20020825

6県知事が「緊急提言」
高速道路問題など抵抗広がる

小泉改革打ち破る好機
広範な連携で反撃を


 小泉政権は、一握りの多国籍大企業の意を受け、安上がりな政治・経済システムを実現するための「聖域なき構造改革」を進めている。
 小泉改革により、貸し渋り、貸しはがしが中小商工業者を襲い、倒産が激増した。労働者は大量に街頭に放り出され、失業手当など社会保障の切り下げや、医療費増などの際限のない負担がのしかかっている。また、地方に対しては地方交付税切り下げ、市町村合併など、「まるごと切り捨て」が強行されつつある。
 一方、大企業には減税で、大銀行には血税投入と、まさに至れり尽くせりだ。  こうした中、岩手・岐阜・三重・和歌山・鳥取・高知の6県知事は8月7日、「これからの高速道路を考える地方委員会」の緊急提言(以下、「提言」)を発表した。
 これは、小泉政権が「道路関係4公団民営化推進委員会」(以下、推進委員会)などを使い、「採算性」の名のもとに道路公団の民営化、血税導入による債務処理、高速道路建設の一部凍結、通行料の永久有料化などを検討していることに反発したものである。
 「提言」は、「採算性」や「緊急性」だけを重視する小泉の道路政策を「地方の実情を直視し理解した上での、大所高所からの議論がなされているとは到底言い難い」と批判し、「将来の我が国の国土のあり方、国民の暮らし方に禍根を残す」としている。この見解には道理があり、支持できる。
 確かに、道路建設は長年、自民党を中心とした保守政党による利益分配型政治の一環であった。だが、現実にこれらは地域経済や雇用を支えている面もあり、一方的・性急な凍結・削減は、結果として地方の切り捨てとなる。
 いわんや、死に体となりかけている小泉政権とその改革政治の延命のため、猪瀬直樹らにセンセーショナルな民営化論をぶち上げさせ、地方に犠牲を押しつけるなど許されない。地方の反発は当然である。
 全日本トラック協会など業界もまた、高速道路料金の引き下げや道路特定財源維持などを求めている。こうした動きがいっそう広がることは、間違いない。
 グローバル経済下での多国籍大企業の利益のため、国民生活、国民経済を破壊する小泉改革に対して、広範な反対の戦線と行動を巻き起こそう。
 平井伸治・鳥取県副知事と、林俊治・岐阜県基盤整備部建設管理局道路建設課高速道路対策室長に聞いた。


地方の実情知らぬ推進委

平井 伸治・鳥取県副知事

 推進委員会では、地方の実情を踏まえない議論があたかも正論のようにいわれているのが残念だ。
 地域の実際の姿があって、そこに道路を建設すべきかどうかを議論するのが本来だ。ところが、推進委員会では「道路公団民営化」についての議論が全国の道路建設の問題にすり替わっており、重大な懸念をもっている。言葉上手に言っているが、行われている議論は単なる財政論だ。
 都会の人は、高速道路というと圏央道やアクアライナーのような立派なものを連想するだろうが、地方の実情は違う。鳥取県の場合は鳥取自動車道、山陰自動車道が議論になるわけだが、鳥取自動車道の場合、現在2車線で、大阪方面から来るにはこの道路しかない。
 つまり、これが途絶すると地域が孤立するという、日常生活で必要不可欠な、経済活動の基幹となる道路だ。
 この状況を、もう1本道路をつくることできちんとしたいだけで、しかも片側2車線に過ぎない。ところが、全部が東京のイメージで語られ、小説家が文章を書くような調子でいわれている。
 また、推進委員会は高速道路の永久有料化の方向も検討している。本来、道路は公共財だから、誰でも無料で自由に通行できる必要があり、整備は一般財源で行うべきだ。だがそれができないので、あくまで建設を促進する手法として、有料道路にしている。だから当然、有料の期間には限定があり、償還が終われば無料にして地域に還元する。事業体も解散すればよい。鳥取でも先日、境港大橋の通行料を無料にしたところだ。
 永久有料化の議論は、建設当時の趣旨をすべて忘れて、道路公団民営化後の企業がいかに食いつなぐかを考えて出されたものだ。推進委員会は考え方が非常に利益優先で、有料道路の趣旨を完全にはき違えている。
 道路は国民全体が歩いて、あるいは自動車で利用する。JRが「うまくいった」からといって、鉄道と同列に論じるべきではない。
 「提言」については、これからも6知事が行動を共にし、随時連携を強めていく予定だ。


公団民営化は許されない

岐阜県基盤整備部建設管理局道路建設課高速道路対策室  林 俊治室長

 まず確認しておくことは「高速道路は国の責任で整備する」ということである。高速道路は日本列島の動脈として国の根幹をなす施設であり、その整備は、国土経営、地域経営のための設備投資である。予定路線や9342キロの整備計画は、国が国民に約束したものだ。高速道路整備のあり方については、選挙民の負託を受けない1部の民間人の意見により決めるべきことではない。
 効率性を重視するための道路公団の民営化と株式上場については、株主利益の追求を第1義とすることで配当確保のため適正な維持管理が犠牲となったり、容易に事業からの撤退が行われかねないことから、認められない。
 都市で消費される物資は地方で生産され、運搬されたものだ。都市は、地方によって支えられている。都市を優先し、地方の高速道路を後回しにすることは認められない。