労働新聞 2002年9月25日号 3面

全国で介護保険料引き上げへ
求められる自治体での闘い

 厚生労働省は概算要求において、来年4月からの介護保険料引き上げを前提にした予算編成を行っている。政府の政策を前提にし、介護保険の実施主体である市町村(一部は広域連合)は、軒並み保険料の引き上げを策動している。今秋から来年にかけて、各地方議会において、介護保険料の問題が重要な争点となることは必至である。すでに4月からは医療費引き上げももくろまれており、国民への相次ぐ犠牲転嫁は、断じて許されない。国民の命を「カネ次第」のものとする介護保険制度の抜本見直しを求め、国民負担増に反対し闘わなければならない。

 介護保険制度は、40歳以上の全国民から強制的に保険料を取り上げ(年金からも天引きされる)、介護が必要となれば、利用料の1割を負担して民間業者を利用する。行政が責任を放棄した、まさに「カネがなければ福祉を受けられない」制度である。
 保険料は3年に1度、見直しされるが、2000年4月の導入以来、早くも保険料の大幅アップが実施されるわけで、介護保険制度そのものの矛盾が露呈した格好だ。

国民犠牲、地方切り捨ての負担増

 厚生労働省によれば、65歳以上の介護保険料負担は、現在の平均月約2900円から11.3%アップし、約3240円になるという。引き上げをもくろむ自治体は全体の3分の2に達し、4000円を超える自治体も241に増加する(図)。
 中でも、いまでも全国でいちばん保険料が高い沖縄県では、47%もの値上げとなり、平均月5300円以上になる。住民の全島避難で生活難にある東京都三宅村では、現行の2.5倍にも跳ね上がり、月約8300円にもなる。ただでさえ避難生活で不安定な生活にある住民に対し、これはまさに「死ね」というようなものではないか。

介護保険は「痛み」の典型

中尾 元信・前特別養護老人ホーム職員

 介護保険制度は、もともと社会福祉への公的支出を削減し、受益者負担の安上がりなものに変えようという狙いから始まった。ある意味、福祉政策というより財政対策であり、戦後の社会保障政策を総決算するための先兵である。小泉首相が厚生大臣当時に導入を進めた経過もあり、医療費負担増や雇用保険削減など、現在の小泉改革、つまり米国流の「切り捨て政策」と一体のものともいえる。
 現在の保険料2900円というのは、国が当初の計画として「3000円以内」と指導した経過がある。つまり、3年ごとの見直しがあれば、上がる仕組みになっている。だが、その問題点はまったく指摘されなかった。
 また介護保険制度は、利用者が全体の4割を超えないことが前提なので、基盤整備が進んで利用者が増えれば、当然にも財政は赤字になり、保険料が値上げされる構造になっている。
 さらに、「社会的入院の是正」ということで、厚労省は180日を超える「入院の必要性の低い」入院に高額の自己負担を課そうとしている。介護保険はこの面の「受け皿」にもなる。当然、利用者が増えるわけで、保険料の値上げはもちろん、来年4月の医療費3割負担のように、サービス利用時の本人負担(現行1割)が2割、3割にならないという保証はどこにもない。
 また、介護ビジネスは公的責任においてではなく、民間企業が利潤を得ることを前提に取り組むのだから、高齢者の多い過疎地や離島など、採算性の低い地方ほど切り捨てられる。沖縄の保険料が高いのは、その典型だ。
 これはもう、制度自身が根本的欠陥をもっているといわざるを得ない。導入を推進した民主党などは、この事態をどう考えているのか。
 地方議会でも、介護保険料の値上げは問題になるだろう。大事なのは、介護保険だけの問題ではないということだ。「民間活力導入」といい、国は財政赤字を口実に負担を押しつけてくる。自治体は、住民に身近な福利厚生を提供する機関のはず。国の政策で始まったとはいえ、地方の財政構造を問題にし、命に関するサービスを自治体がどう認識するかが根本だろう。

 また、現行制度では、課税所得が年間250万円以上の高齢者は、基準額の1.5倍の割り増し保険料を支払っているが、この対象が、4月から200万円以上に引き下げられる。

 これらにより、全国民平均では、夫婦2人世帯で年間9万7220円の引き上げ、高齢者全体で約920億円もの負担増となる。
 40〜64歳の保険料については、まだ詳細は明らかでないが、厚労省は総額約1950億円の国民負担増を計画している。もちろん、利用料の値上げも予想される。
 また、保険料の半分は事業者が負担するが、長期不況の下で経営難にある中小零細企業にとって、この負担も膨大となる。
 もともと介護保険制度は、数々の問題点が指摘されてきた。コンピュータによる認定の問題や、保険料を支払っても必ずしも介護を受けられないこと、高齢者が多く財政規模も小さい地方では、「採算性」を理由に基盤整備が進まず、介護保険そのものが維持できないという問題もある。逆に、保険料は高くなる傾向が強く、これはまさに、「地方切り捨て」政策である。
 こうした問題の上に、負担増である。この結果は、「福祉はカネ次第」という介護保険制度の本質からすれば、必然的な結果でもある。
 このほか、医療費3割負担や年金引き下げ、雇用保険料引き上げなどを併せると、小泉改革による社会保障の負担増(増税)は、3兆2400億円にも及ぶ。

国・自治体による犠牲押しつけ反対

 この深刻な事態に対し、野党の見解はどうか。民主党は介護保険制度を積極的に推進してきたが、このような事態に至った責任をどうするのか。共産党は「減免制度の充実」のみを主張するが、介護保険制度の抜本見直しは求めず、事実上屈服している。
 各自治体は、10月までに最終的な介護サービス量を見込み、来年1月ごろまでに保険料を確定させる。自治体での闘いが求められている。何より、国に対し介護保険制度の抜本見直しを強く要求し闘わなければならない。さらに当面、国の無責任な政策に屈し住民に犠牲を押しつける、保険料引き上げに反対しなければならない。さらに、自治体、とりわけ権限の大きい都道府県は、国民の生活危機という深刻な現状にふさわしい大胆な予算の組み替えを行い、介護保険にとどまらず生活補助に財政を投入すべきである。
 介護保険料の値上げは、グローバリズムに対応した安上がりな政府をめざす改革政治の一環である。構造改革に反対し、国民生活を守る幅広い運動を巻き起こすことが求められている。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2002