20010225

セーフガード 業界が発動要請へ

地域経済に深刻な打撃

国産タオルを守れ


 タオルメーカーの業界団体である日本タオル工業組合連合会(吉原美秀理事長)は二月十六日、大阪市で臨時総会を開き、世界貿易機関(WTO)の協定に基づく繊維セーフガード(緊急輸入制限)の発動を政府に申請することを決めた。すでに、輸入繊維品の増大でタオル業界は経営危機にある。地域経済を守るためにも、政府がセーフガードを発動するのは当然であり、さらに国内産業を重視する経済政策を実現させなければならない。セーフガード申請などについて、宇高福則・四国タオル工業組合専務理事に聞いた。

 日本タオル工業組合連合会の臨時総会を開き、中国産のタオル製品に対する繊維セーフガード発動を二月中に経済産業省に申請することを決めた。
 正式申請は、昨年十二月のタオル製品輸入量を踏まえて被害状況を立証した後に行う予定。申請があれば、政府は二カ月以内に、調査に着手するかどうかを決める。
 同連合会によると、一九九九年のわが国のタオル輸入量は、十年前の三倍の五万一千トンで、国内生産量にほぼ肩を並べている。昨年一月から十一月までの輸入量は、前年同期比一六・六%増の約五万九千トンで、国内産にほぼ肩を並べたと思われる。全輸入品のうち、中国からの輸入が約八割を占め、ベトナムからの輸入も増加傾向だ。
 安価な輸入品との競争で、大阪府南部や愛媛県今治市周辺などの国内タオル産地は深刻な打撃を受けており、地域経済に深刻な影を落としている。
 中小のタオルメーカーの倒産も、相ついでいる。同連合会の加盟企業は、九〇年の九百二十五社から、昨年は半分以下の四百五十七社に減少した。
 繊維産業全体では、下請けなどを含めれば八八年に約十四万社あったが、九八年に約九万四千社に減少。従事者数も、二百五十九万人から百九十七万人に減った。
 吉原理事長は「国内タオルは百年に及ぶ技術の歴史があり、海外からの低価格品にはない質と技術をもっている。しかし、輸入の急増で、二〇〇三年には国内タオル産業は壊滅する恐れがある。われわれは『秩序ある輸入』を求めているに過ぎない」と、窮状を訴えた。
 タオル業界は五年前にもセーフガードの発動を申請しようとしたことがある。そのときは、申請のためには産業合理化の進展を見越した「構造改善計画」の提出が義務づけられていたため、果たせなかった。同業界などの運動の結果、この項目は今年一月に廃止された。
 タオル業界以外でも、輸入野菜増加のあおりを受けた農業分野では、セーフガード発動を求め、多くの道府県議会が意見書を採択している。また、フォークやナイフなどを生産する金属洋食器業界も、発動要請を行う構えだ。昨年十月五日には、日本綿スフ織物工業連合会などが三千人規模で「全国織物産地危機突破大会」を東京で開催した。


国内産業保護は政府の義務
宇高福則・四国タオル工業組合専務理事

 愛媛県今治市は、年間生産高約六百六十五億円、全国生産の約六〇%を占めるタオル産地だ。今治西高など、甲子園に出場した市内高校の応援では必ずタオルを使うので、知っている人も多いだろう。最近輸入されている中国産タオルは、国内産品の約四二%の価格だ。これではとてもたちうちできない。すでに、タオル市場の約五八%は輸入産品が占めている。
 マスコミなどは、われわれのセーフガード発動要請に対して、ユニクロなどが販売している安い外国産品が輸入できなくなり、消費者の利益と対立するかのように宣伝している。しかし、これには誤解がある。
 仮に発動したとしても、輸入が止まったり減ったりするわけではなく、発動年は前年並み、二年目と三年目は六%増にまで「抑える」ということに過ぎない。つまり、輸入量自身は増えるわけだ。しかも、有効期限はこの三年目で切れてしまい、あくまで「緊急避難」でしかない。この点がほとんど報道されていない。
 タオルは生活必需品であり、今治市周辺では家庭の内職も含め、幅広いすそ野をもっている産業だ。これが衰退すれば、雇用に甚大な影響が出てしまい、地域経済が死んでしまう。それが、さらに消費を冷え込ませることになる。
 われわれの自己改革が必要な面もあるが、こういう深刻な事態から地域や産業を保護するためにこそ、国があるはずだ。ある意味、「義務」といってもよいだろう。実際、米国は「自由貿易」を掲げながら、輸入数量制限など、国内産業を保護する措置をとっている。
 タオルだけでなく、国内の生産基盤を維持しておかないと、いざというときにすべてを外国にコントロールされてしまう。われわれは二月中に輸入品による被害の実際をまとめ、セーフガード発動を要請する予定だ。

四国4県のタオル業者数と従業者数の推移

【解説】セーフガードとは
 WTOの繊維協定に基づく輸入制限措置。輸入急増で国内産業に大きな損害が発生するかその恐れがある場合、「例外」として認められる貿易制限。当事国政府が調査開始を判断すれば、その後六カ月以内に発動するかどうかを決める。実施には手順が必要で、他のWTO加盟国との協議や、詳細なデータの提出などが義務づけられている。輸入制限は相手国を特定して行われ、期間は三年間。輸入量は、発動一年目は最近一年間の実績並み、二年目以降は六%程度の増加に抑える。相手国への対抗措置は認められていない。現在わが国政府は、ねぎ、生しいたけ、畳表の三品について調査中。なお、米国はすでに二十数件の発動を実施している。