労働新聞 2002年9月15日号 インタビュー

対米協力は日本の国益損ねる

アブドゥルワハーブ・M・ガザール
イラク共和国代理大使 に聞く

 同時テロから1年が経過した。アフガニスタンを侵略した米ブッシュ政権は「悪の枢軸」論を掲げ、イラクへの攻撃を画策している。しかし、これは欧州などから反発を招き、米国の国際的孤立も深まっている。一方、英国と並んでこれに追随しているのが、わが国小泉政権である。対米支援はわが国の国益を損ね、アジア、中東と共生すべき国の進路を誤らせるもので、断じて許してはならない。イラクの考え方や日本・イラクの両国関係などについて、アブドゥルワハーブ・M・ガザール・イラク共和国代理大使に聞いた(聞き手、秋山俊彦・労働党理論政策宣伝局長)。

−−米国はイラク、イラン、そして朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を「悪の枢軸」と名指しし、イラクに対する戦争策動を強めています。非常に乱暴で、好戦的な外交政策だと思いますが、これについてイラク政府、あるいはイラク国民の立場からの批判をお願いします。

大使 ブッシュ大統領は昨年の9月以降、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と言っていますが、これを裏付ける証拠はまったく提示されていません。むしろ米国こそ、イラクに対するだけでも、湾岸戦争以降数多くの悪行を行っています。
 第1の明白な証拠は、度重なる爆撃で、イラクの貯水場、電力施設、病院などを破壊しました。高齢者や子供約600人が収容された、避難シェルターまでも攻撃しています。
 第2の証拠は、米国が劣化ウラン弾を使ったことです。各国のジャーナリストも報道していますが、イラクでは白血病やガン、先天異常が続発しています。劣化ウランは数千年以上の非常に長い時間、影響が残ります。悪の犯罪そのものであり、証拠もはっきりしています。
 悪の第3の証拠は、経済制裁のために、医薬品や医療器具の輸入が禁止されていることです。国連で数千の契約が結ばれても、米国が圧力をかけ、ごく1部のものを除きイラクに輸入させません。
 このほかにも、米国の悪行は数多くありますが、「イラクが大量破壊兵器査察団を受け入れていない」という米国の言い分に、反論したいと思います。
 イラクは国連決議に協力して、1991年、兵器査察団を受け入れました。
 しかし、査察団は米中央情報局(CIA)のスパイで、大統領府や主要閣僚宅との通信を傍受するために盗聴器を仕掛けたり、攻撃対象を調べたりしました。これは、当の査察団の団長だったスコット・リッター氏自身が証言しています。このようなスパイ査察団を、受け入れることはできません。
 査察団は引き上げましたが、これはイラクが追放したのではありません。米国が「爆撃の12時間前までに引き上げろ」と命じたからです。実際、その後に爆撃が行われました。
 最近でも、イラクが国連の査察団を受け入れると表明しても、米国は難癖を付けてそれを阻止しています。21世紀に、とても信じがたいことです。


取材に応じる代理大使(右)と秋山・理論政策宣伝局長

児など150万人が死亡
経済制裁は残酷なテロリズム

−−経済制裁ですが、その現状や国民生活に与える影響はどのようなものでしょうか。これも、ほとんど日本国内で知られていないと思います。

大使 先ほど触れた薬、医療器具はもちろん、果ては鉛筆でさえも「含まれる鉛が軍事に転用できる」という理由で、輸入させません。「ミサイルの原料になる」と、バカバカしい限りです。
 制裁によって、イラクでは電力施設、水施設の設備も不完全です。水は処理が不完全なため、それで病気になってしまうこともあります。電力が不足していますから、1日のうち4時間は停電です。中国と電力や携帯電話の契約を結んでも、米国は圧力をかけてキャンセルさせています。
 経済制裁は、小学校から大学まで、学校教育にも大きな影響を与えています。机や窓ガラスが破損しても補充できませんし、大学ではほんのちょっとした実験装置でさえもありません。また、子供たちは家計を助けるため、学校へ行かず働かざるを得ません。
 こうしたことで、経済制裁は国民生活、イラク社会全体を破壊しているのです。  国連保健機構(WHO)の統計によっても、経済制裁ですでに150万人が死亡しています。これは幼児が多いのですが、医薬品や電力不足などが原因です。9・11事件では3000人以上が死んだといいますが、イラクにおけるこの実態は、はるかに大規模なテロリズムではないでしょうか。
 日本の多くの皆さんに、この実態をもっと知ってほしいと思います。

和外交で貢献を
米国追随は日本にマイナス

−−先日は、アーミテージ米国務副長官が来日しました。9月には日米首脳会談があり、日本は米国に協力を迫られています。また、政府は有事法制を次の国会で通そうとしているわけで、米国がイラクを攻撃すれば、日本も軍事面での協力を求められることになります。外交官としていいにくいこともあると思いますが、どうお思いでしょうか。

大使 日本が米国の政策に従えば、これは日本にとっても危険だと思います。
 米国がアフガニスタンを攻撃し、次はイラク、その次は…ということに従っていけば、結局それは、日本の国益が損なわれるのではないでしょうか。
 現在、イラクをはじめ、イスラム諸国は日本を尊敬しています。しかし米国追随が続けば、日本は第3世界全体で尊敬を失ってしまうでしょう。それは非常に危険なことです。
 また、歴史的に行きがかりのある中国、ロシア、韓国などは、日本が再び軍事大国になるのではないかと思うでしょう。そうなれば、周辺国と摩擦が起こりかねません。
 とにかく、日本への尊敬が維持されるようにしてほしいですし、特に技術援助や平和的外交などで、役割が果たせると思います。
 日本は米国と友好国なのですから、米国に対して、平和的外交をとるよう、促せるはずです。国連憲章や国際法に基づいてそれは可能ですし、世界のほとんどは米国の戦争政策に反対しているのですから、やりやすいと思います。
 日本がそういう道を示せば、世界中で尊敬されるでしょう。

−−日本国民の多くは、理不尽な戦争に反対していますし、中東・アラブ諸国と仲良くしたいと思っています。そういう日本国民へのメッセージをお願いします。

大使 日本の皆さんには、もっと戦争反対の声をあげてほしいと思います。欧州でもアジアでもそういう運動が起こっています。戦争になれば多くの人が死に、その損失は膨大なものになります。有望な才能も失われてしまいます。  日本人は平和を求める人びとですし、第3世界に対しても同情的な人びとです。ですが、アフガニスタンを爆撃するのは米国で、財政難の中で「復興」を支援するのは日本、こんな話はないではありませんか。ぜひ、世界的規模の平和運動に参加してほしいと思います。

−−ありがとうございました。


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