労働新聞 2007年12月15日号・1面

貧困層の命を削る改革政治
低所得層全体を直撃

生活保護基準引き下げを許すな

 厚生労働省の有識者検討会「生活扶助に関する検討会」(以下・検討会)は十一月三十日、生活保護の生活扶助基準が低所得者世帯に比べてが高くなっているとの報告書を発表した。これを受け、舛添厚労相はさっそく支給額の引き下げを明言した。生活扶助は食費や光熱水費など基礎的な生活を保障するものであり、生活保護費の中心をなす扶助である。引き下げは受給者百三十万人の生命存続にかかわる大問題となる。貧困層の増大は政治の失策によるものであり、その責任を貧困層に転化するとは言語道断である。

「まず削減ありき」の暴挙許すな
 改革政治が貧困層を増大させてきたのは、周知の事実である。わが国は経済協力開発機構(OECD)の加盟国の中でも貧困層の比率が高い。にもかかわらず、経済財政諮問会議は生活保護制度の見直しや社会保障費圧縮を強引に進めている。貧困層の生活実態を考慮しない、「まず財政削減ありき」の暴挙だ。
 厚労省は今回、一般世帯のうちでも最も低収入の階層との比較で検証するよう、検討会に要請した。これまで生活保護基準の決定に際しては、一般世帯の消費水準との比較を基本にしておおむねその六割が基準とされてきた。この変更によって最低生活基準はさらに引き下がる。
 政府は「働いている人よりも生活保護のほうが収入が多い」というキャンペーンで生活保護受給者を迫害し、〇六年四月に老齢加算、〇七年四月には母子加算を廃止した。今回もまた、母子世帯や都市部に住む単身高齢者が狙いうちされている。
 保護基準の切り下げは、生活保護によって生命をかろうじてつないでいる人びとの命を奪うに等しい。「政府が切り下げを見送った」との報道が流れているが、情報源もあいまいである。たとえ来年度予算で見送られたとしても問題は何一つ解決しておらず、執ような攻撃が続くことは必至だ。

引き下げは多くの制度に影響
 わが国では、生活保護基準が貧困ラインとみなされている。その基準が下がれば、さらに多くの貧困層の存在が社会から隠されることとなる。
 また、生活保護基準の引き下げは地方税、就学援助、国民健康保険、介護保険、障害者自立支援、公営住宅の減免などにも影響を及ぼすもので、低所得者層全体を直撃する問題だ。
 基準引き下げは労働者の賃金にも直結する問題だ。改正最低賃金法には「最低賃金は生活保護との整合性に配慮するよう」明記されている。生活保護基準を引き下げるのではなく、働いても貧困ライン以下の人びとの賃金引き上げこそが緊急課題となっている。
 受給者は「声を上げれば保護を打ち切られるかもしれない」という不安の中で生活している。弱者を狙いうちにした攻撃を許してはならない。労働組合は、貧困で苦しむ人びとの要求を掲げて闘おう。


「しばしば死を思う…」
「もう一つの検討会」での生活保護受給者の発言

★六十五歳 女性
 私は身寄りがなく、まったくの一人暮らし。まともな食事は一日一回ですませている。生活扶助費は二〇〇三年に減額された。私の生活費を見てください(表)。出費しないために店のある所へは行かず、できるだけ外出しないようにしている。もらったパソコンでインターネットをするのが唯一の娯楽。でも、何日も人と話をしないと、精神衛生上良くない。
 先日、ずっとがまんしていた腰痛ががまんできなくなり、救急車で入院した。着がえを取りに行くのに、タクシーで自分で行かなければならなかった。一人暮らしはこういうときにも、余計なお金がかかる。
 赤裸の孤独と貧困。私は千円札を一枚出すのもちゅうちょするのに、舛添大臣が「一万円か二万円程度の削減」と言った。その言葉に絶句した。
 ネットの掲示板では、受給者たたきが激しい。「死んでくれ」とかいう言葉に、じわじわと圧迫感を感じている。しばしば死を思う昨今だ。働きたいが、性差別、年齢差別でアウトされる。これも自己責任ですか。職を下さい!

★三十歳代 男性
 今来ているコートは七年前に買ったものだ。服などは食費を削って、お金をためて買わなければならない。五年前に生活保護を申請した。係の人が「働けないんですか?」と聞いた。私は自分の耳を疑った。ショックを感じた。私は障害者で足がない、指がない、目も見えなくなってきている。働こうと思っても、働く場所はない。
 自殺未遂を三回。こんな僕が生きていいのか。社会のお荷物、ゴミじゃないか。でも、こんな僕でも生きていいんだという実感を持てるようになったのは、生活保護があるからだ。今は、小学校で自分の体験を話す機会ができ、子どもたちの言葉に勇気をもらっている。
 厚労省の中村局長は「生保を使いながらズルズル生活しておられる方も多い」と発言していたが、私は生活保護を使って社会に参加して、ゴミじゃない人間になっていると、局長に伝えたい。
 生活保護は市民の最後のとりで。連動して多くの制度も影響を及ぼす問題だ。生活保護を使えない多くの貧困層を救ってほしい。そういう議論をするのが大事だ。簡単に片づけられる問題ではない。好きこのんで貧困になりたがる人はいない。現場に出向いて声を聞き、だれもが安心できる社会をつくるのが厚労省の役割ではないのか。


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