労働新聞 2002年11月5日号 大衆運動

旅館の女将らがデモ
おちおち布団で寝られん税

大阪
旅館・ホテルへの独自課税に反対


北原 茂樹・事業推進部長 に聞く

 全国で、自治体による独自課税案が相次いでいる。東京都の石原知事は10月1日、ホテル税を施行した。これと歩調を合わせるように、大阪市でも同様の宿泊税を導入する動きがある。自治体には課税自主権があるが、誰から税を取るかが問題である。財政難というなら、まずその原因にこそメスが入れられるべきで、安易な住民、中小業者への犠牲転嫁は許されない。宿泊税導入反対の取り組みを行っている、北原茂樹・国際観光旅館連盟近畿支部事業推進部長に聞いた。

 厚生労働省によると、全国で営業許可を取っている旅館は約7万4000ある。うち、国際観光旅館連盟(国観連)には、政府登録の約2000件が加盟している。ほかに、日本観光旅館連盟(日観連)という団体に7000余件が加盟している。両団体は国土交通省の管轄で、一定の基準に適合した旅館・ホテルが加盟できるが、国観連は外国人観光客を受け入れられる設備や質をもっているという条件がある。また、政治団体として、全国旅館政治連盟がある。

財政赤字口実の増税

 現在、大阪市は観光協会と共同で、ホテル利用者向けにアンケートを行っている。そこでは、誘導尋問的に「観光振興のための1人100円程度の税金」と書かれており、増税への「合意づくり」ともいえるものだ。
 現在、大阪府ほどでないにしても、大阪市も相当の財政赤字を抱えていて、とくに、オリンピックの誘致に失敗してからは、相当苦しいようだ。



 東京都のホテル税徴収が始まった10月1日、大阪市の宿泊税導入に反対する近畿地方の旅館経営者らが大阪・御堂筋をデモ行進。浴衣や法被姿の女将さんが雨の中、「宿泊税反対」と書かれた布団をたたきながら、導入阻止を訴えた。

 そこで、地方分権で新しい自主財源がつくれるようにもなったこともあり、大阪市も税制委員会をつくるなど、法定外目的税をつくる動きが出てきた。有識者を座長にしていろいろ議論したようだが、そこに東京の銀行への外形標準課税導入やホテル税があって、影響を受けたようだ。
 大阪で検討されている宿泊税は、東京のホテル税と同様のものだ。
 税は、飲食行為を伴わない1万円以上の宿泊(素泊まり)の場合に、100円程度が課税されるという。東京の場合、1万円以上で100円、1万5000円以上の時は200円の税額となる。これで、東京では15億円、同様の税となれば、大阪は5億円の収入があるとされる。
 だが、旅館は1泊2食付が標準で、素泊まりはほとんどない。1泊2食で料金を設定しているところは、税務当局がどう素泊まり料金を認定するのかということもある。これは税務当局の戦術で、将来、税収を増やす方向で認定基準をつくるための布石だと思われる。
 現在のところ、課税対象旅館は決して多いとは言えない。ビジネスホテルでは、全体の半分程度だろう。だが、この税は、単にホテルを対象にしたものでもなく、十分、旅館も視野に入れているという認識を、われわれは持っている。従って、たとえ現在、対象旅館が少ないからといってまったく安心してはいけないと、会員旅館には警告を発している。

不平等な宿泊税に反対する

 そもそも、なぜこの不況の時期に、新たな税をつくる必要があるのか。
 第1、宿泊という行為にのみ課税することには疑問がある。消費税というものがあるのに、宿泊税ができれば、一種の「二重取り」ではないか。
 われわれからすると、1昨年3月末にやっと特別地方消費税(旧料理飲食等消費税)が廃止されたばかりだ。またこういう税をつくれば、各地にも飛び火するし、また将来、「1万円以上」という免税点が引き下げられる可能性がある。
 石原都知事は、「1万円以下の安いホテルをいくらでも紹介する」などというが、これは池田元首相の「貧乏人は麦を食え」発言と同じ発想だ。1万円以下の宿泊は「安物」だとでもいうのか。
 われわれ業者はいわば税の取立人になるわけで、お客さまの手前、とても耐えられない。税務当局からすれば効率的な税徴収法だし、徴税コストもかからない。だが、業者が徴収して収めなければ罰則がつく。また、お客さまに税の趣旨まで説明して、頭を下げなければならない。場合によっては、われわれが負担することさえある。
 税は、「観光振興」のための目的税だが、たとえそうであったとしても、これを契機に法定外目的税がいろんな形で出てくる可能性がある。しかも目的税といっても、実際何に使われているか、検証できない。
 このように、宿泊税には非常に問題が多いし、税の公平性の上からも反対だ。
 行政は、新たな法定外目的税をつくることに意義を見い出しているようだ。「自主財源確保」の名目で、課税を自主的にできることを望んでいる。要するに、取りやすいところからとりたいのだろう。大阪市だけでなく、全国的な問題ともいえる。
 この秋の市議会で増税案が出される可能性があったこともあり、われわれも運動を強めることにした。ホームページで署名を集めたりしながら、10月1日に街頭パレードを行い、大阪市に要請行動を行った。行動の主催は国際観光連盟近畿支部で、近畿2府4県から計130人が参加した。当日はあいにくの雨だったが、女将さんたちに着物を着てもらい、布団をたたくなどのパフォーマンスもまじえながら、パレードした。
 観光連盟としては、特別地方消費税に反対して96年にも東京でデモを行って以来の行動だ。宿泊税が完全に流れるまで、運動を続けていくつもりだ。


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