労働新聞 2002年9月25日号 1面

東京

都心の中小業者が行動
景気回復・デフレストップ・金融政策の転換・雇用拡大 政府は貸しはがしをやめさせろ
国民経済守る広範な運動を

 一握りの大企業の意を受けた、小泉政権による構造改革、とりわけ不良債権処理は、中小零細企業に過酷な「貸し渋り・貸しはがし」を押しつけ、倒産や廃業、果ては夜逃げや自殺にまで追い込んでいる。一方、1部大企業には債権放棄が行われ、大銀行には血税投入と、まさに大判振る舞いだ。こうした中、中小犠牲の金融政策に抗議して、東京・中央区を中心とした中小業者1350人が9月3日、「景気復興アップ大会」とデモを行った(前号5面参照)。この大会を中心的に準備した、都心の若手経営者の声を掲載する。グローバリズムに対応するための改革政治に反対し、国民経済・国民生活を守る幅広い運動を巻き起こす上でも、示唆に富む内容である。なお、金融機関との関係上、匿名とした。


過酷な貸しはがしに抗議し、政策転換を
求めデモする中小業者(9月3日、東京)

小業者を殺す気か!
東京・老舗の若手経営者

 うちの店は創業数百年の老舗だけど、今回の「景気復興アップ大会」は、そうした老舗が中心になった。
 なぜかというと、老舗は皆、土地を持っている。バブルの時に地価が高騰したので、そのままだと、相続税を土地で物納せざるを得なくなる。そこで、「オフィスビルの需要が増えるので、相続対策にもなる」と銀行に言われて、皆ビルを建てた。

殺に追い込まれる経営者

 ところがバブルがはじけ、地価が83%も暴落した。坪当たり4万円だった家賃収入が、いまは半分以下で、あっという間に債務超過。しかも、金融庁が「不良債権の早期処理」を指導したので、「貸し渋り・貸しはがし」が襲ってきた。
 昨年、永代信組など5つの信用組合が破たんした。 取引していた中小企業の債務は、優良企業だろうと何だろうと、ほとんどが整理回収機構(RCC)に回されてしまった。信金・信組は地域の中小零細を支える存在なのに、事実上、無理矢理つぶしているからね。それで「貸しはがし」が厳しくなった。銀行は「債務超過だから貸せない。ビルを売って返済しろ」と言う。銀行は以前、ビルの賃貸料収入がよくて返済しようとしたら、「返さないでくれ」と受け取らなかった。世間は「貸し渋り」って言うけど、「渋る」っていうのはいくらかは融資すること。今はそれすらない。「貸しはがし」で取る一方。自分で「ビルにしろ」っていっておいて、手のひらを返す態度は、あまりにひどい。これじゃ、中小零細はもつわけない。
 老舗だけじゃないけど、店には「体面」っていうのがあるよね。何百年もやっている店が「危ない」と言われれば商売に影響するから、みんなじっと我慢している。銀行にひん剥かれてもひん剥かれても、耐えてるわけよ。それで倒産したのが、何軒もある。
 うちの周辺でもRCCに回されて、1億円で建てた工場を競売にかけられた人がいる。自分で1600万円で落札しようとしたら、どこで聞いたか、某社が1650万円で落札した。翌日、その業者がぬけぬけと、「2500百万円でどうですか」と売りに来た。われわれからすれば、RCCと悪徳業者が結託しているとしか見えない。
 知り合いでも、借りられないで3軒つぶれた。「3年で13億円返せ」っていわれたところもある。いくら日銀が金融緩和をしても、われわれのところに回ってこなきゃ意味がない。首を吊って自殺したある経営者の奥さんなんて、ぶら下がった夫の遺体を前に、「銀行の支店長に見せるから降ろさないでくれ」って言ったそうだ。
 かと思うと、大企業のダイエーには債務免除している。小さい佐藤工業やマイカルはつぶしているでしょ。ダイエーと比べると、マイカルは企業規模が半分だよね。
 いま、日本では年間3万人が自殺していて、そのうち7000人が経営者だという。ところが、約1万人いる交通事故の死者でも、事故を装って車や電車に飛び込んだりしている人がいるわけよ。涙ぐましいでしょ、自分に保険をかけて、会社や家を救うために命を捨てている人がいっぱいいる。それも自殺としてみれば、7000人どころじゃない。

小の声を聞き政策を

 政府はデフレ対策の特効薬がないので、口を開けば「不良債権処理」。小泉さんはブッシュ大統領に約束して、引くに引けなくなっている。米国の言いなりで、国民不在ではないか。銀行に資本注入したって、そのカネがどうなってるかっていうと、サラ金に回っている。テレビのCMや長者番付を見れば、それは一目瞭然(りょうぜん)。
 大企業は中国や東南アジアに行って、起こっているのが日本国内の空洞化。そういうことをやっているトヨタの奥田さんやソニーの出井さんに経済政策を聞くこと自体、もう間違っている。こう言っちゃなんだけど、「勝ち組」の大企業の陰で何人が首を吊ってるかってことだよ。日産の「史上空前の利益」だって、あんなもの、みんな犠牲から成り立ってるんでしょう。政府はもっと中小零細の悲惨な実態を聞いて、経済の舵取りをしてくれないと。
 景気対策なら、中小零細に直接融資すればいいと思うが、信用保証協会の融資はデタラメ。最近、限度額が4億円に上がったが、担保と保証人がなければダメだという。そんな人なら、カネいらないよ!
 ない人がほしいんだ。
 例えばね、マイカルの倒産でうちも被害を受けた。政府が信用保証協会から5000万円まで融資するというので申し込んだら、審査で「ビルの債務超過があるから貸せない」って。ふざけんなって!
 政治が、99.7%を占める中小企業を踏みにじったら、経済が立ち直るわけない。小泉さんはいろいろ言うが、改革の痛みをぜんぶ中小に負わせるなんて、無理さ。

携して運動を広げたい

 それで我慢しきれなくなって、立ち上がった。みんな不満を持っているから「この指とまれ」とやったら集まってきたけど、誰かが旗を振らなければ、こういうことはできない。始めてみると、われわれ中小零細企業だけの問題ではなくて、企業がつぶれて勤労者も失業し、サイフのヒモがきつくなっている。このデフレを何とかしないと、われわれの本業にも影響する。そういうことで、勤労者もわれわれ経営者も同じだということで、「金融政策の転換」と併せ、「デフレストップ」、「景気回復」、「雇用拡大」を大会のスローガンにした。
 政府・与党には言いたいこともあるけど、野党が頼りにならないし、要求するのは、やっぱり予算を付けられる与党が中心になってしまう。
 9月3日に第1回の大会を開き、900人の会場に1350人が詰めかけた。予想を超えたのは、皆困っているから。ひとごとじゃないわけ。
 行動はこれからも続ける。そうしなきゃ政治は変わらない。全国でも動きは出てくるだろうし、連携して大きな運動にしなければ。このままじゃ日本は終わってしまう。

 


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