労働新聞 2002年10月5日号 1面

拉致事件利用した、
北朝鮮・朝鮮人民への
排外主義キャンペーンを許すな

日本政府は平壌宣言を誠実に履行せよ
早期の国交正常化を求め運動を

 日朝首脳会談以降、支配層は拉致事件を利用して、異常な朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)敵視キャンペーンを行っている。在日朝鮮人への人権侵害も続発しており、断じて許せない。拉致問題の解明は必要だが、それは「理性的で正しく、かつ『妥当な解決』でなければならない」(前号社説参照)。与野党問わず、北朝鮮に新たな要求を突きつけることで、国交正常化交渉を遅らせ、北朝鮮にいっそうの妥協を迫ろうという策動が強まっている。これは、北朝鮮敵視を続ける米ブッシュ戦略に追随するもので、わが国の進路を誤らせる。反北朝鮮キャンペーンに反対し、平壌宣言の履行を求める国民運動を巻き起こすことが、緊急に求められる。前田康博・大妻女子大教授と、佐久川政一・沖縄大教授に聞いた。

自主外交で国交正常化を
前田 康博・大妻女子大学教

 唐突な印象も受けた日朝首脳会談が「米国の手のひらの上」の事態というのは、わが国与党内にさえある。背景には、小泉政権独自の要求もあったろうが、米国が差し迫ったイラク攻撃との「2正面作戦」を避けたことがあるだろう。
 また、軍事優先のブッシュ政権の登場で、北朝鮮にも、経済的軍事的危機感が強まった。
 平壌宣言を考える場合に大事なことは、拉致問題の解決は重要だが、日朝間に残っているさまざまな懸案の1つだということだ。だからこれを交渉の「入口」にしてはいけない。
 マスコミなどが北朝鮮への猜疑(さいぎ)心をあおっている。これを「憎しみ」に転化させず、冷静に、理性的に解決しなければならない。
 核や大量破壊兵器の問題は、これが米戦略のお先棒を担いだ対朝要求であることは明白で、わが国があれこれ言うのは「おせっかい」にしかならない。米国と北朝鮮は休戦中とはいえ交戦国同士であり、ある意味、武装するのは当然だ。
 忘れてならないのは、平壌宣言については、日本側も国交正常化交渉開始という義務を内外に負ったことだ。合意内容は早期に行うべきで、それ以外のことは国交正常化の「出口」で解決すればよい。
 もし日朝交渉が「米朝交渉の進展待ち」ということになれば、日本はいつまでも米国の「露払い」を脱しきれない。国交正常化は、日本がアジアや世界の中で生きていく上で、多くの果実をもたらすはずだ。十月中の交渉は無条件で始めるべきで、遅らせることは国際公約違反になる。
 拉致問題を騒ぎ立てる石破防衛庁長官などは「交渉と正常化は別」と言っているが、交渉は国交正常化が目的であるはず。彼らは、北朝鮮と国交正常化をしたくないので、そう言っているに過ぎない。

平壌宣言(要旨)
1、2002年10月中に日朝国交正常化交渉を開幕する。国交正常化の実現に至る過程においても、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む。
2、日本は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人びとに多大の損害と苦痛を与えたことに、痛切な反省と心からのおわびを表明。国交正常化の後、日本が朝鮮に対して、経済協力などを実施する。また、1945年8月15日以前に生じた事由に基づくすべての財産及び請求権を相互に放棄する。在日朝鮮人の地位に関する問題及ぴ文化財の問題について、誠実に協議する。
3、双方は国際法を順守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認。日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題について、朝鮮は今後再ぴ生じることがないよう適切な措置をとる。
4、北東アジア地域の平和と安定を維持、強化するため、互いに協力する。朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、国際的合意を順守することを確認。また、朝鮮は、ミサイル発射のモラトリアムを03年以降も更に延長する。双方は、安全保障にかかわる問題について協議を行っていくこととした。

 わが国は、北朝鮮との間で「不戦の誓い」や「非核宣言」を結ぶような、独自の安全保障政策を実現する必要があるだろう。そのためには、対米追随の外交を転換する必要がある。

朝鮮人への人権侵害許せない
佐久川 政一・沖縄大学教授

 拉致が明らかになったことは、まことに残念だ。  だが、わが国による朝鮮半島からの強制連行や従軍慰安婦などの事実も、日本人として、また人間として、決して忘れてはならないはずだ。さらに、日米両政府が戦後、一貫して北朝鮮への孤立化政策をとってきたことも重大だ。
 沖縄には米軍基地が集中し、朝鮮半島や中国をにらんでいる。日朝の国交正常化が実現すれば、沖縄の基地重圧の軽減にも資することになる。その意味でも、国交正常化を急ぐべきだ。国交が正常化していないからこそ、さまざまな問題が起こる。
 また、脅迫電話など、在日朝鮮人への卑劣な人権侵害は許せない。朝鮮、アジアへのべっ視を克服し、近隣諸国との友好・共生を実現しなければならない。


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