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労働新聞 2019年4月5日号・8面

国内外の平和・人権は危機的状況

差別排外主義との闘い強めたい

組坂繁之・部落解放同盟
中央執行委員長

 部落解放同盟は三月四〜五日、「憲法改悪を許さず、人権・平和・民主主義の確立をめざす協働のとりくみをすすめ、部落解放運動を大きく前進させよう」のスローガンを掲げた第七十六回全国大会を開き、差別と戦争に反対し全力で闘う決意を東京で固めた。今後の運動に向けた思いなどを組坂繁之・中央執行委員長に聞いた。(文責編集部)


平和と人権は一体の課題
 今回の大会で私が強調したのは「平和なくして人権なし、人権なくして平和なし」ということだ。それぞれが別の課題ではなく、一体のものとして取り組む必要性を感じているからだ。
 米国追従のもと軍事大国化と日米軍事一体化をすすめる安倍政権は、「戦争のできる国」づくりから「戦争をする国」づくりをすすめようとしている。防衛費は五年連続で過去最大を更新、米国から高額兵器を大量購入し、攻撃型空母への改修や国産戦闘機開発にも踏み込んでいる。また「戦争法」を成立させ、憲法改悪にも執念を燃やしている。
 「米国第一主義」を掲げるトランプ政権は、中東ではイランなどと軍事的緊張を高め、また中国とは貿易赤字や「一帯一路」などをめぐり政治的経済的対立を深めている。自衛隊が米国とともに戦争に参加する現実味が増している情勢にある。
 この「戦争をする国」づくりをすすめる安倍政権にとって、人権は非常にジャマな存在なのだろう。いざ戦争をしようという時に、国民が「人権を守れ」「平和が大切」などと言っていたのではやってられないからだ。人権をないがしろにし圧殺する一方、道徳の教科化など偏狭な愛国心教育には余念がない。
 われわれは国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に基づく人権委員会の設置を国に対して訴え続け、民主党政権時代には法案の上程までこぎつけたのだが、安倍政権になってからは、世界の先進国はもとよりアジアでもほとんどの国では設置されているにもかかわらず、国は何かと理由を付けてそれをすすめようとしない。人権を形骸化させたい政権の思惑がここにもあらわれている。
 また、この五月には天皇の代替わりがある。新元号の制定を含め祝賀ムードをあおっているが、これも広い意味では「戦争をする国」づくりの一部だといえる。戦前の教育の基本方針である教育勅語によって「天皇のために命を投げ出せ」と教え込まれた国民は戦争に加担することを強いられたのだが、柴山文科相は昨年、この教育勅語を現代風にアレンジし道徳教育に復活させる思惑を語っている。現在の天皇の個人的思想などとは関係なく、安倍政権が天皇制イデオロギーを強化する狙いは自明だ。
 天皇制について、「部落解放の父」である松本治一郎先生は「いわれなく尊い人がつくられると、いわれなく卑しい人がつくられる」と断じた。本来、天皇制は部落解放運動の立場と相容れない。「貴族あれば賤族あり」を鮮明にし、天皇制賛美と強化、政治利用の拡大を許さないという広範な闘いに取り組んでいきたい。
 戦争はそれ自身が最大の差別であり人権侵害であるだけでなく、それに向かう過程でも人権が侵されていく。「特定秘密保護法」や「戦争法」、共謀罪の廃止も含め、憲法改悪と戦争を絶対に許さない闘いは正念場を迎えている。統一地方選挙や参議院議員選挙でも勝利し、連帯した闘いを広げなければならない


差別扇動との闘い強化を
 世界では現在、新自由主義政策による規制緩和と市場自由化、金融資本による経済のグローバル化で生じた格差や貧困問題に対する強い不満・不安を背景に、差別排外主義を唱える非寛容な政治勢力が各国で台頭している。米国のトランプ政権誕生もそうした動きの一つだといえる。
 日本でも近年、特に安倍政権になって以降、そのような傾向が強まっている。それは、安倍政権の経済政策であるアベノミクスで格差が拡大したことに加え、政権や与党の人間自身が在日韓国・朝鮮人、障害者、性的少数者、生活保護受給者への差別的発言を行い、あおってもいるからだ。
 被差別部落に対しても、在日に対する街頭での差別宣伝ほどのあからさまなものはみられないが、インターネット上での差別書き込みなどは増大・悪質化し、また差別落書きなども増加している。
 かねてから全国の被差別部落の所在地や関係者の個人情報などをインターネット上に掲載してきた鳥取ループ・示現舎は、二〇一六年には書籍「全国部落調査・復刻版」を出版しようと試みた。これについては裁判闘争を行い、出版禁止の仮処分命令が出たが、いまだにインターネット上では削除が行われず放置されている。
 一六年に部落差別解消推進法が施行された。これは、部落差別の存在を認め、それが社会悪であるとして、その解決に向けて国や地方自治体が相談体制の充実や教育・啓発の推進、実態調査の実施をすすめていく必要性を定めた法律だ。これを具体化するために行政交渉を強め、各自治体で部落解放行政・人権行政の推進を勝ち取っていかなければならない。取り組みの結果、東京や愛知、兵庫、奈良、高知、福岡、大分、熊本、宮崎などの市町村で推進法を踏まえた条例が制定された。行政施策充実につなげていかなければならない。
 古い話になるが、一八七一年に明治政府が身分廃止を布告した際、貧しい農民を中心に「解放令反対一揆」という部落民に対する襲撃・集団リンチ暴行事件が日本各地で起きた。厳しい生活を強いられてきた者が「あいつらと同じ身分にされてたまるか」と起こした惨劇だが、「昔の話」と片付ける訳にはいかない。貧困問題が深刻化する中で、正しい教育がなければ、憎悪は容易に隣人へと向かう。差別と貧困をなくしていくために広範な人びととの連帯が必要だと痛感している。

教育は最重要課題の一つ
 格差や貧困の問題は、とりわけ非正規雇用の若者世代に大きな打撃となっているが、特に部落の若い世代の教育や労働の実態にも深刻な状況をもたらしている。元々部落民は経済的な基盤が弱い産業に従事していることが多い。また安倍政権のすすめた市場開放・関税撤廃は食肉や皮革などの部落産業に今後大きな打撃を与えるだろう。
 内部の各種調査でも、全国平均と比較して大学進学率の低さや不安定就労率の高さ、年収の低さ、生活保護率の高さなどが明らかになっている。これらの要因として、安定した層が部落外に流出する一方、より困難を抱える層が流入、貧困と不就学、不安定就労の悪循環が起き、新たな貧困化が生じている。まさに、現代社会の矛盾が被差別部落にしわ寄せされているともいえる。
 こうした状況の改善・解決に向け、まず各地で、自治体や大学なども交えた形で生活実態調査を行うことを追求している。厚生労働省ではないが、独自調査では「お手盛り」などと言われかねない。部落の貧困はいわば「社会的な病気」だ。行政も巻き込んだ公的な「診断」から始め、「治療」方針を出さなければならない。
 特に教育の問題は簡単ではない。われわれは長年にわたって力を入れて取り組んでいるが、「教育百年」と言われるように、三世代、四世代かかる課題だ。教育を受け安定した仕事を得た者が、部落から出ず、運動をやり、周辺も含めた地域づくり・差別のない人権のまちづくりに取り組み、それによって地域の信頼を勝ち得ていく。こういうことを若い世代に期待したい。
 若い世代が受けてきた部落差別体験はわれわれ世代とは違う。われわれの若い頃は直接的に差別発言を浴びせられたり、扱いを受けたりして、「この野郎!」という反骨心を抱いたものだ。今は表面的にはそのように言われることは減っている。しかし人びとの中に差別意識がなくなっているわけではなく、最初に差別を受けるのが「結婚」という場合は多い。今でも、身元調査によって結婚差別が起こっている。
 一方、インターネット上に書き込まれた差別発言に衝撃を受け、部落の人間であることを自覚し、正義感で立ち上がる者も少なくない。そういう若い世代のアンテナは高く、感度が鋭い。「部落解放運動はもっと外に向けて発信すべきだ」などと突き上げられたりもしている。頼もしいことだ。
 三年後の二〇二二年には全国水平社創立百周年という大きな節目を迎える。部落解放という大きな目標に向かって、確かな闘いの方向を示すことができるよう奮闘したい。


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