労働新聞 2002年11月25日号 1面

地方犠牲に抵抗強まる
「地方分権改革推進会議」最終報告
多国籍企業のための「地方分権改革」
「競争」「自助努力は国の責任放棄

 政府の地方分権改革推進会議(以下、「推進会議」)は10月30日、最終報告を小泉首相に提出した。
 報告は、多方面で、国から地方への補助金大幅削減などが打ち出された。
 教育分野では、小中学校教員の給与への補助金や退職手当などを、現行の半額補助から5000億円を数年以内に削減、残りも一般財源化を求める。また、幼稚園と保育所の補助金も削減、制度の一元化を求めている。
 道路整備に関しても、山間部と都市部を切り離し、国の助成は複数の都道府県にまたがる広域的な事業に限定。農業委員会への交付金も、国の一般財源化するという。
 一方、政府はかねてから、「地方交付税、国庫補助負担金、税源移譲」を「三位一体」で検討するとしてきた。
 予想できたことだが、最終報告は地方の自立的行財政運営に不可欠と宣伝されてきたこの税源移譲問題には立ち入らず、「協議、調整する」とするにとどまった。
 つまり報告は、「補助金は減らす、税源は渡さない」という、露骨な地方切り捨てである。とりわけ義務教育関連費の削減は、国の教育に対する責任を放棄するものである。また、一般財源化は財政の用途を限定しないこととなり、地方財政危機の中で、今後のさらなる削減に道を開きかねない。
 
安上がりな行政システム狙う

 また、このような徹底した補助金抑制策は、地方自治体の予算を圧迫、住民各層への犠牲をもたらすことは必至である。
 政府、支配層は「分権システムの構築」などと耳ざわりのよいスローガンを掲げ、「地方分権改革」を盛んに宣伝している。
 だがその狙いは、グローバル資本主義の下で国際競争で生き残りをかけるわが国多国籍大企業の利益にそって、安上がりで効率的、かつ強力な中央・地方の行政システムを再構築することにある。
 各種補助金や地方交付税などに代表されるこれまでの地方自治制度のあり方が、国際化の中、全世界で大もうけし、本社機能すら外国に移そうという多国籍大企業にとって、もはや耐えられない負担、生産性の低いシステムとなったということである。多国籍大企業は、地方自治制度の抜本的合理化を要求し、「分権改革」をあおっているのである。この連中にとってみれば、外国資本と競い、利潤を確保する上で、行政コストも安くなる行政改革=地方分権改革は、実に結構なことである。
 そのために、「地域の自立」や「地域間競争」をあおって「自助努力」を押しつけ、国からの地方交付税交付金や補助金の削減、罰則をもちらつかせた自治体合併の強制、公共事業の削減、道路特定財源の一般財源化などのリストラ策を矢継ぎ早に打ち出している。
 また、700兆円にも近づいた国・地方の累積赤字の削減もまた、支配層が迫られている課題でもある。
 
犠牲転嫁許さぬ闘いを

 しかしこれらは、大都市など1部の税収規模も大きく、競争力ある自治体を除いて、ほとんどの自治体にはその運営すらままならない、深刻な「痛み」を強制するものとなる。
 すでに、地方犠牲の改革政治に対して、住民はもちろん、地方自治体からも、反発の声が強まっている。
 「推進会議」最終報告に反対し、宮城、岩手、三重、和歌山、鳥取、高知の6県知事が11月7日、「とうてい受け入れられない」などとする緊急提言を発表した(関連記事5面)。
 これは、深まる地方の財政危機と、犠牲転嫁に対して強まる抵抗が反映したものだ。
 もちろん、自治体が「財政危機」を言うならば、それを生み出した責任も、厳しく問われなければならない。
 「景気対策」などを口実に、地方に大規模開発を押しつけた国の責任はもちろん、それを積極的に引き受け、自ら利益を得てきた地方の財界・支配層にもまた、大きな責任がある。
 この問題を明らかにせず、「地方分権改革」の名目で住民にのみ負担を強いるのは、断じて許されない。
 地方切り捨ての「地方分権改革」に反対し、国による自治体への犠牲転嫁を許さない、広範な県民運動を巻きおこし、県民、住民のための地方自治を実現しよう。


 「地方分権改革推進会議」(以下、「推進会議」)による地方切り捨ての最終報告に対して、自治体の反発が強まっている。すでに6県知事が緊急提言を行ったが、その中から、中山次郎・和歌山県副知事などに地方行政の立場からの意見を聞いた。

地方への負担転嫁認められぬ
和歌山県副知事 中山 次郎

 政府の「推進会議」最終報告は、本来めざすべき「自主・自立の地域社会からなる分権型システムの構築」からは程遠い内容で、非常に残念です。
 たとえば、義務教育費や道路整備などの国庫補助負担事業の廃止・縮減については、国と地方の役割分担や財源を十分議論し、地方の自主的・自立的な行財政運営の推進という観点を主眼として行うべきで、その上で廃止・縮減すべき国庫補助負担事業を明らかにすべきです。財政措置が変わらないとすれば、地方の財政運営は必然的に厳しくなります。
 より問題なのは、教職員の退職金などのように地方自治体の義務的経費について国庫補助負担制度をを廃止・縮減しても、地方の自主性は拡大されず、これは地方における真に自主的・自立的な行財政運営の推進につながらないことです。
 そもそも、「推進会議」は、今年6月の「中間報告」として、「国庫補助金、交付税、税源移譲を三位一体で検討すべき」との方向性を打ち出しました。
 にもかかわらず、今回の報告は、1部で国庫補助負担金の廃止・縮減を先行的に示す一方で、税源移譲措置については、先送りしたものとなっています。このことは、国から地方への負担転嫁になりかねないため、早期に税源移譲の具体的な道筋を示すと共に、その実施に際しては、税源移譲措置を同時にセットで講じられることが必要です。
 最近の国のさまざまな動きについていえば、省庁の考え方が相変わらず国民本位でないことです。
 最終報告でも、税源を手放そうとしない財務省の考えを反映したかのように、「三位一体」とかけ離れた補助金の廃止・縮減だけが打ち出されました。
 そして、高速道路の建設や地方国立大学の統廃合をめぐる問題では、収支面の議論ばかりが先行し、国としての社会基盤整備のあり方とか国立大学が果たす地域の基幹的高等教育機関としての機能といった、本来の視点が欠落しています。

地方税財源の視点不十分
宮城県総務部行政管理課長 桃生 昌一

 地方において自己決定・自己責任の原則に基づく地方分権改革をするに当たっては、その裏付けとして地方財政基盤の確立が不可欠である。
 国庫補助負担金は、地方自治体の自主的・自立的な行財政運営の推進という観点からすると、コスト意識の希薄さや責任所在の不明確さの問題があり、原則的には廃止・縮減すべきと考えている。ただし、廃止・縮減する金額に見合う財源は、税源移譲等による税財源措置を同時にセットで導入されるべきである。
 「推進会議」報告は、中間報告で「国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討すべき」との方向を打ち出したにもかかわらず、1部で国庫補助負担金の廃止・縮減を先行的に示した一方で、税源移譲については先送りしている。
 財政基盤の確立と税源移譲等による地方税財源の充実強化等の地方財政改革を、強く求めていきたい。


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