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労働新聞 2018年1月1日号・10〜11面

アジアの平和・共生へ
国の進路の大転換を

  「米国第一」を掲げて登場したトランプ米政権は、昨一年、世界支配を維持するための巻き返し策を強引に押し進め、アジアの緊張を高めた。昨年末には、中国・ロシアを名指しした新たな安全保障戦略を発表、この方向をいちだんと強化しようとしている。アジア戦略の中心は台頭する中国へのけん制強化であり、これと結びつけての朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への「核・ミサイル」を口実とする敵視と制裁の強化である。わが国安倍政権はこの先兵役を務め、アジアで大国として登場しようとしている。わが国の進路を大転換させ、独立・自主でアジアと共生する方向に向けることは、喫緊の課題である。各界の識者に、わが国のアジア外交のあり方を中心に伺った。(文責はいずれも編集部)


アジア緊張の原因は米国に
求められる自主・独立の気概
浅井 基文・元外交官、元広島平和研究所所長 に聞く

ーー朝鮮半島をめぐる情勢が緊張しています。安倍政権やマスコミ、また野党も、この原因を朝鮮の「核・ミサイル」に求め、「制裁強化」を呼びかける点でほぼ共通しています。私たちは、米国のアジア戦略、その中での朝鮮敵視政策こそが緊張の元凶だと思います。いかがでしょうか。

浅井 休戦状態にすぎない朝鮮戦争が完全に終了し、さらに分断二国が統一することは、米国のアジア太平洋戦略、世界戦略にとって得になりません。米国は基本的判断として、朝鮮半島の緊張状態が持続することを望んでおり、現在の「準戦時状態」を解消する意思も意欲もありません。
 それはなぜか。
 朝鮮自体を敵視し、体制転覆を狙っているということもありますが、中心は、アジア太平洋における米国の覇権体制を維持することです。一九九〇年前後までは、そのための「仮想敵」はソ連でした。現在は、急速に台頭する中国を意識して、アジアでの軍事プレゼンスを確保しようとしています。朝鮮半島における緊張状態が続くことが、このプレゼンスを正当化する上で必要だということです。
 韓国による朝鮮の平和的併合なら、米軍を中国国境の鴨緑江まで進出させることが可能になりますから、それなら「話に乗る」ということでしょうが。

ーートランプ政権の対朝鮮政策の特徴は、何だと考えていますか。

浅井 オバマ前政権が採用していた「戦略的忍耐」とは、最終的に朝鮮を自壊させるための、いわば「兵糧攻め」の戦略でした。
 それに対してトランプ政権は、オバマ政権までの政策は「失敗だった」として、「最大限の圧力と対話」という方針を掲げています。要するに、経済制裁などで徹底的に絞り上げ、それに全面降伏するなら、戦後の日本と同じように「命だけは助けてやる」という政策でしょう。
 トランプ大統領が、従来からの米国の戦略をどの程度理解しているか、疑問もありますが、彼が「商売人」と言われるゆえんでしょう。
 中国の習近平主席は、四月の米中首脳会談の際、この点に、従来の米国の政策との違いを見い出したのかもしれません。だから、「事態打開」のために協力するアプローチをとるに至ったのでしょう。
 しかし、それで悲鳴を上げる朝鮮ではありません。
 結局、米国は万策尽き、国連安全保障理事会で朝鮮との断交と原油の全面禁輸という、「最後通牒」じみたことまで言い出しています。
 中国がこのようなことをのめるはずもありません。中国からすれば「もう付き合えないので、勝手にしろ」というところでしょう。ロシアも同様です。
 トランプ大統領の「悪徳商法」は、朝鮮には通じなかった。ですから、ボールは再び「米国に戻った」ということです。

ーートランプ政権は軍事攻撃を含む「あらゆる選択肢」という態度を変えていません。

浅井 朝鮮自身も言っているように、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)を技術的に完成した」ということと「実戦配備する」ということの間には、まだ時間があります。この間に、朝鮮は米国の妥協を引き出したいところでしょう。
 米国が朝鮮を軍事的に抹殺しようとすれば、米国本土はともかく、朝鮮半島や日本は「死の灰」でおおわれることになります。それは、アジア太平洋経済の崩壊でもあります。
 いくら常識のないトランプ大統領でも、よほどの「ボタンの掛け違い」がない限り、軍事行動に踏み切るのは難しいでしょう。ですから「さらに圧力をかける余地はないか」と模索しているわけです。結局、双方のメンツを維持する形で、局面を打開する方法があるかどうかということでしょう。
 とはいえ、米国が朝鮮を核保有国として認めることはあり得ませんし、朝鮮は、自国の安全保障について最大限の確実な約束を米国から取り付けられない限り、核兵器を手放す可能性もないと思います。朝鮮の核保有を認めれば、日本や韓国が「続こう」とするのは目に見えていますから。
 朝鮮半島が緊張した状態がしばらく続きますし、「ボタンの掛け違い」は読み切れません。この可能性は常にあることを意識しておく必要があります。

ーー対朝鮮だけでなく、対中国でも、日本の外交が問われる緊迫した情勢です。安倍政権の外交政策について、元外交官としてご意見をお聞かせ下さい。

浅井 安倍政権の対朝鮮、対アジア政策が、それ自体、独立した位置づけを与えられているのかというと、はなはだ疑問です。
 これは、歴代自民党政権と同じ対米従属であるということだけではありません。安倍首相のアイデンティティは憲法第九条の改悪にあるわけで、あらゆる政策をその実現のために利用するということです。対朝鮮政策も、対中国政策も、改憲目的のために利用するのです。祖父の岸信介が果たせなかった改憲の「夢」を果たすことで、自らも歴史に名を残す。そして、日本をかつての「美しい国」に戻すということです。
 このためには、朝鮮は「悪者」であってくれなければ困る。安倍政権としては、中国「脅威」論を大々的に唱えたいところでしょうが、「一帯一路」構想が経済界の「垂涎(すいぜん)の的」であることからしても、中国との「カチンコ勝負」はできない。
 この点で、朝鮮「脅威」論は非常に利用価値が高い。拉致問題があるため、国民的にもきわめて受け入れられやすい素地がある。大した困難もなしに、国民心情に訴え得るわけです。
 逆に言えば、ここに、トランプ政権と安倍政権の対朝鮮政策での矛盾が拡大する可能性があります。ティラーソン米国務長官が「無条件で交渉」と言っただけで、日本政府はあわてて「真意」を確かめようと奔走する、実に醜い姿です。
 朝鮮「脅威」論が「裸の王様」であったということが暴露されれば、安倍政権の改憲論も破綻します。安倍政権は、決して盤石ではありません。

ーー対する国民、平和運動の現状に対して、一言、お願いします。

浅井 世界は、「米国第一」を掲げたトランプ政権が誕生するような、歴史的変動期です。
 自民党の「対米一辺倒」は、外交の名に値しません。
 厳しい言い方になってしまいますが、日本の平和運動の多くにも、国際情勢という視点が欠落しています。二十一世紀の国際環境のなかで日本がどういう立ち位置をとるのか、どのような外交政策をとるのかという視点がなく、「憲法の条文」という国内的視点にとどまっています。
 この視点にとどまる限り、安倍政権に「朝鮮の脅威をどうする」「中国の脅威にどう対応する」と迫られると受け身を強いられ、黙ってしまい、議論が進まない。ここに、旧民主党政権が、自民党と同じ外交しかできなかった理由もあると思います。
 私たち自身の主体的課題として、このような内向きの思考を清算し、日本外交をどうするのかという議論を積極的に展開しに発展させなければなりません。
 かつて、福沢諭吉や丸山真男は、日本が生きていくための国民の思想の根本的変革の必要性を説いていました。私はまったく同感です。自らが外交の「軸」をつくる、自主・独立の気概が必要な時期です。

ーーありがとうございました。

あさい・もとふみ
 1941年生まれ。東京大学を経て外務省入省。条約局国際協定課長、アジア局中国課長などを歴任。東京大学教授などを経て、広島市立大学広島平和研究所所長。著書に「日本外交−反省と転換」(岩波新書)など。


成長続く朝鮮経済
等身大の視点で見るべき
三村 光弘・環日本海経済研究所主任研究員 に聞く

ーー朝鮮をめぐっては、日本海沿岸への漁船漂着をもって「経済制裁で飢餓が深刻化」といった報道がされています。実際のところ、朝鮮経済はどうなのでしょうか。

三村 朝鮮は国内総生産(GDP)などの経済指標を発表していませんが、一人当たりGDPでは日本の三〇分の一ぐらいと推定されています。県でいうと、鳥取県から香川県ぐらいですね。
 この点で、絶対的には「豊かな国」とは言えないでしょう。
 ですが、一九九五〜九七年、水害などが相次いで三十万人もの餓死者が出たとされる時期からすると、相当に改善しています。
 漁民が冬でも漁に出るというのは、二〇一三年ぐらいから呼びかけられていることです。これは、「食べ物がないから」というよりも、「国民がもっと栄養価の高いものを食べられるように」という意図からです。
 もう一つ、市場経済化が部分的に進んでいることが指摘できます。
 以前は、漁業を含む経済活動のほとんどが国営企業によって行われていました。現在は、形式的には「国営」が維持されていても、実質的にはオーナーが漁船や燃料などを投資し、国や軍に一定の漁獲量を収めれば、残りは自由に販売できます。
 船主や漁民が「もっとたくさん獲りたい」と考えるのは当然で、結果、無茶をしがちになる。現在起きていることは、こうしたことだと思います。
 漁業以外の経済活動でも、こうしたことが広がってきています。

ーーもっと「等身大」で朝鮮を見る必要があるということですね。

三村 はい。現在のマスコミ報道は、多分に偏見からきていると思います。「核・ミサイル」は「重大な脅威」とイメージを肥大化させる一方で、「人びとは貧しい」と描く。
 大正・昭和初期の日本は、米国に張り合って軍艦をたくさん建造する一方、東北の農村では飢餓がまん延し、娘たちは身売りされていました。これを思い出せば、冷静になれるはずです。
 発展途上国へ行って米朝問題の話題になると、多くの政府関係者は「米国を支持する」と言います。ですが、そう言っている人でさえ「個人的には朝鮮は大したものだと思う」「いじめられても踏ん張っている」という評価も高いのですよ。
 朝鮮に対する冷静な見方こそが求められていると思うのです。

ーー朝鮮経済の話に戻りますが、経済は順調に発展していると見てよいということですか。

三村 私の研究と印象では、ここ五年ほどは、年三〜七%の経済成長が実現できていると思います。韓国の中央銀行である韓国銀行の調査でも、二〇一六年の朝鮮の国民所得が前年比三・九%伸びたとしています。
 米国もある程度、これを認めています。
 オバマ前政権までは、朝鮮を包囲して締め上げ、「白旗を揚げる」か「体制崩壊」を待つ戦略だったと言ってよいでしょう。
 ところが、この二十年間、そうはなっていないし、核技術も進歩させてきた。トランプ政権が言う「従来の政策は誤り」の「従来」には、「崩壊待望論」の誤りという意味もあると思います。逆に、能動的に体制を崩壊させる「力による平和」を朝鮮に適用する可能性もあります。
 将来、朝鮮が本当の意味で経済を発展させるには、朝鮮戦争以来の「戦時体制」を終わらせることが必要です。
 これは、米国からの体制保証があって初めて可能となります。朝鮮が市場経済的要素を拡大させる方向に向かうかどうかは分かりません。しかし、朝鮮が国づくりに専念し、「冒険」ができる機会を与えるべきでしょう。
 そうしてこそ、朝鮮半島だけでなく周辺地域に平和と繁栄がももたらされるのではないでしょうか。

ーー日本としては、すぐに国交正常化の方向に踏み出すべきだと思いますが。

三村 朝鮮に理性的な政権がある限り、そうであると思います。日本は一九九〇年代から国交正常化のためのさまざまな交渉を行っています。中断してはいますが、この点は米国よりも現実的です。
 日本政府は、米国の顔色を伺わなければならないという問題がありますし、拉致問題もあります。ですが、内戦で人権侵害が続く南スーダンとさえ国交を持っているのですから、朝鮮と持てないはずはない。
 いきなり国交正常化でなくても、残留日本人や日本人配偶者、遺骨の問題といった人道問題を解決するための「利益代表部」を置くことから始めることも考えられます。
 朝鮮は隣国であるという事実は、動かせません。政治的な懸案とは別に、冷静に関係をつくることが必要なのではないでしょうか。
 その点で、民間団体が実際に朝鮮を訪ね、交流することは意義のあることです。「顔の見える関係」をつくり、互いに理解し合うことが重要だと思います。

ーーありがとうございました。

みむら・みつひろ
 1969年生まれ。大阪外国語大学を経て、大阪大学法科大学院修了。2001年、環日本海経済研究所(ERINA)入所。専門は朝鮮経済など。著書に「現代朝鮮経済 挫折と再生への歩み。


「国際公共財」打ち出す中国
「一帯一路」に積極参加を
平川 均・国士舘大学教授 に聞く

ーーまず、中国が主導する「一帯一路」構想とは何なのでしょうか。

平川 「一帯一路」は、二〇一三年に習近平国家主席が提唱した構想で、「中華民族の偉大な復興」の象徴的政策です。
 中央アジアを経由して欧州に至る陸路(シルクロード経済ベルト)と、東南アジアからインド洋、アフリカ東岸などを経てヨーロッパにに至る「二十一世紀海上シルクロード)を合わせた、壮大な構想です。
 昨年夏の段階で、中国企業による沿線諸国への直接投資額は百四十八億ドル(約一・六八兆円)、新規契約の工事請負額は九百二十六億ドル(約一〇・五兆円)に達しています。
 中国の国内、対外諸政策の「総まとめ」的な存在ですが、国内に存在する過剰投資の解消策、さらに資源安全保障政策という側面もあります。提唱当時、オバマ前米政権が環太平洋経済連携協定(TPP)を推し進めていて、これに対抗する意味もあったでしょう。
 それだけでなく、中国は経済規模で日本を超え世界第二の経済大国になっています。こうした世界の構造変化と関わる計画です。

ーー安倍政権もこれへの支援を打ち出すようになっています。年末には、日本企業向けの「ガイドライン」を策定しました。他方の、中国側の動きや変化はどうでしょうか。

平川 中国が最近、力説しているのは、「一帯一路」が「国際公共財である」ということです。
 その前には、一時期、米国が第二次世界大戦後に欧州に対して行った「マーシャルプラン」にたとえたこともありました。その後、中国政府はこの表現を否定しました。
 マーシャルプランは、戦争で荒廃した欧州の復興に向けた米国の支援でした。むろん、冷戦構造が深まるなかで「対ソ連」を明確に意識したものでした。
 これと同じ言葉を使えば、中国の意図とは別に「米国に対抗する」というニュアンスが出てしまいます。中国は対抗する意図がないわけではないでしょうが、過剰反応を嫌ったのでしょう。
 ただ、マーシャルプランには、受け入れ機関として欧州経済協力機構(OEEC)が設置され、こんにちの経済協力開発機構(OECD)へと発展しています。OEECは、戦勝国と戦敗国が同じテーブルについて欧州復興に関わっていて、欧州統合の理念のさきがけであるとも言われます。「一帯一路」がこうした内実を含む長期戦略を強めれば、「マーシャルプラン」にたとえても、二十一世紀的な意義があると思います。
 「一帯一路」構想を資金面で支えるのは、アジアインフラ投資銀行(AIIB)です。「一帯一路」によるインフラ市場の創出は、日米をAIIBに誘う根拠でもあるのではないかと思います。

ーー中国の強みは、欧州諸国がこの構想に積極的なことですね。

平川 中国はおそらく、ユーラシア大陸という構造の中では、欧州が中国に味方するだろうと読んでいるのだと思います。距離は遠いですが、地続きですからね。
 欧州諸国にとっては、ユーラシアの内陸で経済が発展すれば、地域の安定にもつながり、この方面から移民・難民が押し寄せる懸念も減ることになります。

ーー米国のこの構想への態度ですが、妨害することはないのでしょうか。

平川 最近、米国の国際的放送局であるボイス・オブ・アメリカ(VOA)が報じたのですが、パキスタンとネパール、ミャンマーの三国が、それぞれの国で中国の支援を得て進めていた水力発電プロジェクトを断ったということです。
 米国政府の意思がどの程度、ここに影響しているかは分かりません。
 いずれにしても、「一帯一路」のプロジェクトがすべてうまくいっているわけではありませんし、率直に言って、粗雑な部分もあります。ですが、「一帯一路」で生まれる市場は米国企業のビジネスの場にもなります。アベノミクスの「三本の矢」だって「新・旧の矢」があります。最初から確固としているかどうかは、大きな問題ではありません。
 日本政府の「ガイドライン」には「軍事施設になり得るものはダメ」というような基準がありますが、これも明確ではないですよね。軍事利用できない飛行場はありませんし、港湾だって同じでしょう。そんな狭い了見では、インフラ施設はつくれません。

ーー日本は「一帯一路」に積極的に加わるべきだと思います。

平川 その通りです。日本の経済界も、大部分はそれを望んでいると思いますよ。中国は「国際公共財」と言っているのですから、外から「透明性が…」と条件を付けるべきではありません。問題があれば、中に入って意見を言えばよい。まずは、議論できる関係をつくることです。

ーーありがとうございました。

ひらかわ・ひとし
 明治大学卒業、京都大学博士。名古屋大学名誉教授。長崎県立大学、東京経済大学、名古屋大学などを経て現職。最近の共編著に「新・アジア経済論」など。


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