20020515

有事法制に広がる反発・不安
自治体は戦争に協力しない

北海道砂川市 菊谷 勝利 市長に聞く


 小泉政権が成立を策す有事法制3法案は、地方自治体や指定公共機関、住民に協力義務を課すという、戦争総動員法である。米国の戦争に協力する同法案への反撃が全国で始まっているが、中でも地方自治体の首長・議会には反発・憂慮する声が多い。これらを幅広く結集し、国民運動へと発展させることが求められている。有事法制に反対の意思を示している、北海道砂川市の菊谷勝利市長に聞いた。


 すでに国会で有事法制3法案の審議が始まっているが、ここに至っても、砂川市をはじめ自治体に対する政府からの説明はまったくない。新聞などマスコミ報道を見ていても、「有事」に対する定義は非常にあいまいだし、この法律をつくる意義はよく分からない。
 だいたい、どこの国がどう攻めて来るというのか、よく分からない。そんなあいまいなものなのに、「備えあれば」ということで法整備を行ってよいのだろうか。 有事法制は住民サービスに逆行  もともと、自治体は憲法に基づいて住民のための町づくりを行っているわけで、有事に備えて町づくりをしているわけではない。橋1つにしても、戦車が通ることを想定してできてはいない。
 ところがこの法律が発動されれば、あたかも日頃から有事への「備え」があるかのごとく、突然に内閣総理大臣がさまざまな命令を行えるようになるというのは、いかがなものだろうか。台風などの自然災害とは違うわけで、これは非常に問題がある。小泉首相や政府は、各市町村の抱える実際の問題をつかんでいるのだろうか。
 国会で議論になっているように、もし自治体の「協力義務」や平時からの「訓練」が要求されるようになれば、通常の住民サービスにも影響が出ることは避けられない。そして、住民利益は、ないがしろにされることになりかねない。  こうしたことをやらせようとしているのに、予算措置はどうなるのかも、必ずしも明確ではない。
 命令に従わない自治体に対しては、罰則規定を設けるという。ところが、罰則の話ばかりはあるが、地方に何をさせたいかはまったく相談がない。報道によると、個人の土地を使うとか、地方公共物を避難・保管場所などにしてほかに使わせてはならないなどということがいわれている。いずれにしても、罰則規定そのものに問題があるし、そんな必要はないのではないか。  「訓練」を実施するようになると、国の予算を使うのだろうか。ただでさえ自衛隊は多額の後年度負担を抱えており、来るか来ないか分からない「有事」に対して、財政出動してよいのか。憲法違反の疑いもある。まして地方の負担で「訓練」など、絶対できるわけがない。いまでさえ、住民の生活を守るための財政がなくて苦労しているのだ。有事のことになど、財源がない。

自治体外交にもマイナスに
 かつて「55年体制」といわれた頃は、自民党や社会党をはじめ、憲法第九条に照らして自衛隊が違憲かどうかという議論がずっとあった。これが村山政権になって、何となく「合憲」ということになって、左から右に大きくかじをきった。そして、こんにちに至ってこういうことになっている。だから、今回の有事法制には経過がある。
 しかも、小泉政権は米国でのテロにかこつけて、何でもかんでも「やってしまえ」というようなもので、疑問点が多い。
 だからもう1度、戦後の憲法公布・施行当時の精神に立ち返って、憲法が実際に具体化されているのかということを見直してみることが大事ではないか。有事法制は憲法の平和主義や基本的人権の尊重に大きく反するものではないのか。
 また有事法制は、事実上米国の戦争に協力するもので、自治体としての外交活動にもマイナスの影響を与える。アジア各国との関係は、小泉首相の靖国神社参拝でこれだけ問題になっている。それに加えて、自治体も含めて有事対応するということになれば、大変なことになる。
 小泉政権についてだが、盛んに「痛みに耐えて」というが、「痛み」の後にどういう政治・生活があるのか、さっぱり分からない。むしろ、憲法をないがしろにしているように思える。
 有事法制については、各自治体首長から、多くの批判や疑問の声があがっているようだ。私も自治労の出身だが、かつてのように、労働組合も含めてもっと運動があるべきだ。
 砂川市では、一九七八年の日米防衛協力の指針(ガイドライン)締結当時、「有事立法と日米共同作戦体制に反対する」という趣旨の「平和宣言都市」を採択している。これからも自治体として、平和と住民生活を守る活動を重視していきたい。

自治体首長の反対・憂慮の声

長野県 田中康夫知事
 冷戦時代の攻撃を想定し、極めて時代遅れだ。あいまいでなし崩し的な有事法制は危険で、深く憂慮している。

大阪府 太田房江知事
 地方公共団体や住民に対する説明責任を国が果たしているといえるのか。

広島県・藤田雄山知事
 日本は被爆国であり、法整備では非核3原則を厳守すべき。

徳島県 大田正知事
 米国が仕掛けた戦争のために国民や自治体が動員される可能性が大きい。

高知県 橋本大二郎知事
 有事法制は『武力攻撃事態』の定義があいまいで、緊急性がない。

沖縄県那覇市 翁長雄志市長
 普天間代替基地15年期限問題の解決など、県民に指し示すものがないまま自治体に法を強制するのはいかがなものか。

沖縄県具志川市 知念恒男市長
 米軍基地が集中する沖縄では、さらに過重な住民負担を求められる懸念がある。

沖縄県嘉手納町 宮城篤実町長
 国が有事と言えばそのまま受け入れるのか。異議があれば立ち向かう勇気も必要だ。