20020705

一部大企業優遇、大衆収奪に反撃を
小泉政権の大増税方針
各界からいっせいに批判


 政府税調の基本方針(6月14日)など、相次ぐ税制改革議論の最大の問題は、広範な国民への大増税である。一方で政府税調は、法人事業税への外形標準課税導入で一握りの大企業への減税をはかり、資産課税の分野で富裕層の生前贈与の非課税枠を拡大するなどの優遇措置を打ち出した。一部大企業、金持ちは優遇、大多数の国民からの収奪は、まさに小泉首相の「聖域なき構造改革」の税制版である。小泉政権が打ち出した大増税方針に、各界から強い批判の声があがっている。日本商工会議所や全国中小企業団体中央会など4団体は、連名で外形標準課税導入絶対反対を表明し、中小商工業者を狙い撃ちにした消費税免税点の縮小にも反対を表明した。不況、リストラに加え、健康保険負担増の動き、今回の大増税方針に、さらに各界から批判と怒りの声が出るのは必然である。こうした声を結集し、連携を深め小泉政治を打ち破ろう。主婦連合会・和田正江会長、全国商工会連合会・海老原正指導部長、日本消費者連盟・富山洋子代表運営委員の声を掲載する。


勝ち組だけが生き残る

主婦連合会長・政府税調特別委員 和田 正江


 1昨年に税調の中期方針となる答申が出ていますが、今回の基本方針はそれを受け継いでいます。経済財政諮問会議の答申も出ています。その全体を見て私が思い、政府税調の特別委員として会議でも発言したのは、今でも所得と資産の格差が開いているのに、政府の政策でますます開く方向になっていくことです。勝ち組がさらに勝っていく社会をめざしている気がします。そういう社会ででいいのかと、非常に疑問に思います。
 1昨年の答申の中で、「努力する者が報われる税制」といっています。今政府がめざしている「報われる税制」は、高額所得者が、せっかく所得を得たのに税金で持っていかれて働く意欲もなくなると、そういう説明です。
 特に生前贈与の問題があります。親が子供に赤子の時から最低百十万円ずつ渡して、子供は成人になるまでに相当の額を手に入れることができます。そういう人と、例えば学生時代の奨学金の返済やや、家のローン返済に追われる人とか、この差があります。
 「努力する者が報われる」が決して多くの国民が期待した意味ではない訳です。
 それから、複雑な控除を整理するのはよいが、中低所得者に急激な増税にならないような配慮が必要です。特に今は景気が悪くてリストラの心配を皆抱えているという時代にあってはなおさらです。
 消費税の所得に対する逆進性の問題は、「消費税だけでなく、税制全体、財政全体で判断することが必要」となっています。実は94年の答申で、税制の全体は累進制がきついのだから消費税の逆進性だけをいうのはおかしいといっています。今は税制がフラットになっていますから、その理屈は通らないと私は言ったんです。
 国税と地方税のあり方の問題もありますが、今のような税制のやり方で本当にいいのかと思います。
 介護保険の負担や健康保険法の改悪など、特に所得の多くない人には大変な負担になっている今だからこそ、なおさらそう思います。


弱者いじめの政治の象徴

日本消費者連盟代表運営委員 富山 洋子


 私たちは主権者として、税金は取り立てられるものではなく、国や地方自治体が私たちの望む施策を講じる担保がある時に、主体的に支払うものだと思っています。ですから、税制を決める際には、政府がこういう政治をやりますとの青写真をきちんと示してもらわない限り、支払う者としては納得できません。
 私たちが主体であって、何か政府税調や自民党がお墨付きを下して、それに従えという仕組みそのものに異議を申し立てたい。
 政府税調ですが、結局は私たちからもっとお金を取るということです。「公平な負担」という中に、競争の論理、市場の論理があります。
 広く薄くといって控除は見直し、あるいは廃止で、外形標準課税の導入で、赤字企業からも容赦なく取り立てるといっています。逆に資産課税については優遇措置を取る。これら全体を見ますと、やはり金持ちがどんどん金持ちになっていく、貧しい者はどんどん貧しくなる仕組みがきちんと位置づけられています。貧乏人には泣いてもらうと。所得税の課税最低限の引き下げも狙い、年金制度も改悪していきますよ、健康保険の負担増も決めましたよと。許せないことです。
 消費税は、私は消費税自身に反対です。反対ですが、最低限、食料とか暮らしの中で本当に必要なものは税率ゼロにすべきです。
 自民党の町村幹事長代理が6月29日の講演で、消費税について「もう少し景気が良くなれば上げさせてもらう」と言いました。税率を上げたいがために「景気が回復した」と、政府が意識的にかだれか御用学者にそう言わせるだけでこと足ります。本当に腹が立ちます。
 小泉首相は「聖域なき」といいますが、政治には聖域があると思います。障害を持っている人や、一生懸命生きている人の生活を保障するとか、高齢者が自立して暮らせるだけの年金を保障するとか、社会保障は聖域です。どんなに国の財政がひっ迫したとしても、そこはきちんと保障すべきです。保障できるような税金の使い方をするのが政治です。それを「聖域なき」といったところに小泉首相の腹の底が見えたと思います。
 幅広い運動で打ち破っていきたい。


実態無視の課税はだめ

全国商工会連合会指導部長 海老原 正


 政府税調の方針に「消費税免税点を大幅に縮小する」とある。消費税が導入される際に、売上高3000万円以下の事業者は消費税納税義務が免除された。その理由は、売上高が3000万円以下の事業者の約4分の3は個人事業者で、年間所得300万円以下の小規模零細事業者がほとんどで、消費税の価格への転嫁が困難なことからだった。また、徴税コストが税徴収に見合わないことも理由としてあった。
 それをマスコミは「業者が益税をふところに入れている」とあおっているが、誤解がある。
 1つは、5%全部が益税だという論調だ。
 例えば中小・零細業者が80円で仕入れて、粗利を2割上乗せして100円、これに消費税を加えて105円で売る。この5円が全部小売業者のふところに入っているとマスコミは書く。だが業者は、仕入れ時に80円の5%の4円の消費税を先払いをしている。益税を正確に書くなら、この場合は1円になる。
 だが、実際問題として、大型店や量販店との価格競争で105円では売れない。
 大型店や量販店は、量が多いから60円ぐらいで仕入れて、それを98円で売る。中小・零細の小売業者は、98円で物を売らないと太刀打ちできない。結局は値引きをして売らざるを得ない。税金をふところに入れるどころか、利益を吐き出して商売をしているのが実態だ。われわれはむしろ損税といっている。こういう現状を理解してほしい。
 免税の対象が3000万円以下も高すぎるのか。
 通常、小売業の粗利は2割程度で、600万円になる。そこから家賃を払う、給料も払う、税金も払う、子供がいれば学費もかかる。使える金は300万円程度というのが実際だ。夫婦を含め3人でやっている店で、300万円で暮らしていく。
 政府は、免税事業者数が368万、全体の62%もあって多すぎるという。数は多いが売上高は小売業全体のわずか2.5%にすぎない。
 しかも、368万の事業者が免税をはずされ、全部税務申告をすることになったら、税務署は職員を倍にしないと対応できない。ごく少額の消費税を取るために、それだけの人件費コストをかけるのが政策的に正しい選択なのかどうか。
 政府は、ただただ取れるところからは取ろうという、安直な発想だ。