労働新聞 2002年10月15日号


 福岡県で10月7日、新たに結成された「県政の大転換21県民連合」(以下、大転換21)が記者会見し、同組織の旗揚げを発表、来る統一地方選挙における、県議会議員候補3人の立候補を明らかにした。国が地方犠牲の改革を進める中、これと闘う県政を実現するため、諸階層の広範な連合が求められている。こうした中、「大転換 」の発足は意義深く、その政策は示唆に富むものである。代表の中村哲郎氏に聞いた。

「大転換21」を結成した
理由について、お話し下さい。

 まず、2期8年続く麻生県政への評価があります。麻生県政の下、福岡県民の生活と営業は戦後最大の危機に瀕しています。
 いくつか実例をあげてみますと、県内の失業者は19万人にものぼり、完全失業率は7.1%で、全国ワースト4位です。ハローワークは文字通り、職を求める人びとがあふれている状況です。
 私が、ハローワーク前で行政の失業者対策拡充を求める宣伝を行うと、「娘も失業中。蓄えもなく、このままでは心中でもせんといかんと話すこともある」など、切実な声が寄せられます。こんな状況を放置する県政は許せません。
 失業者だけではないですね。労働者にはリストラが襲い、いつ失業するかと不安の中で暮らしているのが実際でしょう。賃金も上がらないどころか、下がるばかりです。
 中小零細企業も、倒産の危機や経営難にあります。貸し渋りや貸しはがしが増え、自殺者が増えているのは全国どこでも同じです。統計を見ると、1996年からの5年間で、県内の事業所は1万1533、4.7%も減っています。特に、製造業1950(11.6%減)、卸・小売・飲食店8409(7.3%減)などが目立ちます。
 農業も、麻生県政以降、1万戸以上が農業を続けられなくっています。
 地域間のアンバランスもあります。県下97市町村中、過半数の58市町村で人口が減っていますし、特に、周辺部地域が衰退しています。
 県財政もまた、完全に行き詰まっています。
 麻生知事が借金を積み上げた結果、県債残高は就任時の1.5倍、2兆円超と戦後最悪です。国の責任もあるでしょうが、県政の責任も問わねばなりません。

「大転換21」 呼びかけ人代表

●中村 哲郎(54歳)
 1948年生れ、長崎東高校卒、佐賀大学中退。労働党結成に参加。95年に「奥田県政の継承・発展」、99年には「福岡への一極集中政策の転換」を掲げ、福岡県知事選挙に立候補、99年に12万人余の支持を得た。行橋市選挙区より立候補予定。

●上村 和男(53歳)

 1949年生れ、三池工業高校卒、立正大学中退。福教組書記、全逓支部役員など労働組合運動を経て労働党に参加。現在、筑紫野市「障害」児・者問題を考える会副会長、むさしケ丘自治会副会長、筑紫野市社会福祉協議会福祉委員など地域活動に携わる。筑紫野市選挙区より立候補予定。

●大城 敏彦(45歳)

 1957年生れ、八女工業高校卒。福祉施設勤務。全国一般労組役員を歴任。地域で労働者・農民の連携促進の活動に取り組む。また「失業者ネットワーク」代表として、県知事に対して失業者の職の確保と生活支援を求める活動を、失業者と共に進めている。筑後市選挙区より立候補予定。

 知事は、一方で福岡新空港計画などのように、大型プロジェクトに税金を注ぎ込んでいます。他方で「財政再建」と称して、5つある県立病院や、学校をつぶそうとしています。自らの責任を棚上げして財政赤字の数字合わせに終始する、まさに官僚の発想です。
 病院・学校つぶしには労働組合も反対していますが、これまでも手薄だった県民サービスに大ナタを振るい、県民生活の危機にさらなる追いうちをかけているのです。およそ、県民の痛みなど分からない知事です。
 先ほど、失業者の方の話でも出ましたが、自殺者は急増し、ホームレスを余儀なくされている人も、目立って増えています。こんなことが続けば、将来に明るい展望を持てという方がおかしいでしょう。麻生県政の下では、福岡県民の生活と営業が破滅に追いやられることは必然だと言えるでしょう。

そういう中での統一地方選挙ですね。

 はい。国はいま、地方交付税の削減など、国、県、市町村の関係を根底的に変えようとしています。
 財界は、2010年までの地方交付税・補助金の全廃を掲げています。そのために、「地方分権」「税源委譲」などもっともらしいことを言っていますが、地方自治体は増税あるいは人件費削減や県民サービスの切り捨てで財源をひねり出せというのです。たとえば、経済同友会は、国庫補助金(3兆円)や地方交付税(21兆円)を廃止し、その分、個人住民税と地方消費税の増税で13兆円、地方公務員の削減などで8兆円をひねり出せば国の支出を削減できると、道州制の導入などとも併せ、2010年度までに完了せよと求めています。
 小泉政権も補助金、地方交付税、税源委譲による「三位一体の改革」を掲げ、4年間で改革を完了させると公言しています。
 このような中、どうやって国の犠牲転嫁から県民の生活や営業を守るか、県政がどういう役割を果たすかが大きく問われています。一言でいえば、県民の税金を誰のために使うのか、ということだと思います。
 麻生県政は、財政危機が進む中で、県民サービスを切り捨て、大企業のために従来型の大型プロジェクトを続ける財源を確保しようとしています。そうした「財政危機」対処型の県政を大転換し、県民生活の危機に対処する県政、県民生活を支援する県政に変えようということです。これまでの県政のあり方を改め、国に対してきちんとものを言わなければなりません。
 現在、本来県民の立場に立って県政運営をチェックすべき県議会には、見るべき批判勢力がありません。
 そこで私たちは、「大転換21」という新たな政治団体を結成しました。県民各層の危機を打開しようとすれば、一党一派では実現不可能です。広範な政党、政派、政治家はもちろん、首長、団体、個人といった、まさに県民的な大連合が必要です。「大転換21」は、危機にさらされている県民各層の営業・生活危機を救う県政を実現するため、大胆に行動します。
 「大転換21」は、「4つの大転換、12の政策」を掲げています。政策に全面的に賛同される方はもちろん、部分的にでも共感できる方であれば、いわゆる「保守、革新」、「現職、新人」を問わず加わっていただき、共に県会議員選挙を闘いたい。
 さらに、県会議員選挙だけでなく、県知事選挙をはじめ市町村長選挙と同議員選挙に立候補を予定する方、また、労働組合や業界団体、農漁業団体、市民団体、女性や青年、知識人の皆さんにも、広く連携して、県政大転換の流れをつくり出そうと呼びかけたい。

政策について、簡単に説明して下さい。
また、反応はいかがでしょうか。

 政策は「4つの大転換、12の政策」として掲げました。
 「4つの大転換」は、大まかに言えば、財政政策の根本的転換、大都市集中から大胆な分散化政策へ、大企業・大商業資本優遇の県政から大胆な弱者支援政策への転換、国のいいなりの県政から政府にも大胆に注文し、発言できる県政への大転換です。
 麻生知事が言うように、「社会経済情勢の本質」を見極め「県民の付託にこたえる県行政」をいかに展開するかが、問われていると思います。
 知事は、「国がこれまでのようには面倒をみてくれない時代、自治体を護送船団方式で守ってくれた時代の終わりでもある」、「地域間の均一性が失われ、行財政力、政策力の格差が現れる地域間の激しい競争の時代となることを認識する必要がある」、厳しい地域間競争に勝ち抜くことのできる「政策力の強化」が求められていると、述べています。
 これは一言でいえば、膨大な借金を抱えた国が、もう地方の面倒は見ないぞ、あとは自分たちでやれ、という無責任な話です。この点に、「変化の本質」があると思います。
 だからこそ、いままさに県民各層の営業や生活をどうやって守るのか、支援していくのかが県政運営の第1級の課題となったのです。
 新福岡空港を建設する財源があるのなら、県立病院や学校をつぶすとか、職員の人件費を削減するとかいわないで、そこにカネを回したらどうでしょうか。県職員もやりがいが出、県民にも歓迎されるのではないでしょうか。
 かつてない県民生活の危機をむかえているのですから、従来のやり方を改め、県の財政を大胆に県民の生活と営業を救うために、支援するために使う、国にもきちんとものを言うということが、政策の前提、基本となっています。
 立候補発表後、まだ日も浅いのですが、中間選挙で首長選挙を闘う候補者や議員さん、商工業者、学者や知識人などの方々に意見を求めていますが、「政策には共通するものが多い」という意見が多く寄せられています。
 商店街の方に会った際には、「外形標準課税反対はいいことだ」「県政は大胆にやらないと変わらない」という意見がありました。こうした意見は、心強いですね。
 また、目前にある衆議院福岡6区の補欠補選や福岡新空港問題や、大型開発が争点となっている福岡市長選挙に市民の判断がどう示されるか、注目しています。
 繰り返しますが、私たちは、「大転換21」の政策全体に賛同する人はもちろんですが、たとえその一部への共感であっても、あるいは「保守」「革新」や現職、新人を問わず、広く結集して県政大転換の大きな流れを実現するため、共に闘かうことを訴えます。

ありがとうございました。

4つの大転換、12の政策

<4つの大転換>
1、「財政危機」対処型の県政を改め、県民生活の危機対処型の県政に大胆に転換する。
2、大都市集中の県政を改め、大胆な分散化政策に転換する。
3、大企業・大商業資本優遇の県政を改め、中小企業、商店、農漁民、労働者を守る、大胆な弱者支援政策に転換する。
4、国のいいなりの県政から、政府にも大胆に注文し、発言できる県政へ大転換する。


中小業者を激励する中村代表

<12の政策>
1、県の財政、資源の無駄遣いを許すな。
 新福岡空港建設、五ケ山ダム、伊良原ダム、福岡・北九州の都市高速道路、苅田港・新松山地区埋立事業、東部中核工業団地等の不要不急の大型開発プロジェクトを即時中止・凍結し、緊急課題のために投資せよ。
2、県民生活の危機に追い打ちをかけるな。
 県立病院つぶし、学校つぶし、補助金カットなど県民生活に犠牲を強いる麻生知事の「財政構造改革」に反対する。
3、大都市集中ための道路政策をやめ、分散化と各生活圏を結ぶ交通ネットワークづくりに重点をおく。県営の公共施設もできるだけ周辺地域に分散建設する。
4、全市町村に光ファイバーを軸とした情報ハイウェイ網の整備。
5、農山村・中山間地の水資源涵養(かんよう)、自然環境、県土保全など農村の多面的機能を再評価し、ダムをつくり都市に水を引くのではなく、人が水に近づく政策を実行する。産廃・大型ゴミの不法投棄から自然環境を守る。
6、県独自の雇用対策事業として、緊急起債で5年間5000億円を予算化し、失業者の仕事の確保と生活支援を行う。
7、「これ以上の失業者をつくらない」ために、銀行・大企業の社会的責任を明確にし、倒産・工場閉鎖・リストラに監視・監督を強める。
 サービス残業根絶、年休の完全消化を保障させるよう行政指導を強める。
8、外形標準課税の導入反対。消費税免税点引き下げ反対。借入資格要件を大幅緩和、県が保証人となって、貸しはがしなどで危機を乗り切れない業者が誰でも融資を受けられる制度にする。
9、農産物価格安定のための制度を県独自にも拡充する。中山間地農家への所得保障政策をすすめる。「地産地消」の観点から公立学校・病院・施設での給食食材に県産農畜産物を優先的に使用する。
 諫早湾水門の長期開放と生活の場、有明海の再生を求める漁民への支援。
10、市場原理主義反対、「民営化」の名による民間資本の国家財産収奪・国民サービス機能の低下に反対。
 国民生活の安全保障のために、食糧の自給政策を国に要求する。
 産業空洞化対策を国に要求する。
 国は銀行、大企業並みに国民も救済せよ。
11、国主導の市町村合併反対。地方交付税、補助金切り捨てに反対。国は、市町村間で公共サービスに格差が広がらないよう地方税財源の充実を支援せよ。
12、自主外交、アジアの共生。ドル依存の通貨・金融政策からの脱却を要求する。



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