を捨てることはない。香港も、アヘン戦争の結果として英国に奪われたものだ。さらに、中国には「台湾統一」という課題がある。中国政府、さらに多くの中国国民が、香港住民のポスト・コロニアルな意識に共感を抱くことは考えにくい。

ーー米国の香港情勢への関与も言われています。

丸川 香港のデモに対しては、米国のいくつかの機関や著名人が関与していることは間違いない。バノン元大統領特別補佐官は「民主化要求集会」に参加し、「香港のデモは大陸中国の体制転換につながる」と檄を飛ばした。二〇一四年の「雨傘運動」の指導者である黄之峰氏は、「全米民主主義基金」(NED)と接触していた。NEDの背後には、中央情報局(CIA)がある。
 トランプ米政権は中国製品への追加関税だけでなく、「香港人権・民主主義法」の制定、さらに「ウイグル人権法」で中国を揺さぶっている。他国の状況に干渉する法律を「国内法」として制定するという、とんでもないことができるのは、覇権国の米国だけである。
 こうした事実は、中国の警戒を呼ぶに十分なものと思われる。
 中国が恐れるのは、香港に「独立」をめざす勢力が台頭し、「ポスト一国二制度」の統合スケジュールが乱されることである。これは台湾問題だけでなく、中国の抱える民族問題全体に影響を与え、習近平政権が至上命題とする「安定維持」を脅かしかねないからだ。
 このように、香港問題は非常に複雑である。香港の「民主」だけを一面的に強調するのではなく、事態を複眼的な視点で見ることが欠かせないのではないだろうか。

ーーありがとうございました。


メッセージ/消費税の廃止をめざし、まず5%への引き下げを
湖東 京至・元静岡大学教授(税理士)

 政治・経済の混乱の中、二〇二〇年を迎え、新春のごあいさつを申し上げます。
 消費税率の一〇%への引き上げ、複数税率制の導入は、わが国の消費者・中小事業者に重大な影響をもたらしています。今後、事業者の決算・消費税納税が始まるとともに、その悲鳴は一段と大きくなるに違いありません。
 そのうえ二三年十月から、事業者にはインボイス方式といって、税務署長が付番した事業者登録番号を付した領収書や請求書をやり取りしなければならなくなります。つまり、正式の(公的の)請求書・領収書で取引を監視しようというのです。正式の領収書や請求書と紛らわしいニセの請求書・領収書を発行すると懲役一年以下、五十万円以下の罰金が科せられます。
 一方、輸出企業には消費税の還付金があり、税率が上がれば上がるほど還付金は増えていきます。財界や国際通貨基金(IMF)がヨーロッパ並みの一五%、二〇%に引き上げることを要求しているのはそのためです。
 安倍内閣と財界の陰謀を見破り、来るべき衆議院選挙で野党が一致して「消費税廃止、当面五%に引き下げよ!」を統一スローガンに掲げて勝利し、安倍内閣を退陣に追い込みましょう。そして、マレーシアのように消費税を廃止させましょう。

メッセージ/悪質業者の排除を(坂本 克己・全日本トラック協会会長)

 トラック輸送事業は、全国各地域で地域の経済と人びとの暮らしを支えており、公共交通機関として、高い評価を得ているところです。
 また、昨年相次いで発生した激甚災害に対して、被災地への緊急物資輸送を迅速に展開したところであり、国民から絶大なる信頼をいただいております。
 トラック運送業界は「人」で成り立っており、現場で働くトラックドライバーの皆様の活躍がなければ、業界は立ち行かなくなります。ドライバーの皆様が自信と誇りを持って働き、豊かな暮らしが築けるよう最善を尽くしてまいります。
 そのために、一昨年十二月に最重要項目である貨物自動車運送事業法の改正が行われました。「荷主対策の深度化」「規制の適正化」「標準的な運賃の告示制度の導入」の三つの施策をセットとして、一体的に取り組むことにより業界の健全な発展が図られるものと考えております。
 悪貨が良貨を駆逐することのないよう悪い事業者を排除し、また、悪い荷主が糾弾され、真面目な事業者が社会において正当な評価がなされる体制づくりを構築してまいりたいと考えております。国交省などに対し、より良い状況に導かれるように努めていただきたいと存じます。
 また、「輸送の効率化」「安全確保の向上」「環境保全の改善」の三つに影響を与える道路の積極的な活用について、より使いやすい道路の実現をめざし、先般、重要物流道路のさらなる拡充や機能強化について、関係行政に要望を行ったところであります。トラック輸送事業が道路の積極的な活用により社会的使命を果たしていくため、今後も、各地域において自治体などに対して、「使いやすい道路の整備」について、積極的な要望活動を行っていただきたいと存じます。
 トラック運送業界は今後とも、団結を強め、協調を深め、全国で結集して、さらに進化・発展を遂げていきたいと考えております。
 すべての業界関係者が課題解決への思いを一つにして、新しい時代にふさわしいトラック運送業界の実現に向けて、引き続き、皆様方の多大なるご理解・ご協力をお願いしながら、新年のごあいさつに代えさせていただきます。(要旨)



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