20020101

書籍紹介

『非戦』
(監修:坂本龍一+sustainability for peace)

幻冬舎発行 本体価格1500円


テロの真実求めて発信

 この本が出版されたきっかけは、昨年9月11日に起こった米国同時テロとそれに続くアフガン報復戦争である。
 監修した音楽家の坂本龍一氏は、同時テロ以降大手メディアの流す報道の多くが米国寄りであり、「いかに僕たちが『真実』から遠ざけられているのか、改めて気づかされた」と語っている。
 坂本氏は友人たちとメールで情報交換を始め、この情報はメーリングリストへと発展した。この本は「一般のメディアではあまり目にすることのない、こうした声を少しでもたくさんの人に読んでもらいたい」との思いから出版された。
 この本には50人を超える世界の人びとの声が集められているが、日米の知識人や文化人、市民運動家が多数を占めている。ペシャワール会の中村哲氏、国連難民高等弁務官カブール事務所長の山本芳幸氏、ブッシュ大統領の武力行使を認める決議にただ一人反対したバーバラ・リー米下院議員、同時テロで犠牲になった人の家族、マドンナやGLAYのTAKUROの顔もみえる。
 発信者のだれもが同時テロに大きな衝撃を受け、なぜあの事件が起きたのか、ブッシュ大統領の対応はよかったのかと真剣に考え始めている。
 そして、同時テロの背景に米国の中東政策があること、米国こそが最大のテロ国家であることを多くの人びとが実例をあげて指摘している 。
 山本芳幸氏は、「米国の大統領が、われわれは自由を愛する平和な国家だと、テレビカメラの前で胸をはり、笑みを浮かべる。その笑みが私には文明の対極にあるもの、野蛮の現れとしか見えない」と述べている。
 また米国が進めるグローバリズムにも、強い批判の声があげられている。「世界人口の20%がこの惑星の資源の80%を消費している。ニューヨークへの攻撃が非人間的なものとみなされているのであれば、年間、1300万の子供たちが死ぬにまかせるしかないのを私たちはどのように言い表したらいいのか?」という声は、だれもがもつ素朴な疑問だ。
 人の足を踏みつけている人は、踏みつけられている人の痛みがわからない\\同時テロは踏みつけられた側の「痛い」という叫びだった。この本は、私たちが「踏みつける側」の国に生きているという現実を、強く自覚させてくれる。

  *  *  *  

 戦勝国は敗戦国に、自分の価値観や文化を押しつけてくる。戦後、日本はあたかも米国の51番目の州であるかのように、米国の価値観を無批判に受け入れてきた。しかし、同時テロ以降、米国を見る目は大きく変化してきたように思う。こうした本が発行されることにも、そうした変化が感じられる。文化面でのグローバリズムを進めているような印象を受ける坂本氏から、この発信がされたことも興味深い。
 クリスマスの夜、電車の中には若い恋人たちがあふれている。これも米国スタイルなのか。そんな中での若い女性たちの会話が耳に残った。「自由ってこわい。自己管理ができなくなるもの」。
 世界貿易センタービルの崩壊とともに、米国流「自由と民主主義」の虚構も崩れ落ちた。日本人は、戦後米国によって押しつけられた思考停止状態から目覚め、自立に向かって歩み始めなければならない。 (U)